今、あなたの力が必要な理由

vol.49

再生可能エネルギー100%。老舗印刷会社の挑戦~「黒人音楽」ブルーズで人生が変わる~

大川哲郎

大川哲郎さん- Tetsuo Okawa -

大川印刷 代表取締役社長

1967年横浜生まれ 幼少期から生き物や植物、自然が好きで、自然と触れ合いながら育つ。大学に入学した直後、父親を医療ミスで失う。大学卒業後3年間、東京の印刷会社で修行後、大川印刷へ入社。

横浜青年会議所で、2002年社会起業家の調査研究、2004年に企業の社会貢献・CSRの調査研究を機に2004年、本業を通じて社会課題解決を行う「ソーシャルプリンティングカンパニー®」というパーパス(存在意義)を掲げ、現在に至る。

・ブログ:https://www.ohkawa-inc.co.jp/category/ohkawa-journal/blog/
・Twitter:https://twitter.com/tetsuo_ohkawa
・Instagram:https://www.instagram.com/tetsuo_ohkawa/

大川さんは何をされていますか?

1881年創業、138年の歴史を持つ大川印刷の6代目代表をしています。印刷という本業を通じて社会的課題の解決を目指している会社です。

※大川印刷HP:https://www.ohkawa-inc.co.jp/

古い歴史を持つ会社ですね

はい。しかし長い歴史の中で、1990年代のバブル崩壊後に経営の維持が困難になる兆しを感じました。たとえ100年企業といえど「社会に必要とされなければ、間違いなく消えてしまう」という強い危機感があり、それなら社会課題解決と自分の好きなことを両立できないかという願いから、環境経営にシフトしました。

環境にシフトした理由はなんでしょうか?

横浜は昔から自然環境に恵まれている街です。しかし、現在はマンションが立ち並び環境も大きく変わりました。私が生まれた横浜市磯子区もサワガニが生息するような自然豊かな環境でした。そこで育った私は小さい頃から環境に興味がありました。

そして大川印刷に入社すると工場の環境負荷の大きさが気になりました。多くのごみが排出され、インキの缶が山積みで、作業服もインキで汚れ放題でした。お世辞にもスマートではありません。

自分の好きなことと、やっていることを一致させたいと思い、環境配慮した経営にシフトしました。2004年から「ソーシャルプリンティングカンパニー(社会的印刷会社)」をPURPOSE(=存在意義)として掲げ、我々の存在意義は社会に有益なことを推進し、環境に良くないことはやらない。そんな社会的な印刷会社でありたいと思っています。

どのような活動をしていますか?

私の使命は2つ。一つは「仕事を通して世の中に一つでも多くの幸せを創り出すこと」に情熱を傾けています。例えば、2019年7月には「難民雇用」をしました。難民の雇用は日本ではほとんど行われていません。周りからは「なぜ雇用するのか?」などと言われた時期もありましたが、私たちにしてみれば人財不足は目に見える課題だったわけで、外国人の労働者に助けていただく時代が来ることは確信していました。そのような理由から、採用や人権、国際的課題に対してアプローチできる一石三鳥の取り組みとして雇用しました。

もう一つは「横浜の印刷の歴史と文化を内外に継承していくこと」。大川印刷の創業者である大川源次郎は、日本で初めて金属活字の製造を行い、日本における活版印刷の先駆者として知られる本木昌造さんの弟子である平野富二さんが開いた東京築地活版製造所に弟二人を弟子入りさせ、1年余りで呼び戻して大川印刷所を起業しました。その138年前から続く印刷の歴史や文化を内外に発信することは、大川印刷だからこそ出来る大きな使命だと思っています。

環境印刷の特徴について

大川印刷では材料等を除き、電力や車両燃料など自社印刷事業で排出される年間のCO2全量を、あらかじめ「カーボン・オフセット」した「ゼロカーボンプリント」を行っています。

使用する用紙も、違法伐採による材料を使用していないことを第三者が認証したFSC森林認証紙など、エコ用紙の中から選ぶことができます。印刷に使用するインキに関しては、大気汚染や科学物質過敏症の原因となるVOC(揮発性有機化合物)を含まない、ノンVOCインキを全体の94%使用しています。

また営業車には電気自動車を使用している他、段ボール削減のため、繰り返し使用可能なプラスチックコンテナによる納品を行っています。このように、持続可能な社会や健康的な生活を次世代に引き継ぐため、より環境負荷の少ない取り組みが大きな特徴です。

カーボン・オフセットとはなんでしょうか?

「カーボン・オフセット」とは、個人や企業の経済活動や生活などを通して、発生してしまったCO2などの温室効果ガスを「別の場所」で行われている植林・森林保護・クリーンエネルギー事業などに投資することによって相殺することを言います。

つまり、印刷事業によって排出される年間の温室効果ガス(CO2)を算定し、その全量を、全国で行われている環境負荷低減活動によって削減されたCO2と相殺することをカーボン・オフセット(打ち消し活動)と言います。

弊社の場合、北海道下川町の森林育成事業や、山梨県のFSC®認証林の森林育成事業に関するクレジット、また全国一般家庭の太陽光パネル設置に関係するクレジットなどを使用し、事業における地球温暖化の防止や関係地域の森林の育成に貢献しています。

また、関連して、「湘南国際村めぐりの森植樹祭」に参加しています。今までに10回参加しており、植樹祭自体は累計で58,720本の植樹をしています。

環境評価について教えてください

私たちは2018年に環境省が行った「中小企業版2℃目標(SBT)・RE100の設定支援」に選定頂きました。『SBT』とはScience Based Targetsの略でパリ協定後、科学的根拠に基づき産業革命以前の気温に比べ、気温の上昇を2度未満(現在は1.5度未満)にして行こうという取り組みです。専門家からヒアリングを行って頂き、大川印刷のCO2排出量の確認と目標を作りました。サプライチェーンにおける排出量(スコープ1,2,3 ※後述)の算定及び削減がこれから大企業からも求められるようになっていくと考えています。

また難しい話ですね。サプライチェーンやスコープはなんでしょうか?

サプライチェーンとは原料調達・製造・物流・販売・廃棄等、一連の流れ全体のことです。そこから発生するCO2の排出量を、サプライチェーン排出量と呼んでいます。サプライチェーン排出量はスコープ1、スコープ2、スコープ3から構成されます。

スコープ1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
スコープ2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出。
スコープ3:スコープ1、スコープ2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

※引用)環境省HP:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html

大川印刷さんでは?

私たちは、スコープ1と2、つまり直接排出量としての車両燃料などの燃焼によるものと、間接排出量として電気などによるのCO2の出量排出量で合わせて年間およそ190トンと算出しました。さらにスコープ3は、紙、インキ、パートナー企業での印刷や製本時に使う電力などをカウントすると約1900トンの排出が確認されます。自社で排出しているスコープ1と2、他社のスコープ3を合わせると約2100トン排出している計算になります。そして、我々はその数字を2030年までに「ゼロ化」しようという野心的な目標を立てています。

それは大変な目標ですね。関連会社の協力がないと達成できませんね

はい。着々と計画が進行中です。最近はありがたいことに講演会などに呼んでもらえる機会が増え、パネルディスカッションなどで大企業の方と直接お会いする機会も増えたので、交渉が少しずつ進んでいると感じています。

紙やさんやインキメーカーさん、そしてパートナー企業である印刷会社さんや製本会社さんには、部分的でも良いのでカーボン・オフセットをしませんかと、交渉しているところです。

再生可能エネルギー100%の企業となり、今は何を思いますか?

環境経営を始めた頃は私もまだ20代後半でした。環境印刷の話をすると先輩企業から「お客はR100と書いておけばわからない」などと言われ、そんなことを平気でいう方々とは仕事をできないと思っていた矢先の2008年「古紙偽装問題」が世間を大きく騒がせました。大川印刷として、偽装問題に関係している可能性がある「用紙」で印刷してしまった顧客に対しても正直に説明しました。そのような対応が今の信用につながっているのかもしれません。

しかし3、4年前までは理解されない時期が続きました。所属していた経済団体でも「大川の言っていることは意味がわからない」と言われたり、「印刷物にリサイクル適性やカーボン・オフセットの状態を明記した方がよい」と提言しても、お客さんから「それは大川さんがやりたいことでしょう」「なぜ我々がやらないといけないの」など、理解を得ることは難しかったです。

しかし近年では国もSDGsに力を入れてきた影響もあり、弊社の様々な取り組みや環境印刷についての理解も広がりつつあります。

問題はありますか?

自分の会社だけ勝ち残ればいいという理由で、SDGsの戦略を立てたい企業の方が多いことが問題だと思っています。そもそも「パートナーシップとは何か」について理解されているのか疑問に思うことがあります。

究極なことを言えば、自社と敵対関係にある企業とも手を取り合ってゴールを目指すのが真のパートナーシップだと思うので、講演会などでそのことを伝え始めています。

いろいろな受賞歴がありますね

はい。環境に対する数々の賞をいただいています。特に2018年に受賞した第2回ジャパンSDGsアワード「SDGsパートナーシップ賞」は、政府のSDGs推進本部から頂いた賞のため影響が大きく、講演の依頼も増えました。ピーク時には週5回講演が入ったり、午前・午後のダブルヘッダーの日もありました。ただ、その状況におごりを持ってはいけないので気を引きしめていきます。

※大川印刷受賞歴:https://www.ohkawa-inc.co.jp/about_us/#aboutus05

環境問題に関心のある経営者の方にアドバイスするとしたら?

講演を聞いてくださった経営者の皆様は「我が社もやるぞ」と声を上げてくれます。私も以前同じだったのですが、話を聴いて自社でもそのままやってみようとしてしまいがちだと思います。しかし、なかなかうまくいきません。なぜなら、従業員さんが違うので、同じことやってもうまくいくわけがないのです。当たり前のことなのに、ついつい気づかず進めてしまうのです。

本気で取り組みたいのなら、従業員さんと対話をしながら、時間をかけて作らないと難しいと思います。それに一社でできることは限りがあるので「出来ない」ことは「出来ない」と、ちゃんと伝える勇気を持って欲しいです。一社で悩む必要ありません。他の会社と一緒に進めばいいと考えています。

夢や御社のこれからは?

たくさんあります。私たちは「2030年までに世界一の環境印刷会社になる」と公言しています。しかし、ただ世界一なればいいわけではありません。先ほどお伝えしたように「幸せを創出できる企業になること」が本質だと思っています。

具体的には、スコープ3(スコープ1と2以外の間接排出量、事業者の活動に関連する他社の排出)を含めゼロカーボン化をすることが夢です。しかし、50歳過ぎちゃいましたからね(笑)あとどのくらいできるかな!

HPが素敵です。しっかり伝えることを意識していますか

18歳の時、4代目社長である父を医療事故で亡くした私は、酷くショックを受けました。そして、初めて訪れたアメリカ南部で、差別を受けながらも逞しく生きている黒人ミュージシャン達に出会い、自分一人が不幸だと感じては駄目だと気が付き、立ち直ることができました。それ以来、私は黒人音楽にのめりこむ日々が続いています。

2016年、会社のブランドイメージを再構築するために「リブランディングプロジェクト」がスタートしました。協力してくれたデザイナーさんから「立ち直ったきっかけのブルーズをイメージしては?」と、提案されました。

私は、何か迷った時に拠り所になる考えを示した「クレド」。「信条」と訳しますが、それに則した数多くのブルーズのミュージシャンの名言を13個の「ブルーズクレド」として発展させ、これら全てが大川印刷の考え方であると説明できるように、あえて英語の原文のままを載せてフォローの日本語訳を入れています。

また、HPのトップページ右上には、弊社が今日までに削減できたCO2の排出量を明記しています。是非ご覧ください。

大川印刷本社

工場見学

営業車として使用している電気自動車

クラスメイト・リアリティ・リーダーシップ・コミュニティー・トレーニング 終了証書

名刺にはミュージシャンの名言が印刷されている

カーボン・オフセットを始め、各種環境ラベル

第19回グリーン購入大賞にて、大賞・環境大臣賞を受賞した報告を、林文子横浜市長に表敬訪問しました

第2回ジャパンSDGsアワード表彰式 安倍首相と共に

講演会の様子

2019年4月 再生可能エネルギー100%の企業になりました

2019年11月 第17回湘南国際村めぐりの森植樹祭の様子

元アメリカ副大統領 アルゴア氏の印刷をサポートさせていただきました

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

今、社会は言葉だけでなく実際に行動できる人を求めています。だから挑戦しようとする人の存在はとても重要です。社会をより良くしていくために、挑戦する情熱と勇気をもって行動して欲しいと思います。

大川さんの想い

人生は長いようで短いと思っています。「1日1日をいかに大切に生きるか」を考えて生きているつもりです。しかし、なかなかうまくいきません。気がつくと、今日も1日だめだったと思う日もあります。

私の趣味はギターを演奏することです。横浜、本牧のライブハウス「ゴールデンカップ」でミュージシャンのバックメンバーとして2ヶ月に1度、演奏をしています。私を立ち直らせてくれた音楽に死ぬまで関わるつもりですし、すでにあの世に持っていく音楽も決めています(笑)

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com