「チーム美らサンゴ」はどのようなプログラムなのでしょうか?
「チーム美らサンゴ」は綺麗な海が蘇るためにサンゴの苗植え付け活動を通じて、一般ダイバーやボランティアの方々に再生の一端を担っていただき、沖縄の海で起こっている変化を大勢の方に伝える事を目的としたサンゴ再生プログラムです。
2004年に結成された「チーム美らサンゴ」は、企業、地域住民によるサンゴの保全活動が中心となり、県内外の企業が協賛という形でお金を集めて運営資金としています。
チームの名前である「ちゅら」は沖縄の方言で「美しい」という意味で、美しいサンゴの海を取り戻す活動をしているのが「チーム美らサンゴ」です。
池野さんは何をされていますか?
私達はチーム美らサンゴが開催する公開植え付けイベントの予約受付から現場運営を行っています。ダイバーコース、ノンダイバーコースと別れる各コース担当のインストラクター・船舶確保等の事前調整、当日のサンゴレクチャー、そして1番は参加されるお客様の安全管理です。
代表取締役を務めている「沖縄ダイビングサービスLagoon」では、ダイビングメニューを中心に、シュノーケルやサンゴ植付けプログラムも常時開催しています。イベントの日程が合わず、参加できない方にもサンゴプログラムにご参加いただいております。
いつからどのようにスタートしましたか?
1998年に世界的な白化現象がおき、恩納村でも大きな被害を受けました。その翌年に恩納村漁協がサンゴの養殖を始めたのです。準備期間もありましたが、「チーム美らサンゴ」が正式に発足するのが2004年。
ボランティアの方を集め、環境省、沖縄県、恩納村などの自治体の後援や恩納村漁協の技術支援協力の元、続けています。活動としては14年目になります。
具体的にどのような活動をしていますか?
毎年5月・6月・10月・11月の年4回、沖縄県恩納村にて「サンゴ植え付け」の公開イベントを開催しています。ダイビングライセンス(Cカード)を持っている方はダイバーコースへ参加いただき、水中にサンゴを植付けます。
ライセンスを持っていない方はノンダイバーコースへの参加となり、ダイバーが植付けるサンゴ苗を作成したり、グラスボートやシュノーケルでサンゴの現状やダイバーの植付け風景を見てもらいます。
一連の水中プログラムとは別にサンゴレクチャーにて、サンゴの現状や生態について学ぶ時間や、陸上のサンゴ養殖場の見学を通して、「普段の生活の中で地球の為、海の為、サンゴの為にできることがある」ということを伝えています。
年4回のイベント以外でも全国各地で啓発活動を行っています。
どのくらいの方が参加されますか?
最大定員は各コース36名ずつです。しかし毎回、ダイバーコース、ノンダイバーコース共にキャンセル待ちの状況になっています。大勢の方が植え付けに参加していただいている状況です。
沖縄のサンゴの状況はいかがですか?
2016年にニュースで大きく取り上げられましたが、サンゴの白化現象は世界的な被害が出ました。その原因として、地球温暖化で水温が高かったこと、沖縄では7〜9月の夏時期に台風が少なかったことが理由とされています。特に被害が大きかったのは石垣島周辺でした。(1部エリアでは70%以上死滅したと報告されています)
我々がサンゴを植え付けている沖縄本島恩納村万座エリアでも、かなりのサンゴが白くなってしまいましたが、秋になって水温が下がり始めると多くのサンゴは元の状態に戻りました。
サンゴはイソギンチャクやクラゲと同じ刺胞動物の仲間で、触手を使って海中のプランクトンを捕食します。体内に共生する褐虫藻(植物プランクトン)は、光合成で出来たエネルギーをサンゴに供給しています。サンゴが白化するのは、主に共生する褐虫藻が抜けた状態と言われています。
高水温が続くと褐虫藻がサンゴから出ていき白くなります。白くなったばかりのサンゴは必死に生きようとしていますが、得るエネルギーが減少し、次第に弱ってしまい、この状態が長いとサンゴは死滅してしまいます。
美らサンゴさんの植付け場所はどのへんでしょうか?
基本は沖縄本島の恩納村万座湾内(トベラ岩周辺サンゴ畑)で植え付けています。
今までどのくらいの面積に植えたのでしょうか?
正確にはわかりません。それは活動当初に植えた分の生存率が低く、同じところに再度、植えたりもしているからです。
サンゴを植える間隔も関係していて、広く植えると面積も広がります。チーム美らサンゴだけでいうと100メートル四方ぐらいでしょうか。
チーム美らサンゴとは別に恩納村漁協が植えているものは、さらに広大なエリアになります。
今までの植付けは何回くらいおこないましたか?
年4回、今年で14年目になりますので50回を超えてきました。ノンダイバープログラムを始めた2006年から、ライセンスを持っていなくても参加出来る制度になりました。2016年には植え付け総数が6000本に到達しました。
どのような植え付け方をしていますか?
四角柱の約10センチのスティック型基盤(主材料は沖縄産天然砂(琉球石灰岩)と海水由来のマグネシウム系固化材)に枝分けしたサンゴを針金で固定します。これをサンゴ苗と呼んでいます。
固定したサンゴ苗はすぐに植付けるのではなく、海中の中間育成棚で半年ほど成長を待ちます。スティックにサンゴがしっかり固定されるまで待ち、このサンゴ苗を参加者に植えていただきます。
この基盤にはステンレスのネジが5センチ程出ています。イベントの数日前の段階で、恩納村漁協で水中にサンゴを植付ける穴あけ作業が行われます。その穴にサンゴ苗をさす方法が最新の植付け方法です。
植付けるサンゴはどうしているのですか?
天然のサンゴを採取するには許可が必要です。約20年前に許可を取って採取したサンゴを親(母)サンゴとして育て、枝分けしながら養殖をスタートしました。
現在はその親サンゴから植付け用のサンゴ苗を採取しています。要するに「クローン」なんです。植付けている種類としては「ウスエダミドリイシ」や和名がついていませんが、「ドネイ」「バランヤンネシ」この3種類は天然サンゴも多く、この海域での生存率が高い事が理由です。
植付けたサンゴが成長して産卵することを確認できました。その時に初めて、この活動に一連性が出てきたと実感し感動しました。
親サンゴの枝をポキポキ採取してしまったら、どうなってしまいますか?
枝を折って採取する訳ですから短くはなりますが、それがサンゴの生死に関わる事はありません。時間がかかりますが、ゆっくり成長して元に戻ります。
しかも親サンゴは畑のようにたくさん養殖しているので、ひとつの株からギリギリまで枝を折ることはありません。
なぜ昔のやり方をかえたんですか?
モデルが無かったので、色々試行錯誤をしてきました。やり方を変えたのは生存率が低かったからです。以前はサンゴの苗作り時に、サンゴを横に寝かせて針金で固定していました。横に寝かせたサンゴは上に立ち上がろうとするため、どうしても成長が遅くなっていました。
今はスティックタイプに縦の状態で苗作りをしているので、今までより大型のサンゴを付けることができるようになり、生存率が向上しました。大きさでいうと昔は3センチ程でしたが、今は10センチくらいです。
植え方にも工夫していて、自生のサンゴがあり、サンゴ同士の間隔、生存率の高いエリア、条件が整った場所を選んで植えています。
おかげで最近の生存率は90%以上になりました。しかし、去年は特別で、白化現象の影響で65%に落ちてしまいました。
チーム美らサンゴとして、予算の限り続けるということですか?
そうなると思います。現在の協賛企業数は全部で19社(インタビュー時)になりました。これは過去最大で、その予算をどのように使っていくか、企業間同士が連携し、どのようにこの活動を広げていくか、というのが今の課題です。
目標はあるんですか?
何本植えようとか目標はありません。しかし、本数を重視している企業の方もいらっしゃる。例えば、「今年は何本植えたい」というようなご意見もあります。
しかし私としては、まずはこの活動をより多くの方に知ってもらい、参加いただくことが目標です。
実はこの活動はリピーターの方が多いんです。年4回のイベントに必ず参加する方もいます。最近はキャンセル待ちが発生するほど人気です。
正直、インストラクターを大勢雇って、大規模なイベントにすることも不可能ではありませんが、気持ちと知識のあるスタッフで参加者を迎え入れたいのと、安全上の理由でこれ以上参加者を増やすのは難しいかなと思っています。もしやるのなら、年4回から5回に増やすのはできるかもしれませんね。
年4回の植え付け楽しみですね。
そうですね。植えた時から大きく成長した姿を見守るのは嬉しいですし、それを参加者にも見ていただきたいという気持ちがあります。リピートされる参加者との再会も楽しみの1つです。
イベントと別での楽しみは、サンゴの産卵の時でしょうか。この活動で植えたサンゴの産卵が2012年に確認できたんです。それ以降は、植えつけたサンゴの産卵が毎年確認できています。
2017年はあと2回の公開植え付けを予定しています。10月14日(土)・11月11日(土)の2日間です。
今、沖縄の海には何が必要でしょうか?
物というよりは「気持ち」でしょうか。ダイバーは基本的に、海の生物にとっては邪魔者でしかないと思ってます。水中生物の写真を撮影する時に、足下でサンゴを蹴ってしまうなど、気が付かないところで水中生物に危害を加えているんです。
ではダイバーが海のために何が出来るか、サンゴの植え付けや、水中に落ちているゴミを拾うなど、少しでも恩返しすることだと思っています。人間の影響で地球温暖化になり、サンゴの元気がなくなっているとすれば、「地球のために何かやらないといけない」という気持ちです。
だから「海に何が必要か」という質問には、人間の少しの気遣いや気持ちが必要だと思います。