深海のゴミは基本的どこに行ってもある
以前、講演会で御聞きした、「しんかい6500」のプロペラにビニール袋が絡まり緊急浮上をしたお話は衝撃的でした
講演時に映像でもお見せしましたが、陸地に近い海中ではコンビニのビニール袋が非常に多いです。その袋は浮くでもなく、沈むでもない状態で、海中を漂っています。これが運悪く、「しんかい6500」が走る航路に浮遊していました。そしてスラスター(上下方向を制御する)のプロペラに絡んでしまった訳です。相模湾と言うのは基本的に海水浴場が多いですよね。湾内は割とビニール系のゴミが多い。いろんな方が海岸清掃とか、ゴミを持ち帰りましょうとか、広めてはいただいています。しかし、ひとつでも残っていると風で飛んでしまえば、このような状況になってしまいます。些細な事ですが、この積み重ねが命に関わると言う事ですね。
潜水船のパイロットをしていますと自然にあるものはそんなに怖くないです。熱水が吹き出ている場所などあまり怖いと思った事はありません。ただ人工物は違和感などもあり怖い。人工物がロープだったりすると、それに絡むと浮上できなくなるため、人工物を見ると必ずドキっとしました。そして発見すると、よーく状態を確認して「逃げる」という行動をとります。
空き缶などは長い目でみると腐食をして腐ってくるので、我々の仕事の邪魔になるような事はない。最近ではビニール袋など自然に返る素材も使われていますが、昔のビニール袋はそのまま残っている状況です。
深海は酸素濃度も低く、日光も射さない。物の腐敗ペースが遅いとききましたが
分解のメカニズムはよくわかりませんが、深海もいろいろな細菌もいますし、少ないですけど酸素もあります。最終的にはなくなるのかもしれませんが、プラスチックというのは、あまり分解するという事はないようです。私は長い目で見ていませんし、学者でもないのではっきりした事はいえません。しかし深海ゴミはどこにでもありますよ。
どの海域を航海していましたか?
太平洋、大西洋、インド洋など主だった海洋は潜航しています。「しんかい6500」の場合にはどちらかと言うと湾内を調べる事よりも外洋や海溝域ですね。深いところ、陸地からだいぶ離れたところの調査が多いです。そうするとゴミの量も全然違ってきます。
国別によってゴミの種類も変わりますか?
深い沖の海底は基本的に船から捨てたようなゴミ、空き缶や魚網などが多いです。基本的に陸から遠い深い海溝などではビニールゴミはほとんど見ません。
個人的な感想ですが、今まで潜った中では相模湾の深海ゴミが特に多いと感じています。相模湾はどこをとっても海水浴場の数が多いでしょ。長い砂浜が続きますし、海水浴や海上レジャー、釣りを含めて。そういう意味ではそこに出ている人も多い。ゴミの量は人の量に比例しますから、たぶんそういう事かなと思っています。駿河湾は海水浴場が多くないので、相模湾より比較的少ないのは、そのためでしょうかね。
「しんかい6500」の潜航は、研究者の広募(リクエスト)によって潜航する場所が決まります。検査工事あけの試験潜航などで相模湾、特に初島沖は多く潜航しています。その後外洋調査となります。
東日本大震災の時は瓦礫も数多くありましたか?
震災後3ヶ月くらいに調査で行かせてもらいました。しかし深海にはあまり瓦礫はありませんでした。どちらかと言うと浮いている方が多かったです。しかし家一軒がそのままの形で流されている光景に、やはりこの地震は凄かったんだと実感しました。また同海域の2006年の調査では観察されていなかったバクテリア群が地震後の海底の調査では観察されました。地震により海底の地中奥深い場所で何らかの変化があったのでしょうね。
マネキンが深海に佇んでいたそうですね
ええっ 実はあれ、私が潜航したのではなくて、他のスタッフが2回行っているのですが、聞くところによると、普通に走っていたら窓から見えて「首が落ちている」と相当ビックリしていましたね。大声で「うぁー、なんじゃあれ」と驚いていましたからね(笑)
それから丁度1年後に同じところに行ってみると。同じマネキンが同じ場所にある訳です。でもマネキンの目の部分の見え方が全然違う。海底って上からどんどん堆積物がたまってきちゃうので、その隠れてしまった差を計ると「沈殿の早さが分かるでしょう」と研究者がおっしゃっていました。その通り、これはある意味、指針になるのです。
しかしなぜマネキンがあそこにあったのかは私にはわかりません。誰かが船から捨てたのか。また沖の海底でみる瓶、缶などのゴミは船から捨てたものだろうと思っています。
現在、海にはマイクロプラスチックが5兆個漂っていると言われています。カウントしてはいないと思いますが、深海のゴミって、どのくらいあると推測していますか?
どれくらいでしょうかね。考えた事もありません。もともと昔は、いろんなものを海洋投棄していましたよね。陸で必要なくなったものをどんどん海に捨てても何にも思わなかった時期もありました。ですからその時に相当量捨てられていると思っています。それが今では魚の汚染など、いろいろな問題を起こしています。結局、昔の行動がブーメランのように現代に影響を及ぼしているのでしょうね。
昔に投棄されたゴミは堆積物がたまり見えなくなっていますか?
どこに溜まるかは、潮の流れなどによって全然違う。例えば学校の校庭の真ん中にゴミをポンっと置いた時、風の影響によって運ばれてどこか一カ所にたまる場所があるでしょ。海底にもそういうところがあるようですが、それはよくわかりません。昔の貝塚ってありますよね。貝塚って昔のごみ処理場ですよね。その発見された地層と結局一緒ですよね。
「夢の島」ゴミを集積したところもあったでしょ。そこに土を入れて平にして土地として使っているでしょ。ゴミは絶対になくならない。全部が全部リサイクルになってくれるといいんだけどね。なかなか人間そうはいかなくて、便利な方を使いますからしょうがないのかなと個人的には思います。
他にエピソードがあれば是非教えてください
私がパイロットの時に救急箱のような四角い箱がある方向に等間隔8個くらい並んでいました。それを見た時にピックアップするかしないか、考えました。それって研究には全然関係ないじゃないですか。研究者の方にも「こういうのありますね」と話はしますが、それが何かわからない。もし上げて毒だったら、船全体の人間に影響があるので、やめておきました。逆にもし金塊だったりしたら、それはそれで大変なので。すごく葛藤はありましたよ(笑)。ただ人工物は何があるかわからないので、怖い。走る方向に並んでいたのですごく気味が悪かったです。
何だったんですかね?海上から捨てたものですよね。何か隠したいものかな?
人工物って怖いなと思ったエピソードがもうひとつあります。長い筒が、海底に横たわっていました。その筒に英語で何か書いてありました。これって「何の部品だろう」と思う訳ですよ。しかしとりあえず、危ないものだと困るので近寄らず、逃げます(笑)
それから網とかロープ。いわゆる海底にひっかかっているだろうと思われるもの。それにもし引っかかると自分達が上がれなくなる。それが一番怖いです。その驚きを例えるなら深い森の中を歩いていて突然、人工物が出てきて、それに文字なんか書いてあったら「なんだこれ」と思うでしょ。それと同じ感覚ですよ(笑)
(C)JAMSTEC
世界中の深海を調査する
有人潜水調査船「しんかい6500」
(C)JAMSTEC
レジ袋 / 相模湾 初島南東沖
潜航:2011/04/07
撮影:有人潜水調査船「しんかい6500」
(C)JAMSTEC
ビール瓶 / 南海トラフ 遠州灘沖御前崎南方
潜航:1990/08/18
撮影:有人潜水調査船「しんかい6500」
(C)JAMSTEC
吸いがら入れ / 相模湾 小田原市沖
潜航:2000/11/27
撮影:有人潜水調査船「しんかい2000」
(C)JAMSTEC
タイヤ / 相模湾 相模海丘
潜航:2002/03/10
撮影:ドルフィン3K
(C)JAMSTEC
なべ / 相模湾 初島南東沖
潜航:2011/04/07
撮影:有人潜水調査船「しんかい6500」
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マネキン / 日本海溝 宮古東方東部
潜航:1991/07/15
撮影:有人潜水調査船「しんかい6500」
(C)JAMSTEC
マネキン / 日本海溝 宮古東方海側
潜航:1992/07/19
撮影:有人潜水調査船「しんかい6500」
今年3月に新しく就航した
海底広域研究船「かいめい」