今、あなたの力が必要な理由

vol.45

国連の会議「COP24」で環境を語る~サッカーを通じて見えてくるもの~

佐久間悟

佐久間悟さん- Satoru Sakuma -

Jリーグ・ヴァンフォーレ甲府 代表取締役ゼネラルマネージャー

略歴

  • 昭和58年3月:私立 城西大学付属川越高等学校卒業
  • 昭和61年3月:駒沢大学経済学部 商業学科卒業
  • 昭和61年4月:日本電信電話株式会社入社
  • 平成15年:大宮アルディージャ 強化担当
  • 平成16年:大宮アルディージャ 強化部長
  • 平成18年:大宮アルディージャ 強化・育成部長
  • 平成20年2月:大宮アルディージャ テクニカル・ディレクター
  • 平成20年9月:日本電信電話株式会社退社
  • 平成20年10月:株式会社ヴァンフォーレ山梨スポーツクラブ ゼネラルマネージャー
  • 平成21年3月:株式会社ヴァンフォーレ山梨スポーツクラブ 取締役 ゼネラルマネージャー
  • 平成22年3月:常務取締役 ゼネラルマネージャー
  • 平成24年3月:常務取締役 ゼネラルマネージャー(現場より復帰)
  • 平成24年3月:専務取締役 ゼネラルマネージャー
  • 平成28年3月:副社長 ゼネラルマネージャー(現在に至る)
  • 平成30年3月:代表取締役 ゼネラルマネージャー Jリーグ実行委員
  • 令和元年12月:現在に至る

佐久間さんは何をされていますか?

Jリーグ・ヴァンフォーレ甲府の代表取締役ゼネラルマネージャーをしています。私も元サッカー選手で、昭和61年にNTT関東サッカー部に入団しました。27歳まで現役を続けていましたが、椎間板ヘルニアを患い、リスクの高い手術を受けることになりました。体は回復しましたが、これをきっかけに引退することにしました。

引退後は、NTTの本業である電気通信事業に基づく業務に復帰する予定でしたが、会社から「NTT関東サッカー部を強化するので事務局に入ってくれないか」と打診を受けました。せっかくサッカー以外の業務で力を発揮できると思っていた矢先の事だったので悩みましたが、元なでしこジャパン監督の佐々木則夫さんからも「サクちゃん、一緒に協力をしてほしい」と声をかけていただいたので、決断をしました。

NTT関東の事務局では何をされましたか?

1995年にオランダのアヤックス・アムステルダムというチームに留学しました。そのチームはチャンピオンリーグで優勝するなど、世界のモダンフットボールをリードしているチームでした。私はその留学で得た経験や哲学を持ち帰り、大宮アルディージャの前身であるNTT関東サッカー部の変革に貢献することができました。チームカラーはアヤックスと同じオレンジ、トップチームからアカデミーまで、選手達に同じサッカー哲学を植え付け、成長させました。

丁度その前後でJリーグ発足のため、チームの募集があったのですが、NTT自体がプロ化するか否か、非常に悩み、発足時の1993年は断念しました。そして、J2制が導入された1998年から、NTT関東が母体となり「大宮アルディージャ」を発足しました。

Jリーグには色々なクラブがありますが、立ち上げ当初から理念を作り上げたクラブは、恐らく大宮アルディージャと「ジーコ魂」を継承している鹿島アントラーズさんだけだと思っています。

甲府のGMにはいつなられたんですか?

大宮アルディージャではテクニカルディレクターが最後の役職でした。当時はまだ45歳で、そのまま仕事を続けていれば65歳くらいまで安定して働けるのでは?と考えていました。しかし、大宮アルディージャを最初から作り上げ、業界内では「佐久間フットボールクラブ」と言われるくらいフットボール哲学に基づいた育成型のチームに成長したこともあり、私の役目は終わったと感じました。

そこでまた違う形でサッカー界に関わりたいと思い、大宮を辞める宣言をしたところ、Jリーグ機構を含め7つの団体、クラブからオファーをいただきました。最終的にJリーグ機構か甲府か悩みましたが、2008年10月1日にヴァンフォーレ甲府のGMに就任しました。

ヴァンフォーレ甲府では環境活動をされていますが、どのような活動をされていますか?

2004シーズンより、「使い捨て容器ごみのないスタジアムを作ろう!」を合言葉に、ヴァンフォーレ甲府とNPO法人スペースふう、そして県内支援企業・団体が協力して、『エコスタジアムプロジェクト』をスタートしました。スタジアム内では使い捨てコップ(紙コップ等)を廃止し、会場内での飲食の販売や、各入口でのビン・缶の入れ替えにリユースカップを導入するなどの環境活動を実施しています。

リユースカップ使用時には100円上乗せした料金を支払い、食器返却所への返却で100円が返却される「デポジット方式」を行っています。プロジェクトがスタートして17周年を迎えました。

またLEADS TO THE OCEAN(通称LTO)プロジェクトをスタジアムで行っています。『日本財団』と、湘南・江の島にて14年間ビーチクリーンを続けるゴミ拾い団体『NPO法人 海さくら』と我々ヴァンフォーレ甲府がタックを組み、「海と日本プロジェクト」の一環として、試合後にごみ拾いをしています。

これはスポーツと清掃活動を軸に、海・自然環境への意識を高め、海ゴミは街からもやってくるため、つまりスタジアム周りをキレイにして、海のゴミを減らすという試みです。

リユースカップの活動をしているのは甲府だけなのでしょうか?

私が就任する前から、ヴァンフォーレ甲府では環境の取り組みをしていました。Jリーグ機構は環境問題として、リユースカップ使用を積極的に推奨している時期がありました。しかし、リユースはデポジットをいただくので、お客様の中には面倒と思う方もいるかもしれません。

また維持するために人員確保、コップの洗浄、運搬費など、循環サイクルを確立するためにはコストがかかり、Jリーグ各チームも段々と負担が増し中止していきました。

さらに「経済の発展」と「環境を守ること」は利害相反です。あまり環境問題を深く追求すると問題も出てきます。例えばクラブの売店でリユースカップを使用すると、売り上げの影響を心配する方達も出てきます。だから、クラブ側が関わっている方々とコミュニケーションを取り、理解を深めていかないとリユースは普及して行きません。現在、全面的にリユースを打ち出しているクラブはヴァンフォーレ甲府だけだと思います。

そのような厳しい状況の中でなぜ続けられたのでしょうか?

ヴァンフォーレ甲府でも環境問題に予算をかけるのは、正直負担はありました。しかし前任のリユースカップの担当役員は、気象予報士の資格を取るなど気候変動に高い関心がある方で、取り組みを維持するためにと、ファウンドを集めるシステムを構築して、費用の圧縮に成功しました。今はエコパートナーに協賛をいただいて、エコブースを継続的に運用しています。

2018年のCOP24に参加されたと聞きました

ポーランドで開かれた、地球温暖化対策を話し合う国連の会議「COP24」に出席しました。190を超える国と地域が参加し、12月11日には地球温暖化などの問題に対するスポーツ界の取り組みを、選手や団体などがパネルディスカッションする初めての会議が開催され、ヴァンフォーレ甲府はホームゲームでのリユースカップ使用を含めたクラブの活動を発表しました。

シンポジウムではどのようなお話を?

1時間のシンポジウムで割り当ての時間は一人3分程でした。2004年から紙製の使い捨て食器に代わり、「NPO法人スペースふう」「エコスポンサー」と協力し、観戦に訪れる人が出すゴミの量を減らすため、飲食店の紙コップを廃止し、代わりに洗って再利用できるリユースカップを導入しました。その結果、ゴミの焼却などに伴う二酸化炭素の排出量をこれまでに約65トン削減し、これは約4,600本の杉の木が1年間でCO2を吸収する量になることや、地域・クラブ・団体・企業が一体となって、スポーツによる持続可能な活動をしていることを伝えました。

日本からはヴァンフォーレ甲府だけが参加したのですか?

はい。登壇者は私を含め6人でしたが、日本からは私だけでした。他には環境問題に積極的なイギリスの4部のサッカーチームで、スタジアム内の椅子・シート・食べ物を全て環境に配慮している名物オーナーや、サーファー・ヨットの選手など、海に関係する取り組みの話が多かったです。

その中でも私が特に印象に残ったのは「食品ロス」の話でした。アフリカ系の方が「私は移民としてカナダに来ました。スポーツで助けられて今の生活をしていますが、実はアフリカには食べられない方が大勢いるのに、カナダでは食べ物をたくさん残す人がいる。だから私は食品ロス問題に貢献したいと思います」という話を聞き、日本も近年「食品ロス」は問題視されているため深く考えさせられました。

COP24にはなぜ参加することができたのでしょうか?

スポーツを通して持続可能な社会を目指した団体、日本法人の「グリーンスポーツアライアンス」澤田陽樹さんから紹介していただきました。

私は、教育の中にもSDGsを取り入れて持続可能な人材育成をしたいことや、リユースカップの取り組みをお伝えしたところ、大変興味を持っていただきました。2018年に開催された「COP24」のプログラムの中に、スポーツ団体から発信するシンポジウムがあるので、そこに提案しては?と打診されたのがキッカケです。

反響はいかがでした?

山梨県内では、NHK甲府が現地で取材をしていただいたこともあり、サッカー業界以外の皆様から「テレビ観ましたよ」と声をかけられました。また、Jリーグの実行委員会でも「国連の場で登壇者として参加したね」「凄いね」と声をかけていただきました。

更に、山梨県内の環境への取り組みのシンポジウムでもヴァンフォーレ甲府のエコスタジアム活動について、発表をする機会をいただきました。

フリーディスカッションの際、中国から参加してくれた女の子が「中国は劣悪な環境で、私一人が訴えようとしても耳を貸してもらえません、今日はスポーツを通じで環境の事を伝える大切さを学びました」と私に伝えてくれました。自費でこのシンポジウムに参加し、中国の現状を憂えている彼女の言葉と、その表情から中国の環境を良くしたいという強い意志を感じました。

COP24から1年が経ち、何か変化はありましたか?

COP24での発表後に、東京都市大学の伊坪徳宏先生に声をかけていただきました。伊坪先生はLCA(ライフサイクルアセスメント)製品や、サービスの一生(製品のゆりかごから墓場まで)にかかる環境負荷を定量的に計るための評価方法の第一人者です。

そしてLCAをヴァンフォーレ甲府でもスタートさせました。算出方法は試合の行われるスタジアムで、CO2はどこから発生するのか検証します。例えばスタジアムに1万人の方が、乗り合いの車で来たらCO2が削減されるのか?もっと言えば電気自動車を利用すれば、より削減されるのか?また飲食スペースで提供される商品も、生産から提供までのCO2排出量を測り実証しています。

その試合で排出されるCO2を測ることができれば画期的な事になります。循環計測とスポーツがタッグを組んだ、まさにスポーツx SDGsです。

すごい構想ですね

「スポーツを対象にしたLCA環境評価の枠組み」は、Jリーグでは初めての試みです。これをしっかりヴァンフォーレ甲府で成功させて、今度はJリーグ全体に広げたいと考えています。そして将来的には違うスポーツ団体、アメリカンフットボールやバスケットなど、色々な試合会場に広がって欲しいと願っています。

我々が計測していることは決して主観的ではなく、全てが数値化されるので、CO2の排出の原因がどこにあるのか、何を減らせば問題を圧縮できるのか、見えてくると思います。現在、ヴァンフォーレ甲府の活動をデータ化しています。その研究成果が2020年3月に発表される予定です。

波及効果がすごいですね?

もし、この取り組みが他のスポーツにも波及することができたら、例えば低い温度で開催されるスポーツ会場では、ダウンジャケットをなどを競技会場でレンタルをすれば環境への負荷は減りますし、ダウンを取る鳥の命が救われるなど、社会環境まで踏み込んだスポーツから発信できる環境に変化する可能性が出てくるわけです。

夢は何ですか?

甲府に新しいスタジアムを作ることです。そこで、志を持っている方々と一緒に持続可能な活動をしたいと考えています。今はリユースカップを使用していますが、次は土に還るような紙コップなどを考えています。

他にもAIを活用し、ゴミが溜まったらゴミ箱自身が集積場に向かうロボットなど、最新技術を使った新しい取り組みを新しいスタジアムが完成したら、サポーターの皆様にお見せしたいと思っています。

また現在、東京都市大学の伊坪徳宏先生とともに進めているプロジェクトを新しいスタジアムで取り組んでみたいです。

LTOゴミ拾いの様子。大勢の子供たちも参加してくれる

大勢のサポーターが参加し、1回のゴミ拾いで
たくさんのゴミが集まる

リユース食器の回収ブースの様子

スタジアムのエコステーション

リユースカップ利用には100円のデポジットが必要

2005年~2018年シーズン。
累計899,000個のリユース食器が使用された

LTO受付ブース。スタジアム周辺のゴミを拾いを実施

LTO表彰式に参加者するゴミ拾いマスター達

国連の会議「COP24」の会場

COP24に参加する佐久間代表取締役

6人の登壇者が各国の取り組みを紹介

取材を受ける佐久間代表取締役

ヴァンフォーレ甲府スタジアム調査中の様子
(写真提供:東京都市大学 環境学部 伊坪研究室)

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

私はウズベキスタンや中国とスポーツを通じ、深い交流をしたいと考えています。

中国政府は大気・土壌汚染への批判の高まりを受けて、2018年1月、プラスチックごみ輸入を原則禁止しました。その影響は数年後、さらに大きくなってくると思っています。

温暖化の影響を受けて、地球規模で環境が悪化していますが、それを止めるために我々は地球との共存を真剣に考えなくてはなりません。そこで同じ志を持つ、皆さんと手をとり協力する必要があります。スポーツを通じて環境に配慮し活動したいと思っている方はぜひお声がけください。

佐久間さんの想い

私の座右の名は「希望」です。いつの時代も「現実」と「理想」はありますが、「現実」を見なければ「理想」は語れない。「理想」がなければ「現実」を作れない。持続をすることが常に希望につながっていくと思います。簡単な言葉ですが、大切にして自分でできる範囲のことを「希望」を持って頑張っていきたいです。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com