今、あなたの力が必要な理由

vol.28

「渚の交番」は海と人をつなぐプロジェクト~御前崎の恵まれた海の環境を守る~

石原智央

石原智央さん- Tomoo Ishihara -

一般社団法人 御前崎スマイルプロジェクト理事長

1999年〜2003年
全日本ウインドサーフィン ジャパンツアー ウエイブパフォーマンス 年間チャンピオン

2007年
全日本ウインドサーフィン ジャパンツアー ウエイブパフォーマンス 年間チャンピオン

▽日本財団 渚の交番プロジェクト:
https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/policeoffice/
▽渚の交番 公式サイト:
http://omaezaki-nagisa-koban.com/

「渚の交番」とは?

地域社会における海と人のつながりを構築することを目的に、海辺の様々な活動、活動に係る人、そして情報を横断するような拠点を整備するプロジェクトです。

「海とあなた」「人と人」「海と地域を結ぶ」をテーマに自らが海を地域資源として活用した事業を行うとともに、関係各所の団体をはじめ、海にかかわる「教育」「産業」「観光」「マリンスポーツ」「地域」「市民・観光客」のプラットホームになっていきます。海の関係者だけでなく、海と関わりの無い人も含め、地域の皆さんと共に作り上げる渚の交番を目指します。

石原さんは何をされていますか?

「御前崎渚の交番」は一般社団法人スマイルプロジェクトが行っているプロジェクトの一つで、私はその代表理事をしています。

「御前崎渚の交番」はスマイルプロジェクトの一つの事業なんですか?

「渚の交番」の建物は日本財団に建設していただきました。その建物を御前崎市に寄付をして、御前崎市から指定管理を受けた我々が「渚の交番」の運営を任されています。その団体が「一般社団法人スマイルプロジェクト」ということです。

「スマイルプロジェクト」から「渚の交番」へ?

「渚の交番」が作られるきっかけとなったのは、16、17年前ウインドサーフィンの国体が御前崎で行われたことです。その関係で行政の方から依頼があり、私は小学校でサーフィンを教えることになりました。

その授業を通じ、「御前崎の子供たちが御前崎の海に全然親しんでいない」ということを初めて知り、「この素晴らしい海を目の前に、なんで地元の子供たちは海に行かないのだろう?」そんな想いから海の良さを知ってもらう活動を始めました。

マリンスポーツ体験や、ビーチクリーンをしたり、海に関心を持ってもらおうと日々努力をしている時に、日本財団のプロジェクトの一つ「渚の交番」という事業があることを知りました。

しかし「渚の交番」を立ち上げるには「一般社団」という法人格を持たないと申請が出来ないので、私のウインドサーフィン仲間や地元の企業人、我々の活動に共感してくれた方々に声をかけ、7年前に「一般社団法人スマイルプロジェクト」を作りました。その後、日本財団に申請をして資格を取り「渚の交番」がスタートした訳です。

御前崎は宮崎に続き2番目の「渚の交番」事例です。他にも宮崎県や福井県、静岡の磐田市、大分県、山口県にもあります。

渚の交番ではどのような事業をしていますか?

海離れが進む中、少しでも海に親しみを持っていただく活動拠点です。また、私たちはマリンスポーツを日本に普及させたいという強い想いを持ち、マリンスポーツを通じて子供たちの健全育成をしたいと思っています。しかし、それを実現するにはまず、沿岸の安全、安心を確保しなければ実現しません。

そこで、御前崎渚の交番では「海の安心、安全事業」「自然環境保全事業」「海洋教育青少年育成推進事業」「海と人をつなぐ事業」という4つの事業を中心とした活動を行っています。

「海の安心、安全事業」

海と周辺の安全と環境を守るため、青色防犯パトロールカーで御前崎沿岸のパトロールを年間200日以上しています。海上では港から砂丘までの御前崎市内沿岸部(往復約15km)を月2回ほど、水上オートバイでパトロールしています。

これらのパトロールではマリンスポーツでトラブルがないか見守ったり、漂流物や不審物、不審者がいないか確認したり、海や自然の状況を観察したりしています。また、このパトロールと合わせて有事への対応に備え、レスキュー訓練なども実施しています。

「オレンジフラッグ」といい、津波などの自然災害が起きた場合の避難の合図として、視覚的に認知しやすいオレンジ色の目立つ旗の周知・啓蒙活動も行っています。これは、マリンスポーツなどを楽しんでいて放送やサイレンなどが聞き取りづらい海からも、視覚的に認識してもらえるようにとのことで全国的に広まってきている活動です。

「自然環境保全事業」

御前崎の海は、環境が大きく変わってきています。顕著なのは海岸の砂浜がどんどん減少していることです。海岸の砂が減ると、国の天然記念物のアオウミガメの産卵地減少や、岩の露出によるマリンスポーツ愛好者の怪我の元になります。そのため、今まで試行錯誤の努力を続けてきました。

例えば、活動初期は堆砂垣(たいさがき)砂が飛ばないように、竹と木で編んだ垣根で砂を止めるという工法です。7年前に開始して少しだけ結果が出ましたが、砂自体が風上から飛んでこなくなったため中止しました。砂減少の大きな理由は、ダムの護岸工事でコンクリートで固めてしまったため、昔は天竜川から60万m3出ていた砂が出なくなってしまったからです。

だから、砂減少問題は天竜川のことを考えないといけません。それに加え防波堤をかなり伸ばしたので、潮の流れが変わって砂が回り込み、御前崎マリンパーク周辺の海岸には砂がどんどん堆積してしまいます。堆積した砂の解決方法を考えている時に、静岡県知事との対談の機会をいただきました。

対談の中で、ウインドサーフィンの聖地と呼ばれる御前崎海岸の、砂の減少問題を対応するとの回答をいただいたので、養浜対策に関する要望書を静岡県知事へ改めて提出させていただきました。そのお陰で今では毎年、大型ダンプ2500台分の砂を、堆積している場所から減っている浜に移し替えています。

「海洋教育青少年育成推進事業」

渚の交番を始めた当初は、地元の学校2、3校しかマリン体験に参加してくれませんでしたが、教育長に交渉したり、「御前崎市の中学校・高校に行って海洋教育をもっと広げるべきではないか」と啓蒙活動をした結果、御前崎に5校ある小学校のうち4校が、マリン体験ではなく海洋授業として教育してくれることになりました。また、御前崎ウインドサーフィンクラブを設立し、中学校にも外部クラブとして認められ、週に3回練習をしています。

2014年からは、御前崎市内の各小・中学校へ伺い、着衣泳教室も実施しています。着衣泳とは衣服を着たままの状態で落水した時、いかにして生き残るか(浮いて待て)を学ぶ体験学習です。水難事故の多くは着衣状態で水に溺れる(着衣状態ではまともに泳げません)ケースなので、着衣泳を学ぶ事は、自分の命を守る術を身に付けるというくらい重要です。

「海と人をつなぐ事業」

御前崎の海岸線は様々な環境があり、それぞれの場所で色々な「海」を楽しむことができます。良い波の立つ長い海岸線ではサーフィン、ウインドサーフィン、スタンドアップパドルなどで波乗りができます。灯台下の岩場では磯遊びができ、暖かくなると子供連れのご家族で賑わいます。岬を回りこんで内湾側で入れば波の穏やかな海水浴場があり、その先の漁港からは漁船や釣り船も出ています。さらには砂の綺麗な砂丘まであり、これほど多様な海を楽しめる場所はなかなかないでしょう。

この環境を生かし、大人も子供も多くの方々に海に親しんでもらいたい。地元の人も、市外から訪れる方にも「御前崎の海」を楽しんでもらいたい。そんな思いからマリンスポーツイベントやビーチクリーンイベント、ウミガメ勉強会やハロウィンパーティまで様々な事業を実施しています。

このような活動を通じて、私達の活動を多くの人にご理解頂き、より多くの賛同・協力を得る事が、私達の活動を支えや推進力になります。

渚の交番は周知されてきましたか?

御前崎市ではだいぶ周知されてきたと思っています。学校教育を通じ、子供の親に理解していただき、浸透してきたようです。海洋教育も当初は1校だけだったのが、4校にまで増えました。

我々もその成果や結果を公にしていかなければなりません。「海洋教育をすることで子供が健やかに育っています」と、御前崎市だけではなく周りの市町村にも周知していくのが使命だと思っています。

他の「渚の交番」は?

場所によってやり方も全然違います。宮崎は我々のスタイルに近いのですが、福井にある「渚の交番」は社会福祉法人が経営しています。障害者の方たちが働く場として運営しているようです。

磐田の場合は、観光施設の一つとしての観光案内所のような立ち位置です。それから、山口県にある角島にも一つできるようです。そこも我々のスタイルに似た、パトロール、海のアクティビティを全面に押した活動をするようです。

御前崎のゴミはどこらから来ますか?

多くのゴミがあります。御前崎に落ちてるゴミはサーフィン団体と一緒にゴミ拾いをしたり、5月には御前崎の小・中学校の生徒1000人と一緒にビーチクリーンをしました。海ゴミにはアジア諸国のゴミも多いです。おそらく船から投棄しているのではないでしょうか。プラスチックも多く、潮の流れで港の方にかなり入ってきます。

深刻な問題としては、海藻が減ってきています。以前までカジメが群勢していたのですが、今はゼロになってしまいました。カジメの一種のサガラメも無くなってしまったので、静岡県の研究機関と一緒に種の植え付けしました。

立ち上げにおいて問題はありましたか?

渚の交番を立ち上げる際に、色々と調整が大変でした。何もないところに行政を巻き込んで「渚の交番」を作る必要があったので、様々な誤解も生じたし、理解し合う時間が相当かかりました。今「渚の交番」がある建物は、もともとホテルが建っていた場所でした。それが更地になり10年くらい放置された土地でした。

この企画が立ち上がった時に、行政から建設の許可を頂きました。建物は市に寄付という形だったのですが、建物は管理維持費がかかるので、受け付けてもらえません。「渚の交番」ってなにするかわからないじゃないですか。パトロール、海洋教育、御前崎の海を生かした活動をすることを、時間をかけて皆さんに理解していただき、「渚の交番」建設に至りました。

ウインドサーフン日本チャンピオンの石原さんが始めようと思ったきっかけは?

私はウインドサーフィンのプロになりたくて、19歳の時に御前崎に移り住みました。御前崎はウインドサーフィンの聖地です。プロになりたければ「御前崎に住む」というのが当時の慣例でした。ある時、地元の子供達があまりにも海のことに興味がなかったことが驚きで「なんとかしないと」と思ったのが最初のきっかけですね。

目標などはありますか?

今は海洋教育にもっと力を入れて行きたいです。特に小学校に活動を広げていきたいと思っています。小学校は単位が小さいので、田舎だと大きくて4クラスくらい。約100人の生徒さんがいます。これはぎりぎりマリンスポーツを教えられる人数です。これが中学校になるともっと通学範囲も広く、生徒数も300人単位になってきます。その人数だと、今の我々の規模ではマリンスポーツを教えるのは困難です。

まず小学校での教育をしっかり浸透させ、それが認められて、規模が大きくなれば、中学、高校と広げて行きたいです。将来的にマリンスポーツが全国に広がることを目指しています。教育なので時間はかかり大変なのですが、それが「急がば回れ」と思っています。

そして、海洋教育に携わる人間も増やしていかなければ活動が大きくならないので、人材の育成も大切だと感じています。

嬉しいことに、私たちが行っている御前崎ウインドサーフィンクラブからワールドクラスの大会に出場し、活躍する子供も出てきたのも大きな結果だと思っています。その子は今や世界を転戦するような選手です。

御前崎「渚の交番」

御前崎マリンパーク周辺の海岸から毎年、大型ダンプ2500台分の砂を太平洋側御前崎ロングビーチ付近に運んでいます

フォトコンテストの作品

渚の交番 館内の様子

青色防犯パトロールカー

海の安全についてビーチで説明

レスキュー訓練の様子

重機を使用してのビーチクリーン

市民のみなさんとのビーチクリーン

ウインドサーフィンスクールの様子

海水浴場に設置した海上アスレチック

着衣泳指導の様子

渚の交番前の磯場

スタンドアップパドルクラブの活動風景

海洋体験学習の様子

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

日本は海に囲まれた島国で、海に対する一般の方たちの認識があまり興味がなくなってきてると思います。子供達は外で遊ぶことも減ってきています。でも、沿岸のマリンスポーツや海水浴に来ていただいて、自然がどれだけ楽しいか是非体験してもらいたい。そうすれば、このような活動に興味を持って参加してくれる子供も増えると思っています。

石原さんの想い

ウインドサーフィンの選手として長年活動しています。マリンスポーツでお世話になり生活もさせてもらっています。私はマリンスポーツを全国で普及させていきたい。それには安全も必要だし、教育的アプローチも必要です。もっと海や自然の中で遊んでもらい、その中でマリンスポーツが発展していく環境が日本にどんどん広がっていくことが私の望みです。御前崎の「渚の交番」で成功事例を作り、全国に展開していけるような体制を整えていきたいです。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com