ビーチマネーとは?
2007年から「海をキレイにしよう!」という合言葉のもと、神奈川県の湘南エリアで始まった活動です。海に行ってゴミを拾い、元々はガラスの欠片であったビーチグラスも一緒に探して、それらをビーチマネーショップに持って行くと、いろいろなサービスを受けられるという活動です。
元々はガラスの破片であったものが、長い年月を経て角が取れ、ビーチグラスに生まれかわり、それがビーチマネーとなり、拾ってくれた方とお店、そして、海との架け橋となります。
堀さんは何をされていますか?
“ネーチャーガイド”という職業が僕の仕事になります。子供から大人の方まで、幅広い世代の方に海や山での自然体験を提供しています。具体的な体験内容は、磯観察、シュノーケリング、サーフィン、キャンプ、ツリークライミングなどです。
先日、優秀賞を受賞された“ジャパン・アウトドア・リーダーズ・アワード”のことを一言いただけますか?
“アウトドア”という分野では、初の受賞になりますので、本当に嬉しく思っています。これも一重に、家族をはじめ、たくさんの素晴らしい仲間のおかげです。“環境教育”という分野が注目されている今、より一層、気を引き締めていきます。
ビーチマネーの活動とは何ですか?
僕は自然の素晴らしさを、自然体験を通して、“一人でも多くの方に自然の素晴らしさを伝えたい”という使命感を持って、日々アクションしています。常に自然と接していると、どうしても人工物(ゴミ)が目につきます。ですが、海岸に漂着したゴミをよく観察してみると「あ、これはキレイだな〜!」と思えるものがいくつかあります。
その中に、ガラスの欠片が砂利や波によって揉まれて、角が取れたビーチグラス(もしくはシーグラス)というものがあります。ゴミ拾いをしながらビーチグラスを見つけ、そのビーチグラスをビーチマネーショップに持参すると、お金のように使えてしまうというシステムです。
2006年から活動していますが、正式に“ビーチマネー”として活動を始めたのは、2007年4月、42店舗からのスタートでした。
なぜこの活動は始まったのでしょうか?
神奈川県茅ヶ崎市にあるエコ洗剤メーカーの「がんこ本舗」という会社の社長が始めたのが、事の発端でした。僕は当時、その会社の社員だったのですが、会社に寄ってくれたお客さんに「仕事に追われている僕らに代わって、ビーチクリーンをして欲しいなぁ」とお願いをしたのです。そして、「海でゴミ拾いをしながらビーチクラスも見つければ、お礼に商品をオマケするよ」と。
すると、驚くことに、想像以上に多くの方がビーチグラスを持ってきてくださり、「これは面白い!とても良い活動だから、湘南中に広げよう!」と思い立ち、がんこ本舗の社長からもOKをいただき、“ビーチマネー”という造語を作り、ステッカーや共通のルール作りなどをスタートしました。だから、「産みの親はがんこ本舗の“きむちん”社長」で「育ての親は僕」ということになります(笑)。
ビーチマネーの価値と条件を教えてください
基本的な条件としては、角がしっかりと取れていて、直径が3cm以上あることです。白(透明)と茶色は30円くらい、水色・緑色は50円くらい、赤色・紺色・黄色・二色混合は200円くらいの価値となります。
ですが、加盟店によっては、直径が3cm以下のものでも数個集めれば使えるというお店もありますし、最終的なビーチグラスの価格設定は、各ショップに委ねられている点もビーチグラスの面白い点なのです。
ビーチグラスを扱うお店は何軒ありますか?
ビーチマネーショップは全国に151店舗(2018年6月時点)あります。加盟店は日本だけではなく、ハワイ、台湾にも広がっています。実は、店主のほとんどがサーファーなので“サーファーの環境活動”といっても過言では無いのです。海を愛するサーファーは、海岸のゴミを拾ってくれる方は、みんなウェルカム!お店の入り口には、加盟店を示すステッカーが貼ってあります。
どのようなサービスを提供していただけるのですか?
ほとんどのお店で買い物をしていただくことが前提です。その後、ビーチグラスを加盟店の方に渡すと、そのお店オリジナルのステッカーをくれたり、パンを割引いて購入することができたり、ランチ注文時にドリンクを無料で付けてくれたり、美容室なら眉毛を整えてくれたり...など、お店独自のサービスをユニークに展開してくださっています。
しかし、あまり過剰なサービスをしてしまうと、大勢の方が来店してお店側も困ってしまうので、「100人来てもお店の負担にならないようなサービスが良いですよ」と助言させてもらっています。
集まったビーチグラスは、その後どうしているのでしょうか?
一番の理想は、ビーチグラスを受け取ったお店が、今度はお客さんとして、そのビーチグラスを他の店で使って、ぐるぐると循環させることです。狙いは、ビーチマネーショップ同志、横のつながりを持ってもらうことです。全員、海が大好きな方たちなので、親睦が深まると思ったのですが、現実はそんなに甘くありませんでした。
なぜでしょうか?
ほとんどのお店では、集まったビーチグラスを可愛いらしいボトルに入れてディスプレイしてくださっています。また、子供のお客さんが多いお店では、それらを無料であげたり、海で拾った流木にビーチグラスを付けてお店の看板を作ったり、インテリア、ランプシェードの飾りとして使用しています。
何人くらいのお客様が、ビーチマネーを使いに来店するのですか?
多い店では1日に5人ほど来店されるところもありますが、反面、1・2年一人も来ない...なんてお店もあります。それは恐らく、“お店のジャンルの違い”というのが一番の要因だと思っています。
1杯のコーヒーだったら、20円の割引でも嬉しいじゃないですか?これが1万円の洋服で30円割引されても、あんまりサービスされた感じは受けないですよね。お店の商品の価格帯によって、使いやすさが変わってくるのは否めないですね。
151店舗のビーチマネーショップは、どこにありますか?
神奈川県の茅ヶ崎市が一番多く、次に藤沢市、鎌倉市の順です。ビーチマネーは2007年に湘南エリア限定で始まった活動なのですが、5・6年目に突入した頃から、海のない県を含めた全国で使えるようにしました。有名なところでは、新江ノ島水族館「なぎさの体験学習館」、パタゴニアの数店舗も加盟店になってくださっています。
そもそもビーチグラスはたくさん落ちているのですか?
湘南にはビーチグラスのコレクターさんがとても多いので、ビーチグラスが落ちている場所をよく知っています。ですから、近年は少なくなってきているようです。伊豆には、まだそこそこ漂着しているのですが...。
そもそも、ゴミ自体がペットボトルやゴミ袋など、ビニール製品に変わってきてきているので、ガラスのゴミはだいぶ少なくなりました。しかし、大切なことは、ビーチグラスを探すことよりも漂着ゴミを拾うことです。ビーチグラスを見つけたら、「ラッキー!」くらいの感覚がちょいど良いでしょうね。【海をきれいにすること】が目的のビーチマネーですから。
イベントなどはありますか?
年に1回、春に「ビーチグラスコンテスト」というイベントをビーチマネー事務局主催で開催しています。今年の4月にも海が大好きな人たちがたくさん集まって、第10回目の「ビーチグラスコンテスト」を開催しました。過去に優勝したビーチグラスは、どれもこれも大変珍しいものです。
例えば、オレンジ色のものは1万個に1個しか出ない希少なものですし、二色や三色混合のものもとても珍しいです。優勝したビーチグラスはどれも50年以上経過していて、中には100年以上昔のもあります。正に骨董の世界であり、とってもロマンがあります。
堀さんご自身もゴミ拾いをしていますか?
僕が住んでいる南伊豆町の弓ヶ浜は「日本の渚百選」にも選ばれている、とてもきれいなビーチです。定期的にたくさんの人が集まってするようなゴミ拾いはしていませんが、ビーチに足を運んだ時や、ネイチャーガイドとして海を利用する際には、参加者の方と一緒にゴミ拾いをしています。
苦労した点は?
苦労ばかりでした。ビーチマネーを始めた時は、まだ結婚もしていなくて、子供もいませんでした。活動の資金は、細々と自前の資金で運営していましたが、子供が生まれ、家族が増えると、自己資金だけでは運営が苦しくなってきました。そして、とても身勝手な話なのですが、2年間ほどビーチマネーの活動を放棄していました。「ビーチマネーショップに加盟したいです」というメールが入っても、返信をしていませんでした。
そんな頃、ビーチマネーの生みの親である“がんこ本舗”のきむちん社長から「最近活動していないみたいだけど、どうした?」と連絡がありました。僕は正直に今の状況を説明しました。すると、きむちん社長が1年間のサポートを申し出てくれました。ただし、“1年間で他にサポートしてくれる企業を探すこと”が条件でした。
僕は、その1年間の間に一生懸命にスポンサー企業を探し、“スローヴィレッジ”という、主に健康食品を扱う会社の社長と出会い、最終的には“スローヴィレッジ x がんこ本舗 x エコサーファー”で、3社共同企画の洗濯用洗剤「All things in Nature」を商品化することができました。
この売上げの一部がビーチマネーの運営費に募金されるという仕組みを3社でつくりあげ、さらに、僕がスローヴィレッジの洗濯用洗剤「All things in Nature」の担当者として、仕事面でも参加させていただくことができました。
人に恵まれましたね
今はガイドの仕事と洗剤の仕事の二足の草鞋です。洗剤の売り上げの一部がビーチマネーの運営資金となるので、僕が頑張って、洗剤の売上げが上がれば募金も貯まります。本当に良い循環となりました。
この仕組みを作るまでがとても大変で、あの時、“がんこ本舗”の社長の1年間のスポンサー契約がなければ、ビーチマネーの活動は諦めていました。まさにあの時が、僕にとっても人生の境目でした。
ビーチマネーの仕組みの中での問題点はありましたか?
ビーチマネーを始めた頃、「ビーチマネーの持ち込みが多くて困っている」と、とあるビーチマネーショップのオーナーから相談されたことがあります。そのお店はソフトクリーム屋さんで、当時ビーチグラスを持っていくと30円の割引をしてくれていたのですが、「1日に30人くらいの日もあり、本当にヘトヘト。何とかして欲しい」と。
当時は全てのお店で共通のルールを設けていましたが、お店によってジャンルも事情も違うので、お店ごとに独自のルールを設けてもらうように変更し、この問題を解決することができました。
ビーチマネーのこれからは?
日本のビーチカルチャーが一番盛んな場所は湘南です。しかし、世界規模で見れば、ハワイが一番だと僕は思っています。湘南、伊豆という足元でキチンと活動を継続しつつ、これからはハワイでどんどん広げていきたいと思っています。毎年夏頃に「ビーチマネーガイド」という無料のパンフレットを出版していますが、昨年から英語の説明文も掲載するようにしました。
ビーチグラスは世界中のビーチで確認されていて、世界中にたくさんのコレクターもいます。ですから、メイド・イン・ジャパンのビーチマネーの活動を、今後は世界中へ発信していきたいと思っています。
ビーチマネーのゴール(夢)はありますか?
ビーチマネーのシステム自体が消滅することことが、ビーチマネーのゴールです。ゴミがなくなれば、ビーチマネーの仕組みも必要ありません。「昔はビーチにゴミが落ちていたけど、今は全く無くなったね」と言えるような、そんなビーチが一つでも多く増えていくと、本当に嬉しいです。
ビーチで良く見つけられるのが、
白色(透明)、茶色、緑色、青色(水色)の4色です
ビー玉が削れたものを、
コレクターの間では“シー玉”と呼んでいます
僕の大切なコレクション。オレンジ、黄色、紺色、紫色など
ビーチマネーショップに貼られているステッカー
海は本当に凄い!
ゴミをこんなにもキレイなものにしてくれます
子どもの方が簡単にビーチグラスを見つけるから
不思議なものです
ビーチグラスコンテストにエントリーしたものが並ぶ様子
1点ずつ、ブラックライトなども使って、鑑定します
サーフィンだけではなく、
シュノーケリングやドルフィンスイムも大好きです
サーフィンをすると、子どもも大人も笑顔になれます
エコサーファー冒険くらぶ
(イングリッシュ&サマーキャンプ3泊4日)でのひとコマ
エコサーファー冒険くらぶ
(イングリッシュ&サバイバルキャンプ2泊3日)でのひとコマ
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新聞紙と洗剤を15倍の水で希釈したもので、
食後のお皿の油を拭き取ります