井上さんは何をされていますか?
東京ボード工業は、工業製品名の「パーティクルボード」を木材チップから製造しています。チップの原料は全て廃棄物木材です。廃棄物処理と運搬の免許を持ち、「分別回収」と「廃棄物処理」「製品製造」「納品」まで一貫して、全て自分たちで行っている会社の社長をしています。
パーティクルボードとは何でしょうか?
木材を一度小方化(チップ化)し、これを安全、健康面に配慮した低ホルマリンの接着剤で再結合させた木質ボード製品(JIS工業製品)のことを言います。凡用性が高く、遮音・断熱性に優れるなど多くの特徴があり、最近では応用範囲も広く、私たちの生活の身近なところで数多く利用されています。
普通の木質ボードとパーティクルボードの違いはなんですか?
MDFという木質繊維を固めた繊維板や、丸太をカツラ剥きした単板の繊維方向を交互に合わせた合板もありますが、パーティクルボードは、原料の幅がより広くなり、木質廃棄物が原料でも作れます。合板や繊維板は、ある程度木材を厳選しなければ作れないため、原料の優位性はパーティクルボードの方が圧倒的に高いのです。
いつからこの試みを始めたのですか?
元々は、昭和22年創業の山陰ベニヤ工業株式会社という合板のメーカーでした。しかし昭和58年、木場から新木場移転時に4社の合板メーカーが合併したのをきっかけに、東京ボード工業に商標変更し、パーティクルボードの製造を新木場で開始しました。
昭和の頃、新木場では木材業が栄えていました。隅田川や荒川沿いに合板メーカーがたくさんあったので、木工場から出る廃棄木材をもらったり、購入するなどしてボードを作り始めました。
しかし時代とともに、木材業や合板メーカーの廃業・移転があり、原料が手に入りづらい状況になってしまいました。当時、工場長で先代社長の鈴木吉助という者が、建設現場で野焼きされていた合板や廃材を「もったいない」と思い、それを原科にしようと考えたのがスタートでした。今は考えられませんが、都内23区内で野焼きをしていたんですね。
そして工場が立ち上がったのが昭和58年11月。パーティクルボードの生産が始まったのが、昭和59年の3月。産業廃棄物と一般廃棄物の処分の許可を取ったのが平成3年です。パーティクルボードは日本工業製品規格なので「JIS」認証を取得してます。
どのようなシステムですか?
簡単に説明すると、工場で作ったパーティクルボードを建設現場に納めます。納めた車の帰り便で廃棄木材を回収するだけです。しかし、現場に合わせた搬出スタイルを提案するため、現場の方々に木屑の分別指導をしていくのも大切な仕事です。最初は営業マンが指導していましたが、今ではトラックのドライバーもできるようになっています。
物を作って送り出す「動脈産業」、廃材を回収する「静脈産業」と言いますが、我々はその両方を動かしています。さらに物流も最短距離にしないとダメです。物流だけで計算しても、CO2の排出量が他社と比べて十分の一です。我々はこれを循環物流と呼んでます。
環境のこと、CO2のことを考えたらそこまで追求していく。しかしまだやるべきことはたくさんあります。
やはり試行錯誤がありましたか?
当初はあったと聞いています。異物が多いと火が出たり、粉塵爆破を起こす可能性もありました。大切なことは、異物除去と火が出てしまった時のノウハウだと考えています。
どのくらいの量を集めているのでしょうか?
東京ボードグループ内で月間13,000トン(新木場:6,000トン、埼玉:2,000トン、横浜:5,000トン)くらいの廃棄材を集めています。
御社の経営理念にもある「リサイクリング」とはどの様な言葉でしょうか?
一番大切なことは我々の経営理念「リサイクリングで地球環境の未来を創る」ということです。「リサイクリング」は造語で[リサイクル] + [ ING ]と資源循環の輪 (RING) をかけてます。
それは先ほどお伝えした、商品を納品した空のトラックに廃材を積んで戻るということが基本です。しかし資源の有効利用だけではなく、環境負荷の低減もセットでなければ意味がありません。
リサイクルと言っても、環境負荷をかけているリサイクルが世の中にはたくさんあります。だからこそ両方セットで、なおかつ経済性をつけなければ、顧客も納得をしてくれません。
例えば、50年かけて育った木は人工的なエネルギーを一切使わず、光合成だけで大気中のCO2を減らすわけです。これを切ってすぐ燃やしたら、せっかく50年間CO2を減らしていたのに、大気中にCO2で戻ってしまう。しかし、切った木を木材製品として50年間使えば、50年分の炭素はそのまま固定していることになるわけです。
単純計算で炭素の固定が倍になることは、それだけCO2が減っているわけです。そしてまた50年後に家を解体し、解体した後に古材を東京ボードに持ってきてもらえれば、パーティクルボードとして再生し、建築材として家の役に立ち、また50年後解体して再生する。その繰り返しです。
最初の木が育つまで50年。切ってから再生まで50年。それだけ炭素の固定量が増えるので、地球上に存在する木材の絶対量が増えるんです。木材の絶対量が増えるということは、それだけ大気中のCO2が減ります。それが地球温暖化改善事業。我々が提唱している「リサイクリングで地球環境の未来を創る」という考えなのです。
リサイクルとリユースの違いは?
リユースは古着と一緒です。運搬だけなのでリサイクルより環境負荷が少ないですよね。だからリユースできるならした方がいいです。我々は加工するエネルギーも排出していますが、木材の炭素の固定量を計算すると、炭素固定の半分くらいのエネルギーで済んでいます。
循環型社会形成推進基本法が2000年にできました。これは形成すべき「循環型社会」の姿を明確に提示したものです。ただ、罰則がないので、その通りやらない人たちがいるのが実情です。
今まで苦労したことは?
まだ法律が厳しくない時代は紙が不燃物に入っていたり、どっちが可燃か不燃がわからない適当なことが多かったです。それを全部丁寧に指導していくのが大変でした。最初、現場の方々は嫌がりましたが、少しずつ時間をかけて説明していきました。
ただ、経営層の環境意識が高いと話が早く、中でも竹中工務店の理解は特に早かったです。竹中工務店の初期の環境報告書に我々のことが取り上げられています。
私たちの仕事もだんだんと認められ始めました。LCA(ライフサイクルアセスメント:製品が生まれ廃棄されるまで)のすべての環境影響評価をして、それが本当にプラスかマイナスか考えなくてはなりません。
我々は、LCAがどの程度あるかを専門的な立場で審査する第三者機関に審査を依頼し、平成16年5月に国内PB(パーティクルボード)メーカーで初めてEPD(環境製品宣言)適性認証を受けました。EPDプログラムの開発者であるスウェーデン環境管理評議会で認証され、世界でも注目されています。
目標は?
地球環境の改善が目標です。今はそれを着実に進めています。しかしまだ道半ば、実感として10パーセントも達成できていません。月間13,000トンなんて、まだほんの一部分なんです。
新工場が出来たと聞きました。
千葉県の佐倉市に本年から稼働予定の新工場があります。新木場の工場は30年以上前の設備なので生産効率が良くないのです。作れるカテゴリーも大きくない。今後ラワン合板がどんどん減り、その代用品を作れるのが千葉県佐倉の新工場です。
作れる製品の範囲が非常に広い。構造計算にいれられるパネルも作れます。住宅設計時に躯体の構造用計算に入れられる壁倍率2.5倍もしくは4.3倍等という高強度で耐震等級3が取りやすい板です (国交省告示第490号:平成30年3月26日)。フローリングの基盤ですが、その中に入れる板も作れます。
新木場とほぼ同じ坪数ですが、約200メートルのまっすぐ長い生産ラインがあり、生産効率が大幅に上がると思います。
そうするともっと廃材を集めないといけませんね
はい。そういう段取りになっています(笑)。千葉県は協力業者さんがたくさんいるので、結構集められそうです。