三好さんは何をされていますか?
野外教育事業所ワンパク大学の代表をしています。ワンパク大学とは、子どものための自然体験活動を運営する民間団体の名称です。1976年に伊豆七島三宅島の観光施設「人間牧場」内でスタートした活動です。私はそこに大学3年生からボランティアとして参加し、4年生になる頃には私が中心になり、サマーキャンプの企画、子どもの募集、運営の責任者を任されました。当初は参加者も少なかったのですが、新聞による参加者募集を行い、キャンプの参加者が一気に増えました。
大学4年の忙しかった夏が終わり就職活動を始めましたが、私を雇ってくれる会社が見つからなかったため、お世話になった「人間牧場」に就職することになりました。そして1989年「人間牧場」閉鎖に伴い、ワンパク大学の年間活動を引き継ぎ、東京で年間を通した活動を再スタートしました。発足してから44年が経ち、延1万人以上の子どもたちが自然体験活動を体験しました。
ワンパク大学とはすごいネーミングですね
三宅島の人間牧場の経営者が名付けました。「大学」という名が付いていますが、参加対象年令は年中から中学3年生までです。スキーキャンプなど特別なキャンプは高校生も参加可能ですので、詳細はパンフレットをチェックしていただければと思います。
「ワンパク」は、スタート当初の44年前に、ハムメーカーのテレビコマーシャルで「ワンパクでもいい、たくましく育ってほしい」とのキャッチコピーが放映されていました。もやしっ子、都会っ子に対して“わんぱく”が流行った時代でした。
「大学」は、“大学生のボランティアリーダーや関わる大人も含めて、子どもたちと一緒にキャンプを作り上げ、学ぶ場”という意味だと思っています。しかし、残念ながら経営者に真偽を聞く機会もなく、そのまま「ワンパク大学」で運営しています。
創設44年は凄いことです。長続きしている理由はなんですか?
人のつながりですね。就職させてくれた経営者、当時のスタッフ、40年間次から次へボランティアリーダーが現れ、支えてくれました。独立してからも同業者からたくさん助けられました。同業者で設立したネットワークは様々な力を与えてくれました。その支えを糧に前を向いて走っていたら、40年を越えることになりました。
時代も後押しをしてくれたと思います。高度成長期、バブルがはじけて自然志向に目が向けられ、自然との触れ合いを求める親が増えてきました。爆発的に参加者が増えることはありませんでしたが、継続して参加してくれる子どもたちがいました。今は参加者が親になり、自分の子どもを参加させてくれています。
ワンパク大学に参加するにはどのようにしたら良いでしょうか?
会員制の活動になりますので、会員登録に入会金として1,000円が必要ですが、高校生まで有効です。会員になると機関紙やパンフレットが送付され、年齢や活動内容を選んで参加できます。興味のある活動に単発で参加申込が可能なため、いろいろな自然体験を試すことができます。
ワンパク大学は他の自然体験を提供する団体と何が違いますか?
規模の大小もありますが、年間を通じて活動している団体は各県にかなり多くあります。我々の活動は三宅島が原点ですので、小学生以上は「海」をイメージした活動と、生物との触れ合いを大切にして「いのち」を感じる活動が特色です。「海」につながる自然環境で事業を実施しています。
新しい発見や大きな感動を体験して「生きる力」を育み、「海」「いのち」に関わる事業を特色としている団体です。
「海」をイメージするとはどのような活動ですか?
夏のキャンプは奥多摩の檜原村で行います。源流に近い上流の川の水はとてもきれいです。日帰りの活動では中流域や河口域で活動を行い、透明度や生き物の豊富さの違いを感じ、汚染により川の自然が変わっていくことを学べます。そして、その川と海はつながります。川がキレイだと海も守られることも理解してくれます。また、海の自然は多様性があり、様々な生物との出会いが多い場でもあります。森の中よりも生物を見つけやすい環境です。
川をきれいにする具体的なプログラムはありますか?
我々の考え方はバーチャル体験ではなく、自然の本物の状態を「見る、聞く、触れる、嗅ぐ、味わう」という、五感を使った直接体験を大切にしています。
そのため、体験の中で川、海、磯の本当の状況を感じてもらうことがまず第一だと考えており、「保全」の活動までは今のところあまり行っていません。子どもが成長とともに保全活動に関心を深めてくれることを期待しています。
伊豆七島では三宅島のキャンプなどがメインの活動なのですか?
三宅島は火山島で、火山活動が定期的に活発化します。2000年の大噴火の影響で、現在は島内での活動に制約があり、キャンプ場も小さなスペースが1箇所しかありません。そのため、噴火以降は伊豆大島での活動が多くなっています。
東京ではどのようなプログラムが用意されていますか?
二つのプログラムが用意されています。一つは「あそびむし探検隊」で、年中・年長さんの幼児が対象です。自然の中を「思い切り、ノビノビ」と探検し、自然の面白さや不思議さを感じ、感性を豊かにするプログラムです。例えば「川の探検タイヤチューブで川下り」や「ムシムシ探検隊」「忍者修行落ち葉の術」など、家庭ではできない体験が可能です。
二つ目の「ワンパククラブ」は、小学校1年生〜中学3年生までのクラスになります。「海」「いのち」「チャレンジ」をキーワードとした自然体験活動ができます。例えば、春は「湧水の川で生き物探し」、夏は「マイ竹箸作り&流しソーメン」、秋は「酪農体験キャンプ」など、まだまだ他にもたくさんのプログラムが用意されています。
私たちは自分の団体で施設を持っていないため、“四季を通し、その季節にやりたいプログラムをやりたい場所で開催する”、それがメリットだと思っています。また集合場所が新宿駅西口なので、電車で1時間圏内の神奈川、千葉、埼玉からの参加者が多く、他県のお友達ができるのも特徴です。
今まで面白かったイベントは?
面白かったイベントは「島のキャンプ」だと思います。ワンパク大学がスタートした三宅島やその後の大島もそうなのですが、島の良さは海と山が目の前にあることです。
大島では7泊のアドベンチャーキャンプが人気です。このキャンプは三宅島時代から続いており、1週間すべてがテント泊で自炊です。しかも、自炊のための燃料であるマキは、森の中から子どもたちが拾ってきた枝を使っています。マキがなくなると食事ができないので、マキ拾いが大きな仕事です。また、雨が降ると濡れてしまうマキと格闘しながらの炊事になります。他の団体ではここまでのキャンプ内容はないかと思います。
こだわりのイベントはありますか?
はい。例えば、2月末東京で実施した「チャレンジ街道ハイク50キロ」というイベントです。しかし、ただ歩くだけのイベントなのであまり人気はありません(笑)
今年は中山道を歩きました。昔の五街道(東海道、甲州街道、水戸街道、日光街道、中山道)を毎年順番に歩き、ゴールの日本橋を目指します。森や山のハイキングではなく、、歩くことの大切さを伝えるために、これからも「チャレンジハイクを実施して」行きたいと考えています。
年中は6キロからチャレンジをして、毎年5キロずつ増えていき、中学2年生になると50キロへのチャレンジになります。
指導者の方は何人いますか?
指導者のボランティアリーダーを、当団体ではカウンセラーと呼んでいます。サマーキャンプでは30人以上が関ります。カウンセラーは大学生、短大生、専門学生、社会人によって構成され、規程の研修を受けて「ワンパク大学カウンセラー」として登録された者だけが活動に参加するシステムです。
「ワンパククラブ」ではお子さん6〜8人に対して1人、「あそびむし探検隊」には4〜6人に1人のカウンセラーが引率しています。少人数、少グループ制なので、子どもたちがポツンと一人になる時間はなく、携帯ゲームで遊ぶ子どももいません。
課題はありますか?
日本全国で地域性が薄れてきていると感じています。携帯などのツールを使って同じ情報を取り入れるため、都会っ子、田舎っ子も関係なくなっています。最近よく聞くのは、沖縄の子どもたちが毎日、海遊びをしているかというと、そうではありません。自然豊かなところで育っている子どもも、遊び方を知らない子が増えています。
地域の特性である素晴らしい自然の豊かさに気づかず、理解することなく大人になってしまっているのです。それでは地域への愛が育つことはありません。自分の育った地域の自然の素晴らしさに気づかない人が増えています。
だからこそ、自然体験活動が大切になると思います。特に今の子どもたちと保護者は、生き物に触れることが足りないのではないでしょうか。親御さんも子どもと一緒に生き物との触れ合い体験をすることで、考え方も広がってくると思っています。極端な虫嫌いの保護者が増えているのは事実だと思います。
他にどのようなことをされていますか?
自然体験活動の主催事業の他に、委託授業を実施しています。日本美容専門学校の夏合宿や新宿区の保育園への講師派遣、また保育士対象の指導者養成講座など、毎年続けています。そして、嬉しいことに4年前から、中野区の中学校で “山中湖1泊2日の移動教室の体験活動” の指導を担当させていただいております。
学校行事の体験活動では、飯盒でご飯を炊いてハイキングして終わりというだけでは、せっかくの子どもたちのよい経験の場を奪ってしまいます。授業に関して、先生方は研究されていますが、体験活動の専門家ではありません。限られた時間を有効に使うことで、子どもは自然との向き合い方がおのずと変わっていくと思います。
現在活動中の中野区の中学校では、学校の先生ではない私たちの立場から自然の面白さを伝える機会として、とても成功していると思います。学校団体への指導の機会は、他にも公立、私立の学校と増えています。うれしい限りです。
これからどのようなことを進めたいですか?
全ての小学生、中学生が定期的に自然体験活動を受けられるシステムを確立することです。我々だけではなく、全国で同じような目標で活動されている自然学校が、それぞれの地域の学校とタイアップし、日本全国で自然体験活動に参加できる環境になると、教育にも大きな変化が出てくると思っています。
その反面、全国の学校で一律に導入されてしまうと、体験活動の指導者が圧倒的に少ない状況なので、合わせて、人材を育てていかなければなりません。最近では自然体験に興味のある若者が少しずつ増えてきていますし、若者の雇用促進にもつながると思っています。
3月のスケジュールはどのようなものがありますか?
春の自然を感じるイチゴ狩りや人気のスキーキャンプがあります。幼児でも3日間でゲレンデの1番上から滑ることが出来るようになることを目標に、初心者でも無理なく楽しくスキーが上達できます。お楽しみプログラムとして、雪の中でのキャンプファイアーも実施されます。
3月8日 / あそびむし探検隊「いちごがりハイキング」
3月14日 / これから活動に参加したい方のための無料体験会「親子でアウトドアクッキング」
3月20〜22日 (長野県2泊3日) / あそびむし探検隊「あそびむしスキーキャンプ」
3月26〜29日 (長野県3泊4日) / ワンパククラブ「ワンパクスキーキャンプ」
など、初春や冬の季節を感じる体験ができます。
安全面はいかがでしょうか?
安全面のリスクマネジメントを徹底しています。もし事故が起こると “自然体験活動は危ないから中止” という話になりかねないので、各活動には自然体験活動の指導者資格や救急法の講習終了者が同行しています。海辺の体験活動を実施する団体が少なくなってきた理由は、海の活動は「死」につながるリスクが大きいと考える指導者や教員が増えたためです。
逆に、“しっかりリスクマネジメントを行えばケガも少なく、海は楽しい遊び場となる” と、私は伝えることに尽力しています。また、海での活動は水の中に入ることだけでなく、ビーチで漂着物を探したり、磯での生物観察もあり、様々なプログラムがあることが伝わっていません。「海」は森よりも分かりやすくたくさんのことを教えてくれます。