呉屋さんは何をされていますか?
ジーエルイー合同会社の代表をしています。規模は小さいですが、「海の大事さ」「自分と地球との繋がり」をコンセプトにしたプロダクトを通して発信しています。商品開発や営業などを、育児休業中のスタッフを含めたチームで手掛け、取引先との連絡や受注業務などの在宅勤務を中心に、女性が働きやすい環境を目指してる会社です。
沖縄のサンゴの状況はいかがですか?
沖縄はサンゴも魚も減り続けています。特にサンゴ礁はこの30年間で半分になってしまいました。国内最大のサンゴ礁、西表石垣国立公園の「石西礁湖」で調査をした結果、35地点のうち約97%で白化現象を確認したというデータがあります。
サンゴ礁は、アマゾンの森林より二酸化炭素の削減能力が高いことや、自然の防波堤となって高波から浜を守ると言われています。海洋生物の30%がサンゴに頼って生きているため、サンゴ礁が縮小すると小魚がいなくなり、それを狙う大きな魚もいなくなるなど生態系に大きな影響が出ます。そして、白化したサンゴは元には戻りません。
サンゴに優しい日焼け止めを作ったきっかけは?
沖縄の国立公園でシュノーケリングをしていた時、日焼けをしたくないので市販の日焼け止めを塗っていました。それを見ていたガイドのダイバーさんから「サンゴが死んじゃうよ」と言われたのです。それ以上の説明がなかったので、気にせずそのまま海中にダイブしました。
しかし、シュノーケリングをしている間「私、サンゴを殺してるのかな?」と不安になり、帰宅後にネットで検索すると「ごく微量の成分でもサンゴの成長に影響」という情報が出てきました。「まさか自分もサンゴを傷つけているなんて!」と、とてもショックを受けました。その反省を機に、サンゴに関する勉強をしました。
その結果、サンゴ保全の意識が足りてないこと、サンゴに優しい成分の日焼け止めが売られていないこと、そして何より「海を守りたい」という強い想いから、「サンゴに優しい」がコンセプトの商品を作ることを決意しました。その後、クラウドファンディングで多くの方の支援を受けて製造を開始し、2017年春に「サンゴに優しい日焼け止め」の販売を開始しました。
サンゴにどのような害があるのでしょうか?
2018年5月、世界初となる「サンゴ礁に有害な化学物質が含まれる日焼け止めの販売禁止」という法案がハワイで可決しました。一般的な日焼け止めに含まれ、サンゴの白化現象の一因になっているオキシベンゾン・メトキシケイヒ酸エチルヘキシルの二種類の成分がハワイの条例で禁止されたのです。
また、パラオで成立した法律は、ハワイで禁止される二種類に加え、オクトクリレン・エンザカメン・トリクロサンなど、八種類が禁止物質に指定されました。特にオキシベンゾンは、オリンピックで使用されるプール6個分の水に1滴入れただけでサンゴのDNAに影響があると言われています。その成分はサンゴだけではなく、魚貝類にも影響します。特に貝類は体に貯めてしまう特性を持っているので、成長に著しい影響が出ているというデータもあります。
日本では禁止成分ありますか?
日本では日焼け止め関連の成分を研究する方は少ないと思います。だから、成分についての条例などもありません。もし調べている研究者の方がいるのであればデータを公表していただきたいです。サンゴは沖縄に集中して多いので、悪い成分が入っている一部の商品に対し、条例を作って禁止することは考えにくいです。
日焼け止めの成分は?
化粧品を作ってくれる工場はたくさんあります。しかし、調合する成分は自分で指定しないといけません。ナチュラルにこだわっているので、香料や防腐剤などのケミカルは一切使っていません。特にナノ成分は「海洋生物に有害が懸念されている」という論文も発表されています。
そこで、私はまずアメリカの優良なメーカーの成分を研究し、論文を読み、独学で自分が納得する成分にたどり着きました。
それは、紫外線をブロックする酸化亜鉛を主成分に、ヒマワリ種子油など保湿効果のある自然由来の成分を配合したものです。この成分を科学者の方に検証をしていただき、安全性も確認し、完成させました。私が考えるに一番懸念のない成分だと確信しています。
クラウドファンディングで資金を集めたんですね
はい。1年くらいかけて、色々な方に説明して回りました。熱意が伝わったのか、80日のチャレンジ期間で250人の方から354万円の支援を受けて事業をスタートすることができました。
実は、マリン関係者やマリン業者の賛同も得れると思い、事業計画も作っていました。しかし蓋を開けてみると、賛同してくれたマリン関係者はたった2%に過ぎませんでした。私は予想外の結果にショックを受けました。
しかし、嬉しいこともありました。クラウドファンディングが世界中に発信されたため、「日焼け止め成分の害」を訴えるアメリカの研究所から連絡がきて助言をいただくなど、ハワイのサンゴ礁の現状を知ることもできました。一生懸命伝えることで素敵な出会いが生まれたり、家族、友人、たくさんの人に支えられています。
どのような方が購入していますか?
現状は、沖縄に来る観光客への周知はとても難しく、草の根運動が始まったばかりです。ただ、市販の日焼け止めがサンゴに有害と知り、これなら安心して塗れると関心を持つ方や、あまり海に関係のない方が会報誌を通じて購入していただくなど、徐々に活動に参加してもらえる空港のショップ・沖縄専門店・飛行機の機内販売・小売店なども増えてきました。
多くのメディアが取り上げてくれましたね
「サンゴに優しい」とメッセージを発信したおかげで、メディアの取材がたくさんありました。特に東京のメディアの方は関心が高かったです。ハワイで条例化したことが後押しにになったのかもしれません。
課題、問題はありますか?
「サンゴに優しい」というコンセプトは広まったと思います。次は「肌に優しい」を言うことを、ブレずに発信し続けていきます。
先日、国立公園の観光協会に、ヨーロッパの観光客から「サンゴに悪い日焼け止めを使っている」とクレームがあったそうです。このような外部から意見は、サンゴに対する意識の向上に繋がります。例えばですが、「もっとサンゴに配慮があったらよかった」「サンゴに優しく」とタグをつけてツイッターやフェイスブック等のSNSで発信してみてください。その一言が世界中に拡散し、世論に動きが出てくるかもしれません。このような地道な行動が、地域の方、観光客の意識も少しづつ変わるのだと思います。
興味のない方に響くにはどうすればいいでしょうか?
それがまさに「サンゴに優しい日焼け止め」というネーミングだったんです。話題になることを最初のステップとして考えました。私は、日焼け止めを「売りたいビジネス」ではなく、「売れないといけないビジネス」だと考えています。
少し厳しい言い方になりますが、沖縄に遊びに来るのなら、サンゴに悪い成分の日焼け止めはやめましょう。海に優しい日焼け止めをつける配慮を持って欲しいと思います。
日本人の皆さんは、ハワイやパラオに行った時、もし市販の日焼け止めが禁止されていたら多少高価でもナチュラルな日焼け止めを買うと思うのです。沖縄でも同じだと思うので、「意識の改革」が進んでもらいたいです。
夢はありますか?
配慮が少ないツーリズムや建設など、現状は目に余ることが多いので、沖縄がハッピーになるエコツーリズムの理想郷を作りたいです。遊びに来る人も地元民もお互い配慮し合い、楽しく遊べる沖縄になることです。
イベントなどはありますか?
「サンゴピクニック」というイベントを主催し、定期開催しています。読谷村にあるサンゴ畑の施設で、サンゴの勉強をして参加者と一緒に海でゴミ拾いをします。その後、那覇に戻って「チェイシングコーラル」というサンゴのドキュメンタリー映画を見ます。
この取り組みでは、普段あまり環境に興味がない方々と一緒に開催し、サンゴの環境保全やサンゴ育成などに興味を持つきっかけになればと思っています。次回の開催日時は未定ですが、コラボしていただける団体さんを毎回募集しています。