今、あなたの力が必要な理由

vol.34

「羽毛循環サイクル社会」が未来を救う~限りある資源「羽毛」を守るために~

長井一浩

長井一浩さん- Nagai Kazuhiro -

一般社団法人Green Down Project理事長

社会福祉法人松阪市社会福祉協議会を退職後、平成23年4月から特定非営利活動法人明日育 常務理事として、明日育のミッション「育つことのすべてを」を掲げ “育つ” という視点でさまざまなものごとを見て活動を展開。
平成26年4月には一般社団法人Green Down Projectを設立、ダウンジャケットや羽毛布団などに使われている羽毛を循環資源としてリサイクルすることを、企業や団体などと連携して活動を全国に展開。
また、東日本大震災をはじめ、全国の被災地へ派遣され災害ボランティアセンターの設置運営や生活支援活動を行っている。

長井さんは何をされていますか?

私は一般社団法人Green Down Project理事長をしています。前職である松阪市社会福祉協議会に在職中、洗浄企業の河田フェザーから羽毛製品の回収依頼がきっかけで羽毛と関わることになりました。そして、2015年に一般社団法人Green Down Projectを設立しました。

Green Down(グリーンダウン)とは?

リサイクルした羽毛をGreen Downと言います。リサイクルというイメージから新毛より劣ると思われがちですが、実際、Green Downは一般的な新毛よりもキレイなのです。

回収した製品から取り出された古い羽毛は、新毛と同じ洗浄ラインを通して汚れやホコリを徹底的に取り除かれます。洗浄回復処理を施すことによってキレイなGreen Downに生まれ変わるのです。

出荷可能な新毛の清浄度がJIS規格で500mm以上のところ、グリーンダウンは2000mm以上で、とても清潔な羽毛です。

Green Down Projectはどのような業務をしていますか?

羽毛布団やダウンジャケットから回収し、輸送、解体、洗浄、製品、販売、使用、提供、そしてまた回収と「羽毛循環サイクル社会」を支援する業務をしています。古くなった羽毛製品を新たなGreen Down製品にリサイクルすることは、水鳥などの命が守られ、二酸化炭素排出の削除など、限りある資源の有効活用に役立ちます。

また不要になった羽毛を焼却せずに、再利用することは二酸化炭素の削減にもつながります。

現在の羽毛の状況は?

羽毛は食肉用の水鳥から採取されているのをご存知ですか?

しかし最近では急激な需要増加を背景に、羽毛採取のみを目的に水鳥を飼育し、生きたまま羽毛を採取する「ライブアンドピッキング」が行われていると聞きます。動物愛護の観点からも、そのような残酷なことが無くなって欲しいと考えています。

実際に自分で現場を目視しているわけではないので、本当のところはわかりませんが、とにかく羽毛製品の多くが廃棄焼却処分されていることは事実です。

一番最初に羽毛を回収したのはいつでしょうか?

私がまだ福祉協議会に在職中、学校のPTAとタッグを組んで、地域に眠っている羽毛布団やダウン製品を回収したのが初めてのことでした。

長井さん、その時の感想を一言お願いします

子供たちのために、地域住民の方々の心が動いて沢山の羽毛製品を提供してくれる。もっと人の心を突き動かす、共感と参加が必要だと感じました。

どのような商品に生まれ変わるのでしょうか?

商品はダウンジャケット系が多いです。しかし我々は商品を作ったり販売するわけではなく、製品を作る方々にGreen Downを届けるため、「羽毛循環サイクル」が滞りなく円滑に機能するように心がけています。

また、Green Down製品には必ずオフシャルのピスネームをつけていただきます。これは「Green Down羽毛を使った商品」と周知活動の観点からお願いしています。

回収先・場所も多いですね

現在は北海道から九州まで380カ所以上の拠点で回収をしています。最近では「回収したいのですが、どうしたらよいでしょうか?」という問い合わせも増えてきています。アーバンリサーチさんやユナイテッドアローズさんなど、大手アパレルメーカさんの取り扱っている各店舗で回収していただいているので大変助かっています。

回収場所を増やすために必要なことは?

自治体や行政の方がゴミ回収の際に羽毛布団だと認識した場合、そのまま処分してしまうのではなく、どこかに分別するなどの工夫で、我々のプロジェクトに提供していただくことができればと考えます。

少しお手間を取らせますが、行政や自治体の協力があれば、かなりの量の羽毛布団やダウンジャケットなどが焼却されなくなります。

大手協力会社が多いですが、最初は苦労しましたか?

はい。我々は出来たばかりの脆弱な団体です。相手の方から見ると何者かも分からないわけです。参加してくださる企業の方は、我々が本当に持続可能な取り組みができるのか、不安だったと思います。僕自身も持続可能にすることが一番の責任だと思い、関連会社の方々と1年以上かけて信頼関係を構築してきました。

お陰様でパートナーも増えつつあります。そして、これからも仲間が増えていくことを楽しみにしています。

東京では94万枚の布団が捨てられていると聞きます

自治体によって回収された羽毛布団の多くが焼却処分されています。そして、その数は毎年増えてきています。東京23区内で回収された粗大ごみ「布団」は、2012年度は約79万枚。それが2015年には約94万枚まで増加しています。3年間で約15万枚(約18%)増加してしまったのです。

実は、この数字には全ての羽毛布団が含まれているわけではありません。しかし、普及率を考えても相当量含まれていると思っています。

実際に1.0kgの羽毛を燃やすと約1.8kgの二酸化炭素が発生します。もし焼却処分される羽毛布団をリサイクルに回すことができたら、CO2を大幅に抑制し、温室効果ガスの排出量を抑えて環境を守ることができます。

問題点、改善点などありますか?

これからはインフラの整備が課題です。全国で回収された羽毛を、いかに環境負荷をかけずに集めることができるのか考えています。現在は、全てのダウン製品を三重県の解体工場に集積しています。工場で羽毛製品の解体時に出る外側の生地は再生できないので、現場で廃棄しています。つまり、外側の生地と一緒に三重県の工場に運んでいるわけです。

これを、各地域に拠点を作って外側の生地だけをその工場で取り除き、中の羽毛だけを圧縮して出荷することが出来れば、2回運ぶところを1回に減らすなど、環境負荷を下げることができるのではないか?と考えています。

障害者の雇用も確保していると聞きました

障害者への就労機会の提供を通じ、社会参加を促していくことを目指しています。解体洗浄をしてくれているパートナーの、就労継続支援B型「ありんこ作業所」が施設外就労という形をとり、現在は8人の障害者の方が従事してくれています。

全国から集まる羽毛製品を一つ一つ側地を割いて、ホワイトダウンや色のついたグレーダウンなどの確認・仕分け作業から、洗浄に至るまでの幅広い仕事をしています。賃金も少しづつアップして、今では10万円を超えるところまできました。

どんなダウンでもいいのですか?

ダウン率が50%以上の羽毛製品を回収しています。生地が破れたり変色していても問題ありません。ただし、細長い形状のフェザー(羽)がたくさん入っていると回収できません。

年間94万枚が廃棄処分されてしまう羽毛布団ですが、リサイクルはどれくらいされていますか?

2018年秋・冬のGreen Down商品で使われた量は約30トンでした。日本で使用される国産の羽毛布団は約120万枚、輸入される羽毛布団は約190万枚です。約310万枚が国内で流通しています。この量が全てリサイクルすることができれば、生きたまま羽を採取される「ライブアンドピッキング」の必要もなくなります。

夢はありますか?

「リサイクルをすれば十分賄える量の羽毛が、すでに世の中には出回っている」と思っています。でも、まだまだ羽毛がリサイクルできることは知られていません。

ダンボールや缶、ビンは、リサイクルされることが当たり前の社会になりましたが、羽毛製品のリサイクルも常識の社会になって欲しいです。そうなれば環境負荷を抑えられるし、障害者の仕事も全国に作ることができるので、広げていきたいなと思っています。

回収されたダウン。(左)洗浄前 (右)洗浄後

Green Down製品には必ずオフシャルのピスネームが付く

ピスネームは「Green Down羽毛を使った商品」と周知活動してもらうため

回収場所のダウン製品

「ありんこ作業所」回収の様子

「ありんこ作業所」作業の様子。
手作業でひとつひとつ、確認しながら進める

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

羽毛製品を使っている一人でも多くの方にリサイクルできることを伝えたいです。とにかく捨てないで欲しい。しかし、ペットボトルや缶などのリサイクル製品と違い、身近に出せる集積場所がまだまだ不足していることも我々は認識しています。

それでもこの取り組みに共感していただき、布団は大きいので面倒だと思いますが... 回収場所に持っていくなど行動に移してもらいたいです。皆様の参加がないとこのプロジェクトは成功しません。是非力を貸してください。

長井さんの想い

羽毛製品が循環資源として当たり前のようにリサイクルされる社会を創りたい。また、羽毛のリサイクルを通じて、働きづらさを持った人の仕事づくりをしていきたい。環境にも人にも優しい社会づくりを目指していきたいと想っています。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com