今、あなたの力が必要な理由

vol.19

自然の中で豊かな感受性を持つ子供を育てる~保育が地方の担い手を産む「新しい森の活用」とは~

内田幸一

内田幸一さん- Koichi Uchida -

野あそび保育みっけ 園長、NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事長、長野県野外保育連盟 理事長

信州飯綱高原のネイチャーセンター&冒険あそびの森を拠点に、幼児・青少年の自然体験教育活動を展開。これまで30年以上にわたり、自然の中での保育活動を実践。

1983年に開設の子どもの森幼児教室は2005年学校法人立のこどもの森幼稚園となり、新たに南信州の飯田市に認定こども園野あそび保育みっけの開園を準備中。

現在、「全国森のようちえんネットワーク連盟」と「長野県野外保育連盟」の代表として、森のようちえんの普及と理解促進のための活動を行う。

先生は何をされていますか?

私は長野県飯田市で「野あそび保育みっけ」という森のようちえんの園長をしています。また、NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟の理事長として、ネットワークの運営に携わっています。

ネットワークは、これまでは緩やかな会員の交流や情報提供を行ってきました。最近は、森のようちえんを行う団体も増えてきて、さらに保育の質の向上が求められてきています。

また、研修会の実施など対外的な仕事が増えてきたこともあり、今年4月にはNPOとして法人化しました。行政などとの折衝や、外国の森のようちえんとの連携の仕事も多くなりました。

デンマークで始まった森のようちえんですが、どこに魅力を感じましたか?

私はヨーロッパの「森のようちえん」の影響を受けているわけではありません。

1970年代、80年代にかけて、東京の幼稚園の保育者をしている時代がありました。その当時は経済成長の絶頂期だったので、早期教育にお金をかけるなど、幼児期の教育もある種の偏った積極さがありました。

しかし、私はそのような教育が本当に子供の幸せに繋がるとは思っていませんでした。子供にとって何が大切か考えると、自分達が子供だった頃に体験してきた「自然とのふれあい」である事に気付き、自然保育を始める事にしました。

北欧などを旅行している時、子供達が、森や野外などの自然で遊んでいる場面にも遭遇し感銘しました。その頃の日本は自然離れが進んだ時代で、教育でも上から知識のみを教えていくタイプのスタイルでした。

まさに子供達が伸び伸びと過ごす事から遠ざかっていく時代。ヨーロッパの子供達の姿を見た時には、子供らしい姿だなと。自然と融合しているという感覚がありました。

なぜ長野に森のようちえんを建設したのですか?

東京で開園するには金銭的に実現が不可能なので、地方に行く事にしました。私には子ども時代に見た原風景のようなものがあり、それは都内では環境的になかなか求められない。ならば、地方に出れば時間を遡る事ができると思ったのです。今は移住といっていますが(笑)

積極的にその自然を利用して幼児教育を行うなんて、その当時はまだ誰も考えていなかった時代でした。そんな時代に、たまたま自然保育を発想し、始める事になりました。

1983年に森のようちえんがスタート、その後大勢仲間が増えました

他の団体と繋がり始めたのが、十数年前です。森のようちえんがマスコミで取り上げられはじめ、全国に僅かですが、類する活動をしている団体がいる事が分かってきたので、段々と繋がっていきました。

そして、今から13年前に運営者が集まって第1回目の「森のようちえん全国交流フォーラム」を開催しました。そこで初めて、みんなが顔を合わせました。

その時の参加者は80名くらいでしたが、団体として数えると、森のようちえんを行っているのは4〜5団体くらいでしょうか。現在では、日本全国で200団体を越えています。

自然離れが進んでいます。自然に接していないと子供はどのように育ちますか?

子供達には、自分の感覚でいろんなものをつかみ取ってもらいたいです。特に幼児教育は、身近な動植物など様々なものに出会い、発見しながら、いろんな刺激を受けますよね。

そのような事を経験していない現代の子供達は、与えられるものにはうまく対応できるのですが、偶発的に起こる事にはどうしてよいかわからず、どう対応したらいいのか慣れていません。つまり、自分で考えて行動することが苦手です。

ではそのような自然と接していない子達が入園してくると、どうなりますか?

そうした経験の少なかった子供達でも自然の中に出れば、当然偶発的な事に出会います。最初はとまどっていますが、 段々と子供は慣れて行くのです。そうなれば自分の興味のあるものに繋がっていきます。

そもそも未就園児ですから、ゲームなど今のメディア機器に接する前の年齢の入園になります。森のようちえんを指向する親達は、今の社会状況の中、ゲームやメディアなどから子供達を少し遠ざけながら子育てをしたいと考え、森のようちえんを選ぶ傾向にあります。

子供達も最初は自然に対して不慣れですが、時間が経てば慣れてきます。そうすると、目の前にある自然があたりまえだと思うので、雨が降ろうが風が吹こうが、抵抗感はなくなります。

内田さんの園は長野ですよね。園に入れなくても周りは良い自然環境では?

田舎に住み、目の前に自然があるからと言って、子供達が自然に触れているとは限りません。親も、目の前に自然があるため、わざわざ自然の中に出さなくたって子供達は体験しているのだろうと思っていますが、実際の遊びはビデオやゲームだったりする訳です。周りに自然があるから当然だと思っても触れていないので、宝の持ち腐れになっています。

だから、場所が田舎でも全然関係ないのです。

それに、昔みたいに「外に行って遊んでこい」という時代ではなく、今の親達は「遊び惚けているとろくな大人にならないぞ」という感覚で育てられた人達ですから。

最初の子供達はもうずいぶん大きくなった?

最初の卒園者から30年以上たっているので、6歳だった子供が35年経つと、もう40歳を越えていますね。私の園で卒園した子供達は全部で500人くらいです。

森のようちえんで学んだ子供は素敵な大人に?

素敵な大人かどうかわかりませんが(笑)
傾向としてあるのは、子供の時に自然と触れあった子供達は、人と繋がる仕事をしている事が多いのではないかでしょうか。

教育や福祉、社会活動などに従事している人が多い傾向としてあるように思います。海外のNGOに参加し、貧しい国の支援活動をするなど、自分の持っている可能性を社会貢献に使おうとしている人も多いです。

森のようちえんには、どのような形態があるのでしょうか?

毎日やっている園もあるし、週末だけやっている園もあります。季節により何回かやっている園もあります。森のようちえんの形態は、運営者の実態にあわせたタイプがあると言う事ですね。毎日運営する日常型のタイプはまだそんなに多くありません。

ちなみに、お母さん達が自主運営しているところもあります。子育てグループで野外に出て遊ばせる自主保育と言う形態で、これは週1〜2回くらいから始まるようです。

森のようちえんは都会でも出来ます。信州のような大きな自然がなくても、自分達の回りにある公園でも出来るのです。

子供は自分達が何か発見できれば良いのです。それに気がついて、興味を持ってくれれば、子供の中から生まれてくる興味、関心を育てるという事になります。基本的には教えるのではなく、「自分で感じとって自分で行動しよう」という事をやっています。

自然がお手伝いをしている訳ですから、自然の大小はあまり関係ないのです。保育者は子供達が気づく物に対して、共感的な関係を作り丁寧に接していけば、たとえ街中でも、子供達はいろんな物に興味を持って自ら動くようになります。

森のようちえん全国ネットワーク連盟の課題は?

森のようちえんはオープンなものなので、誰がやっても構いません。開園するための制限もありません。国が認証している訳でもないので、それぞれが任意でやっています。

しかし、ここまで大きな団体に成長したので、事故の心配や危険への備えなど、安全管理や子供への向き合い方、教育のやり方など、全ての団体で充分行われているのか、現在は把握できていません。連盟としてしっかりした基準を作っていくことも議論を初めています。

国の制度に乗らず、国の認可が下りないと聞きました

そうですね。現状では国の制度には乗りませんし、認可の対象ではありません。

しかし一部の地域の行政では、森のようちえんがある事で、子育て世代が地方に移住してくれるという期待感があります。森林は、今までは材木資源の利用など、経済としての森林でしたが、林業が盛んではなくなると、森が荒れてしまう。

そのような状況の中、森の活用のひとつとして、森のようちえんも考えられる様になりました。森のようちえんがあると、自然の中で子育てをしたいと思う方が地方へ移住し、森林を理解してくれる人が将来的に増える事は、森林行政にプラスになると考える傾向にあります。

実際に長野県では、豊かな自然環境や地域資源を積極的に取り入れた保育の普及を図ることで、信州で育つ全ての子どもが、心身ともに健やかに成長できる環境を整備し、「子育て先進県ながの」を実現するために、「信州型自然保育認定制度」を創設しており、私たち「野あそび保育みっけ」も信州型認定保育園として活動しています。

しかし、国には現行制度があり、森のようちえんをそのまま国が認可する事はありません。

認可がない事の問題点は?

園側としては、財政的支援がないため、各森のようちえんは親から頂く保育料で運営しています。財政規模が小さいため、運営上なかなか大変です。それが森のようちえんの大きな課題です。

今まで苦労はありましたか?

苦労はやはり運営費の問題ですね。森のようちえんは毎日受け入れている園で、1ヶ月で頂ける保育料は平均3万円くらいです。例えば20人しかいないとなると1ヶ月60万円が財政基盤です。これで人経費、経費を賄うことは大変です。公的な補助を受ける事ができればいいのですが、現状では難しい。

だから財政的な課題が一番大きいですね。そこをどう打破するかというのが、私が何十年も続けてきても難しいことです。

これからの目標は?

森のようちえんを認証してもらえるよう、国や地方自治体に対しても働きかけをしています。それから、日本の現行制度をうまく利用した新しいスタイルの森のようちえんを実現化していきたいと思っています。

現在、森のようちえんに入園したいという方も増えていますので、受け皿をキチンとしていかなければなりません。そのために安定した運営ができればと思っています。誰がやってもリスクなく出来るように求めていかなければなりません。

11月3〜5日まで「全国交流フォーラム イン 東京」が開催されます

第13回目となる、森のようちえんの全国規模のフォーラムを行います。日帰り参加も出来ますので、多くの方たちに気軽に参加してもらいたいです。保育従事者や学生、自然の中での子育てに興味がある親御さんなど、どんな方でもご参加できます。

いつも遊んでいるお気に入りのツリーハウス

森で見つけたキノコ「竜のウロコみたい!!」

大きなアオダイショウにみんなビックリ。でも興味津々!!

「へんな虫いたよ」「これなあに?」

崖登り、木の根っこにつかまれば大丈夫

クワの実採るぞ!!

タケノコ見て!!

ちょっと見せて、これヘビの皮だよね

木いちごたくさん採れたよ

今年は木いちご豊作だね

川あそび、「河原の砂温かいよ」

「砂のお城」壊しちゃえ!!!

「おい!ここすごい流れだぞ」

蜘蛛の巣の様に張られたネット、捕まえていいよ

このまつぼっくり開いていないよ

たき火大好き「火遊びするとおねしょするんだよ」

たき火をして森に散らかった枝を片付けるのもみんなの仕事

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

森のようちえんの運営者達は、厳しい環境のなか、「現代社会に置かれている子供達の状況に対して、真摯に向き合っている」という事を是非知ってもらいたいです。我々は既存の幼児教育の批判を言っている訳ではありません。

まじめに子供達の未来を考え、この活動をやろうとする人達がおり、子育ての選択肢の一つに、森のようちえんという自然保育の方法があることを、知って頂きたいと思っています。

先生の想い

今子育てしている人達の多くは、安心した子育てをしたいと思っています。しかし、不安は尽きません。その不安を少しでも解消出来るようにできたらいいなと思っています。

その選択のひとつとして森のようちえんは「楽しい子育てができ、子育てが喜びにかわる」と思っています。11月のフォーラムや、お近くの森のようちえんに是非参加してみて欲しいと思います。

赤いキノコがあるよ!

私にものせて!!

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com