道城さんは何をされていますか?
私は埼玉動物海洋専門学校で講師を務める傍ら、水中カメラマンとして活動しています。専門学校では、将来動物園の飼育員や水族館のドルフィントレーナーを目指す学生たちに「自然環境保全論」と「海洋環境学」の二つの講義を担当しています。また、授業では今まで撮りためた写真を教材に使い、生徒に教えています。
具体的にはどのような活動が多いですか?
以前はダイビング雑誌に水中写真を提供していましたが、現在は「人と自然との関わり方」を中心に、保育園・小中高大学・企業を対象として、全国で講演活動をしています。またトークライブ・セミナー・ワークショップを開催しています。
講演依頼が多くなった理由は、実は2011年東日本大震災がきっかけです。私が仕事で訪れる海外の多くはライフラインのない場所が多いです。東日本大震災で大変大きな被害を受けた3月以降、日本各地で食料や燃料不足に悩まされ、電車の間引き運転や、計画停電など大変不便な生活を強いられる方も多かったと思います。
その緊急事態の経験を踏まえ、ライフラインのない自然の環境で生活している国の方々の「ライフスタイルを教えてもらいたい」と、講演活動が多くなったと思っています。
ダイバー歴を教えてください
私がダイバーを志したのは、30代後半でした。前職は音楽雑誌の編集者で、仕事柄カメラマンと仕事する機会も多かったため、カメラに興味があったのです。編集の仕事は業務委託のため、時間に余裕がありました。そこで趣味を作ろうと考えている時に出会ったのがダイビングでした。
海に入るならカメラを持って入ろうと思い、実際に海で撮影を始めると面白く、水中写真の世界にのめり込んで行きました。始めた時はコンパクトデジカメで撮影をしていましたが、もっとイメージ通りの写真が撮りたくて一眼レフに買い換えました。
ミクロネシアに旅行に行くようになって良い写真も増えてきたので、写真を発表する場所として、自由が丘の知り合いのカフェにお願いをして、2008年春に最初の写真展を開催しました。これがプロへの第一歩です。
世界中の海に潜っていると思います。今の海洋の現状は?
私は世界中の海に潜っているわけではありません。極めて地域限定で、南太平洋のミクロネシアと呼ばれている海域を中心に潜っています。私はまだキャリア15年と短いですが、サンゴに多少のゴミが引っかかっている場面に出くわします。
むしろ陸のゴミ問題の方が深刻です。以前からこの海域で潜っている人の話では「昔はもっと魚が多かった」と、よく聞きます。写真を見せると「キレイなところですね」と言われますが、実際は「ゴミだらけのところもたくさんあります」と伝えています。
ミクロネシアで一番潜っているのはどこですか?
ミクロネシアとはパラオ、マーシャル諸島、ナウルの各国およびキリバスのギルバート諸島地域と、アメリカ合衆国の領土であるグアムなど含まれますが、私はその中でもミクロネシア連邦のトラック諸島やポンペイによく足を運びます。13年間で40回以上訪れています。
ミクロネシアでもゴミ拾いしているんですね
私が主催している清掃活動「マイクロクリーンアップキャンペーン」第一回目は、2018年9月15日にミクロネシア連邦ポンペイ島で行いました。私と麗澤大、立命館大学、カレッジオブマイクロネシア(ミクロネシア短大)の学生、JICA(独立行政法人 国際協力機構)ボランティア、日本大使館の大使ご夫妻など30名で開催しました。
2019年2月2日に行われた「マイクロクリーンナップキャンペーン」第二回目は、チューク州ウエノ島で行われました。かつて日本が統治していた時は、春島と呼ばれていた島です。私と創価大学の学生さんと八王子市の職員の方。また、島の住人の意識改革のために活動している現地のNGOの方にお願いをして、約50人で清掃活動を実施しました。
今までに2回実施をしましたが、とにかくゴミが多いこと、ポイ捨てが当たり前です。「ゴミ」という概念がない人達なので、ある面仕方ないのかな?と感じました。
これからの予定は、第三回目は2019年9月にミクロネシア連邦ポンペイで。第四回目は同じく2019年9月にミクロネシア連邦コスラエで開催予定です。
中目黒でもゴミ拾い活動をしているのですか?
はい、中目黒は私の地元です。元々は地元で商売を営まれている方に誘われ、何ヶ月かに一度清掃活動を始めて、かれこれ10年近く参加しています。
そしてその活動とは別に、近隣に事務所を構える企業の方や住民と一緒に、中目黒美化委員会を立ちあげました。私が委員会長となり、昨年から月に1回か2回のペースで1時間くらいかけて目黒川沿いを清掃しています。このように数多くの清掃活動が行われる様になったのは、街に関わる人々の意識が上がったことが要因だと思っています。
また、桜が満開の時期には花見のお客さんがたくさん来るので、ゴミがひどくなります。その時期に限り、特別にゴミ分別のエコステーションを作って、私が講師を務める専門学校の生徒や近隣の方々と対応しています。
ホームページを拝見するとクジラ問題、マグロ養殖、サンゴの植え付けなどいろいろ経験されていますね?
千葉県和田浦にIWC(国際捕鯨委員会)からも規制が外されている小型鯨類のツチクジラも解体を見てきました。捕鯨問題は動物倫理の視点から勉強させられることが多いです。
また、クロマグロが減っているニュースが流れていますが、「減っているから食べるのやめなさい」と頭ごなしに反対・ダメという話は、昔の環境保護論者の考え方だと思います。今は安定供給しようと一生懸命頑張っている方も大勢います。
例えば、近大が先駆けとなったクロマグロの完全養殖や、クロマグロの稚魚から育てる蓄養という方法もあります。東京海洋大学では、サバにクロマグロを産ませる研究も進んでいます。
岡山理科大学では、完全閉鎖循環式魚類養殖技術の開発で世界的に注目されています。ナトリウム、カリウム、カルシウムの3つの成分に着目し、その最適な濃度を特定し「好適環境水」と名付け、この水を使った養殖の研究が進んでいます。
このように反対だけはなく、前向きに考えている方は大勢いることを知っていただきたいです。
道城さんの環境に対する意識はとても高いと思います
世間の環境保護の活動は「あれはダメ、これもダメ」という話になりがちです。しかし、例えば「温暖化が進むから二酸化炭素を出さない生活をしましょう」などの「結果ありき」な意見が多いですが、僕は「結果ありき」にはこだわっていません。反対するばかりでなく、逆の立場の人間の考え方も汲み取っていこうと思っています。
「持続可能な生活を念頭に置いて、賛成派も反対派も同じ机で議論していきましょう」という考えが、私が一部に見られる過激な環境団体と違うスタイルだと思っています。
環境活動をしている中での問題点は?
私が活動しているミクロネシア連邦の問題点は、島嶼国がとても弱い立場であることだと思っています。すべての生活必需品は海外から依存しているので、多くのプラスチック製品も入ってきます。しかし、これらの商品は使用済みになっても処理する場所がありません。
島嶼国では、土地が狭い(狭小性)、輸入に頼る(依存性)、島が点在しているため行政サービスが行き届かない(隔絶性)、などの問題が表面化しています。日本から何か援助をしようにも、遠距離(遠隔性)なので難しいのです。
島嶼国ではゴミはどのように処理していますか?
捨てた物は自然に還るという考えがあるので、元々はゴミという概念がありませんでした。だから、その辺に捨てる。いわゆるポイ捨てが当たり前の人達でした。
しかしそれによる悪影響を考え始め、さらには私たちも支援を始めております。東京都八王子市はJICAによるミクロネシア州チューク市「草の根技術協力事業」の一環としてゴミの問題に取り組んでいます。2012年に八王子市が寄贈したごみ収集車で、集めたゴミは集積場に運び埋めています。
本来はリサイクルを推奨したいのですが、施設が必要になるので、現在はリデュース・リユース「2R」を徹底するように島民に協力してもらっている状況です。
また、日本はJICAを通じて大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクト(通称J-Prism)という支援プロジェクトを行っています。これは「三つのR+リターン」の考えのもと、自然に還せるものは自然に、原産国に還せるものは原産国に還すというもので、そこにはゴミの徹底分別が求められます。その分別方法は、ゴミ再資源化率日本一である鹿児島県志布志市のやり方を取り入れています。他にも島によってはデポジットの制度を取り入れたところもあります。
今後の活動は?
10年以上ミクロネシア連邦の自然・生活を撮り続けています。その撮影をこれからも続けていきたいと思っています。自然の素晴らしい面と、影を落とす問題点も記録しているので、その明暗を写し出した写真展を2019年7月15日〜20日に地元中目黒で開催します。
2019年9月にはポンペイと隣の島コスラエに、日本から環境教育に趣いてる学生達と現地の方々とゴミ拾い活動をしようと思っています。この清掃活動で撮影した写真の詳細は10月以降に発表します。
目標などはありますか?
私はあまり目標や夢、ゴールなど持たず、日々目の前のことにしっかり対応することを心がけています。私は人を論破することはしませんし、際だって反対することもしません。それぞれの考え方を汲み取って、自分の意見を言えるような世の中で良いと思っています。