今回の日本への出張の目的は?
今回は、ロレアル、P&G、花王、ライオンなどの企業と現在進めている複数のプロジェクトの連携をサポートするためにきました。
また、テラサイクルの日本法人が2014年にオープンしてから3年、国内でも数多くのスポンサー様企業のご尽力のおかげで、ようやく日本オフィスでも研究開発部門を立ち上げることができました。今回の出張は、日本オフィスの研究開発部門へのスタッフトレーニングとリサイクル工場の視察も兼ねて来日しました。
アーネルさんは何をされていますか?
私は商品開発に関わる「研究開発部門」の総責任者になります。例えば、ポテトチップスの袋からペレットを作ることや、使用済みの容器を洗浄し別の用途のプラスチックとして再生するプロジェクトを科学的なアプローチから研究しています。
私たちは、本来の用途を遂げたプラスチック製品が様々な工程を経て、新たな用途として生まれかわるプラスチックのことを「ストーリープラスチック」と呼び、その成果のひとつに、現在発売されているP&G社とHead & Shoulders(日本ではh&sブランド)のシャンプーボトルには我々が再生したプラスチック材が使用されています。
テラサイクル、ブリゲードプロジェクトはなぜ始まったのでしょうか?
その話をすると長くなりますよ(笑)
では少し歴史をお話しましょう。10年前に19歳のプリンストン大学の学生で、テラサイクルの創業者兼CEOのトム・ザッキーが有機物を多く含んだ肥料を作りたいと考えていました。そこで着目したのはミミズの糞。ミミズの糞は窒素を多く含み、肥料に合う事がわかったのです。
そこで、多量のミミズの糞を集めるのに使用済みのペットボトルに入れていました。そのうち、ペットボトルがどんどんたまってしまった。「さて、このたまったペットボトルをなんとかしないといけない」という発想が始まりでした。だから、今日のテラサイクルの歩みは、ミミズの糞がきっかけと言えるのです。
ミミズの糞はひとつひとつ、集めたのですか?
いえ、糞をひとつひとつ集めている訳ではありません(笑)。まずミミズが活動している土を集めます。そしてそれを水に漬けて、堆肥効果を上げるために添加物を加えます。そのため我々はこの液体のことを「tea(お茶)」と呼んでいます。
ミミズの糞からなぜ、プラスチックの再生へ?
ペットボトルを回収している時に社員から、ペットボトルだけではなくて他の容器も集めたらという意見が生まれ、そこから「廃棄物をリサイクルする」というコンセプトを思いつきました。
そしてポテトチップスの会社と提携する事になり、米国SPIコード(米国でプラスチック製容器の識別および材質表示方法)の「7」に該当する袋を集めるようになりました。それに続き、他の廃棄物の回収にも広げてゆきました。
当時、米国SPIコードの「7」で集められたゴミは埋め立てにするか、焼却していました。そこに着目してリサイクルを始める事になりました。焼却による熱リサイクルもやらず、すべての原料を再生する理念をテラサイクルは持っています。
日本にはタバコの吸い殻が多いです。
日本では大きな問題になっているようですね。
実は私がテラサイクルに入社して初めて関わったプロジェクトがタバコフィルターでした。タバコのフィルター部分を回収しペレット化するには6ヶ月の月日がかかります。洗浄、消毒が完了してからテストを受けるまでの期間に1年もかかりました。
つまり、タバコフィルターのリサイクルを成功するために、1年半の歳月を費やしました。当時はニコチンのフェノール含有率をテストする実験方法のシステムがありませんでした。テラサイクルの研究室では、ニコチンのフェノールを測定するシステムをアメリカで最初に開発しました。そのおかげで国が定める基準をクリアし、プラスチック原料として商品にする事ができました。
テラサイクルへの入社はいつですか?
2010年の2月です。2008年にテラサイクルがリサイクル事業を本格化させた2年後になります。
なぜテラサイクルに入りたいと思ったのですか?
私はデュポン、ジョンソン&ジョンソンなどのメジャーな会社に勤めていました。しかし、中規模で直接影響が商品に伝わるような会社に携わりたいという思いから2007年に退職しました。その時、テラサイクルの求人広告を見て、面接を受け、話を聞いているうちに会社を気に入り、入社を決めました。
テラサイクルを実際に気に入り、入りたいと思った理由は?
大手企業で培ったリサイクル技術を応用できるのが、すごく魅力的でした。「リサイクルはパズルのようなものだ」と、私は考えています。リサイクルされた原料を使うのはバージンマテリアルとは違い、使用済みの物をどうやって再生できるか、考える事がすごく好きです。
自然への意識などはありましたか?
はい、あります。自然から出たものを自然に帰す。最後まで使い道を考える。
アメリカNJの本社オフィスの中はリサイクル品ばかりなのですか?
コンピューター以外は全てリサイクルです。テーブル、デスク、床のカーペットも全てです。私の後ろは廃盤のレコードを吊るした壁になっていますし、CEOのトム・ザッキーを含め、オフィスは仕切りのないオープンスペースになっています。
どのようなものがリサイクルされていますか?
ペットボトルはすでにリサイクルのマーケットがあるため、テラサイクルでは扱っていません。我々は「これリサイクルできるの?」というカテゴリーでリサイクルを進めています。
例えば、紙オムツをペレットにする技術が今までで最も難しかったです。オムツは使用済みなので当然汚れています。そのままでは使えないので、どうにかして消毒しなくてはなりません。
そこで使用したのがガンマ放射線。これで消毒すると、ガンマ放射線の照射によってバクテリアを死滅させ、匂いがなくなり、後の行程に進める事ができます。そして、洗浄中に出た糞尿も捨てずに堆肥として再利用しています。
再生の過程に出るエネルギーの方が環境に悪い事はないのでしょうか?
テラサイクルはすべてのプロジェクトに関してLCA(Life Cycle Assessment)という環境負荷のレポートを作ります。LCAとは、リサイクルをするにあたり、プロダクトを作る行程の環境に対する影響および負荷を比べたものです。それを見る限り、リサイクルする行程は影響が少ない、という結論になっています。
リサイクル作業が全て外注という事で、外注先の姿勢などを調べますか?
テラサイクルは、化学分析の装置や機器については自社で所持していますが、リサイクルの加工用機器は所有していません。そのため、加工処理は提携先の工場に委託することになります。
提携先はもちろん秘密保持契約を結び、私自身が工場の安全対策マニュアル、処理工程など、直接現場に赴いてチェックしています。もちろん定期的な監査も欠かせません。
焼却するより、再生が環境への影響が少ないと言う事でしょうか?
焼却してしまうと、材料がなくなってしまいますし、化学物質が出てしまうので環境に負荷がかかります。しかし、回収して再利用すれば負荷は少ないという形です。
子供の頃は自然の中で生まれ育ったのですか?
オリジナルはジャマイカの出身です。それも田舎の方で、広大な森林の中で動物たちや自然に囲まれて育ちました。
そして1971年にアメリカに移住しました。アメリカの中でニューヨークのように大都会ではないデラウェア州を選びました。この街は私がジャマイカで育った環境に近かったのです。大学もデラウェア州の中で選びました。
大学卒業後の最初の仕事はデュポン社、国際的な医療機器の会社です。ここは、主に世界中で使われるプラスチックを開発している会社ですが、この会社でお金をもらって学ぶ事ができました。
「プラスチックスープの海」と言われるくらいマイクロプラスチックが海にあります。
海に捨てられる大量のプラスチックゴミは集まって塊をなし、海に浮く「プラスチック島」となってしまう恐れがあります。プラスチック島には魚など海洋生物が住み着くことがよくあり、生態系に悪影響を及ぼすします。
プラスチック島の処分は最も近い国家の責任と規定されていますが、多くの国は手を出さず、他国へ流れていくの待っているのが現状です。
しかし私は、企業が積極的にプラスチック島の解決に乗り出す必要があり、今後はプラスチックが海を漂流することによって、どのように変性または劣化するかを研究したいと考えています。
プラスチックを全く異なる素材にリサイクルすることは可能ですか?
タバコのフィルターはセルロースとアセトンを化学反応させてフィルターを作るのですが、セルロースを抽出できるのなら紙を作る事は可能です。だから吸い殻がセルロース素材ならば紙を作る事は可能なのです。
アメリカでも紙を作っていますか?
タバコ会社のサンタフェと提携し、灰皿や公園のベンチを作っていますが、「紙」はまだ着手していません。
しかし、今回の来日の目的のひとつでもあったリサイクル工場の視察で、素晴らしい技術と出会うことができました。「非木材」つまり、古布や食品用トレイからパルプを再生する工場の視察を行いました。この技術はアメリカに持ち帰って、ぜひ今後のリサイクルの推進に応用したいと考えています。
フィルターから紙のポスターができると聞きました。
我々が今試作しているポスターの、タバコのフィルター繊維の含有利率は10%です。今は少なめの比率ですが、これからどんどん含有率をあげる試みをしているところです。いずれ、タバコのフィルター100%の「紙」ができる事を期待しています。
再生が自然環境をよくするという事を読者に伝えてください。
自然界では廃棄物と言う概念がない。自然界から出てくる物はすべて自然界に変える資源として利用されるべきです。「人間もそこから外れるべきではない」がテラサイクルの理念です。
今までリサイクルがなぜ効率的にできなかったのか、それは技術がなかったからだと思っています。20年前は分別をする技術もありませんでしたから。
作る側も再利用までの考え方がなかったと思います。それが今は技術の進歩で実現できるようになりました。
リサイクルのペレットは何種類くらいありますか?
アメリカでは現在100種類以上のペレットを保有しています。ペレットは素材別で分けている訳ではなく、回収物ごとに分けています。例えば、ポテトチップスの専用の倉庫もありますし、歯ブラシ専用の倉庫もあります。
いろいろな企業に、そのペレットを商品化しプレゼンテーションを行っています。通常は20種類の基本ペレットを用意、顧客の希望を聞いて100種類以上保管してあるペレットの中から、その商品に合うペレットを混ぜ合わせて商品を開発していきます。
ペレットを売っている会社は様々ありますが、テラサイクルでは顧客の希望に合わせてペレットから商品を作るので、オーダーメイドペレット商品ですね。
例えば、ビーチクリーンで回収時に使われるビニール袋がゴミにならない方法はありますか?
日本では焼却を止めなくてはなりません。実は日本で作られるペレットは、焼却時の温度調整に使われるものがほとんどです。日本のゴミリサイクル率は約20%にとどまります。
資源からエネルギーを抽出して新しい資源にする事が、私たちの掲げている循環型のリサイクルです。