震災で見えてきたもの
28年間で5万本植えて目に見えて環境は違ってきているのでしょうか?
5万本植えたからと言って変化の証明はなかなか難しいですよ。しかし2011年東日本大震災の津波を経験して確認した事があります。5年前の津波で油タンクも皆一緒くたになって海が真っ黒になってしまった。「これはもう10年くらい駄目かな」と思ったのですが、あっと言う間に海は澄んできたので許可を得て養殖をスタートさせました。
牡蠣は通常2年くらいかけて大きく育てます。ところがお正月すぎくらいに息子が「牡蠣の筏が沈みそうだ」と言ってきたんです。「なんだそれは」と言う事で筏から牡蠣を上げて見ると、殻はそんなに変わらないですが、中身をみるとピンポン球のような大きな身が出来ていたんです。つまり2年かかるところ半年で牡蠣が育った。後日、京都大学が1000年に1度と言われるような大津波のあと自然がどう変性してゆくのか調べたいと調査チームを作って来てくれました。
私が一番心配だったのが、珪藻類がどうなっているか?と言う事です。これさえ生きていれば海は死んでいない。そうしたら「畠山さん安心してください。牡蠣が食べきれないくらいプランクトンがいます」と言ってくれたんです。その言葉で海は健全という事がわかりました。大津波で海全体がかき回されましたよね。海底には陸から流れた養分が蓄積しています。攪拌され水中に出てきた養分チッソ、リンに太陽光があたると発生します。そして問題は「鉄」です。山はなんの被害も無い訳ですから、鉄分は安定的に供給されています。今は震災前より水揚げが増えています。みんな海の生活を取り戻しています。
我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)
公共事業は川の流域をなるべく自然に近い形で造るような仕組みにしていく事。
選挙の時に候補者の政策をみて投票すること(笑)ゴミの問題もそうですけど、社会のシステムを変えるには選挙はとても大切です。それに川を綺麗にすると言う事は、まさにミネラルウォーターが流れている日本はすごい国なんですよ。
畠山先生の想い
私は実は10年前から京都大学と接点があります。海は水産学、川は河川生態学、農地は農学、山は林学、とそれぞれが独立しています。それをトータル的に見る学問がないという事で、京都大学が「森里海連環学」を立ち上げ研究を進めています。
我々漁師が山に木を植えると言う事は、山から海の河口までちゃんと見ているということ。川の流域の環境さえよくなれば、日本中で魚、海藻、貝類などたくさんとれるようになります。そうすれば寿司が安くなります。米を原料とする酒も消費が伸び米の消費に繋がってゆきます
数年前に有明の海苔の生産者会議でのお話。日本でノリは90億枚出来ます。その内30億枚はコンビニのおにぎり海苔用に出荷されています。おにぎりは海苔1枚の半分を使いますから、約60億個が消費されている計算です。60億個のおにぎりは米の消費量の約15% と言われています。またおにぎりの具材はシャケ、タラコ、筋子、と海のものが多い、おにぎりって海と山の合作なんです。漁師と農家が連携して川の流域を綺麗にすれば米も酒もきっと足りなくなるでしょう。是非そうなって欲しいものです。