酒井さんは何をされていますか?
株式会社ファーメンステーションの代表取締役をしています。
ファーメンステーションはどのような会社ですか?
発酵技術を中心としたバイオマス事業と、商品開発やデザインコンサルなど2つの分野で事業を展開しています。バイオマス事業では「発酵技術」を生かし、農業、商業、畜産など地域に根ざした地域循環プロジェクトの展開をしています。
その発酵技術を使って岩手県産のオーガニック米や未利用資源から高濃度のエタノールを作り、化粧品の原料や最終的な商品として仕上げ、販売している会社です。
会社を作ったきっかけは?
プロジェクトファイナンス(事業向け融資)を担当していましたが、"循環社会の時代は必ずやってくる"という強い思いから、東京農業大学に入り直して発酵の仕組みを学び、2009年に株式会社ファーメンステーションを設立しました。
なぜ発酵に興味を持ったのですか?
「使われていない資源」や「石油の代替燃料」「バイオ燃料」に興味がありました。自分で作れるとは思っていませんでしたが、TV番組で発酵技術の応用からバイオ燃料が作れる事がわかり、チャレンジしてみようと思ったのがきっかけです。
発酵とは?
微生物が働いて、有益な働きをすることを「発酵」と言います。微生物が、ある物質を栄養源にして別の物を生み出します。
例えば、米が麹になったり、味噌、醤油、酒など別の物に変わっていく。そのプロセスが面白い。しかも、微生物は環境さえ整えておけば増えてくれるので、人件費もかかりません(笑)
商品について
米から製造したエタノールで虫除けスプレー、アロマスプレー、消臭スプレーなどを作っています。エタノールを抽出した後には蒸留粕が出ますが、この成分に含まれる米ぬか酵母麹は肌にとても良いことが実証実験で証明されているので、この原料で3種類の石鹸を作っています。
また、最近ではOEM(他社ブランドの製品を製造すること)にも力を入れ、大手ネイルサロンにはお米からできた「ボディーミルク」というオリジナル商品を提供しています。日本全国に何百店舗と展開している大きなネイルサロンにオリジナル商品を提供できることは、大変嬉しく励みになります。
その他、JR東日本と一緒にコラボレーションをしました。リンゴのしぼりカスから発酵蒸留してりんごエタノールのルームスプレーを作り販売、さらに残ったカスを与えて育てた牛の肉を、列車レストランでローストビーフを提供するという企画に参加しています。7月から9月まで実施しているので、もし乗るようなことがあればお試しください。
https://www.jreast.co.jp/railway/joyful/tohoku.html
特許などは取っているのですか?
製造に関しては、敢えて特許を取らずにノウハウにしています。発酵蒸留にはアルコール事業法というとても厳しい法律があり、許可を持った人しか製造できません。おそらく、現状では許可を持っているのは21社、主に大手企業が持っています。
循環社会をどのように認知させていけばよいでしょうか?
循環社会の輪が広がるのは、時間の問題だと思っています。特に、若い人の環境への意識も上がり、多くの方が環境問題を自分事として考えられるようになってきています。例えば、最近ではフードロス、マイクロプラスチックが話題となっていますが、数年前は考えられないことでした。
今は環境技術も進んでいるため、この風潮は単なるブームで終わることないと確信していますし、10年後には全てのしぼりカスなどの未利用物は、有効活用される状況になることでしょう。
そして、サスティナブルな商品(持続可能な商品)をただ「買え買え」と押し付けても、誰も取り合っていただけません。なぜこの商品が出来たのか、背景を知ってくれる人が増えればと思います。
店頭販売をして感じることは、社会的意義だからといって買う人はまだ少ないです。それなら、欲しくなるような商品を届けていくしかないと思っています。
私は、本当に世の中を良くしようと環境に全てを捧げている方たちと日常的にお会いします。この方たちから話を聞くと、日本もまだまだ大丈夫だなと思えます(笑)。本当にベンチャー企業は頑張っていますよ。
循環型社会とは具体的には?
いくつか実施中のプロジェクトがあります。その中から、岩手県奥州「米からエタノールとエサを作る地域循環プロジェクト」の話をさせてください。
ファーメンステーションでは、有効活用されていなかった水田を開墾して原料のオーガニック米を栽培、岩手県奥州市前沢のラボでエタノールと、鶏や牛など動物のエサを製造しています。
今から10年以上前、旧胆沢町(現奥州市)の農家、町役場の方々による勉強会から始まり、2007年より多収穫米の作付けを開始しました。そして、2010年には奥州市の事業として本格的に小規模なプラントでの実証実験が始まりました。
2013年まで実験に月日を費やしましたが、ファーメンステーションは、このプロジェクトでエタノール製造プラントの運営、コンサルティングを担当。2013年4月よりファーメンステーションがプロジェクトを引き継ぎ、現在に至ります。
パートナーさんのことを教えてください
私達が利用するお米は全て、奥州市胆沢の「アグリ笹森」のみなさんが生産しています。無農薬、無化学肥料、生物多様性に配慮して栽培しているJAS有機のオーガニック米です。
奥州市水沢の「松本養鶏場」の松本さんは餌を使ってくださる仲間です。米からエタノールを作る工程で発生する米もろみ粕(蒸留残渣)は、発酵の過程で使われる酵母等が含まれている栄養価の高い飼料となります。
山に囲まれた養鶏場で元気に走り回るニワトリが産む卵は、その美味しさは誰もが認めるところです。またマイムマイム奥州という団体にも関わっているので、お話をさせてください。
それではマイムマイム奥州とは何でしょうか?
岩手県奥州市の米農家、養鶏農家、民泊のお母さんたちと循環型農業を体験するイベント、ツアーを実施する団体を設立しました。
なぜこの取り組みを始めたのかというと、嬉しいことに視察等がとても増えてきましたが、対応が大変でした。それに、我々の取り組みは工場だけ見せても全然伝わりません。それならばツアーを組み、それぞれの方の仕事の説明を多くの人にきちんと伝えるには、この方法が一番良いと考えたのです。
また最近の取り組みでは、休耕田以外にも休耕地もあるので、その畑にひまわりを植えてその油を絞るイベントを実施しています。
問題点はありますか?
大きな問題点はありませんが、目指している頂きには全然達していないです。
工場を増設を予定しています。最終的には、一般の消費者の方が普通に買える仕組みを作りたいので、せっせと営業をしていきます。
これから展望は?
発酵技術の精度を上げ、常に良いエタノールを作ることを目指しています。そして有効活用されていない物、例えばコーヒーカス、お茶カスなど、有効活用の可能性があるのにゴミになっている現状があるので、それを商品化し届けていきたいです。世界中の人々に、未利用の資源からできている商品を手にとってほしい。それが展望です。
世界中に!それはすごいですね
はい。壮大な展望です。でも、そのようなことが可能な時代になっていると思います。一人ではできませんが、岩手県にいる仲間も頑張っているので、活動を進めてまいります。