富士山アウトドアミュージアムはどのような活動をされていますか?
私たちは「富士山を構成しているすべてのものは展示資料」と言うコンセプトで本物の博物館と同じように、資料集めや調査を通じて環境保全活動を行っている団体です。「富士山」丸ごとすべてが博物館というのがこのチームの名前の由来です。そしてその展示(富士山)を保存するための一環でゴミ拾いをはじめいろいろな活動をしています。ただ、博物館を名乗っていますが、別に建物を持っている訳ではなく小さな事務所を活動拠点としています。
活動は何年頃からですか?
活動そのものは2011年から、小さな規模からのスタートでした。他のNPO専従職員として活動していましたが、自分のスタイルで活動したいとの思いで、本厄の年に決めました(笑)
具体的にはどのような活動ですか?
「ふじさんのごみひろい」は僕のライフワークなので継続して活動していますが、先程お伝えした博物館資料のひとつの活動として野性動物を交通事故から守るための取り組み(ロードキル調査活動)も始めています。今までデータがなかったので、どこでどんな生き物が、どのような状況で車に轢かれて死んでいるのか、種類、傾向とともに、この2年間調査をしているところです。
また富士山で「いっぱい遊ぼうよ」をコンセプトに「富士山の森が小学校プログラム」を開催しています。
富士山にはエコツアーガイドが多く、たくさんの方々が富士山の魅力を伝えている訳ですが、その対象が富士山に来ていただいている他の地域の方々に対して実施していることが多いんです。ふと気がつくと自分達が住んでいる富士山麓の子ども達が富士山で遊んでいないんですよね。
例えばキャンプをするにしても群馬、長野、海に行ってしまう。ここにはキャンプ施設もたくさんあり湖もあってウォーターアクティビティーも盛んなのに、地元の子はカヌーに乗ったこともない、学校の遠足で富士山周辺の山に行ったきり、富士山には登った事もない場合もあり、そんなもったいない事はないでしょう。
だから我々の活動は基本的に地元の子ども達をターゲットにしたプログラムにしています。
もうひとつは。先月2016年6月に新たにスタートした富士山の麓の一角で小学生と一緒に秘密基地を作りつつ、富士山の森で遊べるような場所を創設したいと思いプロジェクトを立ち上げました。しかし今は枝をはらったり、雑草を抜いたりしている段階で、まだ正式なプロジェクトの名前もついていないくらい出来たてホヤホヤですけど一応「ふじさんのもりのおていれ」と言う名前で少しずつ進めています。
ゴミ拾い活動はいつやっているのですか?
日を区切ってではなく、やりたくなったらやっています。一番多く清掃活動をしているのが河口湖の「畳岩」と言う一万年前に富士山から河口湖に流れ出た溶岩帯の場所。そこは目の前がホテルで一番賑やかな場所なので、多くの方が訪れてくれます。昔は子どもたちが遊んだり、釣りをしたりなれ慣れ親しんだ場所だったのですが、どうしても観光客が多く立ち入るとポイ捨てはされてしまうし、河口湖は釣りのメッカでもあるので、釣り糸やタバコの吸い殻が捨てられている。だから汚れたら定期的に清掃するようにしています。
畳岩を起点としながら富士山を清掃されている?
いえいえ、山麓全域で清掃しています。富士五湖の本栖湖、精進湖、西湖、河口湖、山中湖、国道の139号線、138号線、469号線沿線、青木ヶ原樹海など、場所は選ばず、県も選ばず、富士山と呼ばれるところはすべてやります。
富士山本体の山中ではやらないのですか?
山の方は一昔前までは大変な事になっていました。最近はゴミが少なくなってきた傾向にはあります。ただ去年、一昨年ぐらいから外国の観光客の来訪が増えて、残念ながらマナーが行き届いていない方もいて五合目あたりが少し汚れてきています。富士山も世界遺産になっていろんな方が関わるようになって、清掃関係に取り組んできてもらっているおかげで、私たちが山に登らなくても上の方でやっていただける状況になりました。
ゴミの種類としてはどのようなものがありますか?
畳岩では、タバコ、釣り糸、おもり、ルアーなど釣り具以外にも、近くにコンビニがあるのでそこで買った食べ残し、花火の残骸もすごい量です。夏に花火が多く上がるので、そのあとはゴミ拾いをやる事にしています。
団体もたくさんありますよね?
団体はたくさんあります。今日の午前中もどこかの団体がゴミ拾いをされているのを見ました。昔に比べNPO、行政の枠など関係なく、富士山は多くの方々がゴミ拾いをしてくれるエリアにはなりました。また五合目から頂上まで間で山小屋の方々が空いている時間を見つけて登山道を掃除してくれています。また登山者自身も登下山の途中に拾ってくれます。マナーはとても向上しています。でも残念ながら回収したゴミをオフィシャルに受け取ってくれるところがないのです。
1972年以降国立公園などオフィシャルなところではゴミ箱を設置せずに、「自分で出したゴミは持ち帰りましょう」という運動が広まりました。それも素晴らしい事なのですが、ゴミ箱がないがゆえにかえってゴミが拡散していると感じています。駅前のゴミ箱やコンビニのゴミ箱はめちゃくちゃになっています。山で出たゴミは実はよそに移動しただけ、ちゃんと家まで持ち帰ってくれる人があまりいない悲しい現状です。
神奈川の海岸ではゴミ拾いで集めたゴミは美化財団が回収をしてくれます。
そのような仕組みがここ富士山でも出来れば全然違うと思います。特に富士山は五合目の登山道の入口は4道しかないので、その入口にゴミ箱が設置できれば、登山道上で発生したゴミは「ここで置いていってください」その代わりにゴミの処分費用は皆さんからいただいた入山料で賄います。という「管理」の仕組みができるのではと思っています。今も残念ながらゴミを持ち帰ってくれる「性善説」がこの山では強いので、そこにはまだ至っていません。僕が将来的に目指したいのは捨てられるゴミをちゃんと管理をする事なんです。
そのような許可は県ですか?
いやーもうそれは誰に言っていいかわからない(笑)いろんな方が関わっているので。
ただゴミの事を言えば廃掃法(廃棄物の処理および清掃に関する法律)のこともあるので、いずれは環境省という話になると思います。環境省から網がけが出来ると理想です。今まで自分の活動もそうだったのですが、性善説に頼りすぎていました。
しかし世界遺産になって富士山をちゃんと管理するという発想に切り替わったのであれば、ゴミも管理をしないといけない。登山者が増えるのであれば絶対にゴミは出るのでそれを、どうコントロールしてゆくのかという話にシフトしていかなければならないでしょ、いつまでたっても「捨てられた、じゃ、拾いましょうか」ではラチがあきません。どっかのタイミングでその仕組みを作ってゆきたい想いはあります。
日本人はいい人達なので性善説を信じたい気持ちは判るのですが、もうそのステージではないだろうと思います。
海のゴミは川から、川のゴミは街から、と思っています。
富士山に川はないですけど、山中湖を起点にして相模湖に続く桂川流域は汚いですよ。富士吉田市の市街地のゴミが川にたくさんあります。私たちも拾いたいけど、恥ずかしい話、まだそこまで取り組めていません。畳岩を綺麗にするだけで精一杯なわけですから(笑)
流域ってとても大切なので、上流からドンドン綺麗にしていっていつの日か河口に辿り着けるようにしたいと思っています。富士山はとにかくデカイ山なので、ひとつの流域を清掃したからと言って、どうこうという話ではないのですが、でも豊かな水を湛えている湖があってその湖を生み出している山がある。その上流から綺麗にしたいと昔から思っていました。
今までどのようなゴミが多かったですか?
持論ですが、その昔、富士山はゴミが捨てられる山だったんです。一つは悪い産廃業者が不法廃棄、もうひとつは観光客、登山者から発生するゴミ。それからこの地域を含めた生活ゴミを山に捨てていました。それは高度経済成長を迎える以前から、山、海、にゴミを捨てることは当たり前だったからです。成分も分解されるものばかりだった。しかし今から40年、50年前あたりからプラスチック系の素材が増え大量に物が出るようになった。同じ缶でも今までと違う膨大な量が捨てられるようになりました。
今のゴミ拾いでも昔のペプシの瓶や古いファンタの缶やミリンダの瓶などたくさん出てくるわけです。まだ発見されていないゴミも分解もされずに古いごみは落ち葉の下に埋まっています。埋まっているゴミはミルフィーユのように堆積してしまって、1回では拾いきれません。だからその年の傾向と言うよりはどんなゴミがどこにあるかと言う方が適切だと思います。例えばこの沿線ならポイ捨て、山の方なら溶岩樹形などの穴に捨てられるなどひどい状況でした。
それは長年ゴミ拾いの経験からわかるように?
そうです。嫌な経験ですけど(笑)ここだったら「捨てやすいよな」と思って見て見るとやはり捨ててあったとか。そんな事が多いです。
青木ヶ原樹海もよくいきますか?
はい。四六時中行っています。樹海は本当にゴミが多かったです。私自身が富士山のゴミに向き合ったのは15年くらい前からで、その頃は本当にゴミだらけでした。車も捨てられていたし業務用のフリーザーなども捨てられていたし、その下には缶が大量に埋まり、本当にいろんな物が捨てられていた。でも今は新たなゴミを探す方が難しいくらいだいぶよくなってきたのですが、まだ埋まっているものは多いし、古いゴミをそのままにしておくと野性動物もきっと足を怪我しますし、とても住み良い環境に改善できたとは言えません。
富士山は現在の姿になってまだ、たかだか1万歳の山なので、とても土が少ない山です。少ない土の中にゴミが一杯あったら、土が豊かになる訳がありません。海のゴミ拾いの方とよく話すのですが、海ゴミは海流にのって、拾っても新しいゴミがやってきますが、山のゴミも埋まっているゴミに手を出してしまうと大変な作業になると言うことです。でも続けていきます。絶対ゴミは減らす事はできます。
それはゴミを出す方のマインドを変える?
もちろんゴミを出す側のマインドを変えるのもそうですが、私は楽観主義なのでゴミ捨てる人間の数より拾う人間が増えれば、絶対に減らせるはずだと思っています。適正に処理するゴミの方が増えてくれば不法投棄される量を上回る。もちろんイタチごっこだと思いますけどね。
今までに驚いてしまったゴミは?
たくさんありましたよ。例えばタイヤが3000本以上山積み、これはもう笑いました。場所柄、他の地域に比べたらタイヤの利用が多い。スタットレスのタイヤもありますから2倍ですね。一家に2台は自家用車を持っていますからね。だから単純に廃棄される量だって多くなるわけです。
そしてテレビ、冷蔵庫、車はあたりまえ、最近の話では地デジ化にともなって一斉にブラウン管が捨てられました。DVDが普及し始めた時はビデオデッキが多かった。その捨てた箱には遠方の自治体の名前が書いてあったので、遠いところからわざわざ捨てにきたんだなと残念な気持ちになりましたよ。先日、富士五湖の海底清掃にご協力いただいている皆さんの第400回目の湖底清掃だったのですが、湖面から疑似餌のワームが何千匹も回収されました。
それからオシッコですね。長距離ドライバーがペットボトルに排泄してそれを捨ててゆきます。
みんなでお祝いのパーティー?
今も海流のどこかに漂っている海のゴミも、海岸線に流れてくる訳でしょ。それを全部拾い切っちゃえばいいんです。今は回収の手だても確立されていませんが、これからの発想力やテクノロジーが向上すれば新しいアイディアによってゴミは減らす事が出来ます。
出るゴミも減って、拾う量も減って、何時の日か「拾えなくなったねこの場所」となったら僕らはパーティーをやりたい。我々の活動に参加された方にこの「ふじさんのごみひろい参加証明書」を渡しています。裏はパーティー入場チケットになっていますよ。冗談ではなく、僕は近い将来パーティーが行われると思っています。
だって考えてもみてください。20年前このような活動をしている団体は日本中にそんなにいなかったですよね。「空き缶はゴミ箱へ」と政府のキャンペーンばかりだった。それが今や数多くの団体や個人がゴミを拾ってくれる。だから40年後くらいにはパーティー出来るだろうなと真剣に思っています(笑)
ゴミ拾いをはじめて15年以上たちますが、当初、富士山のような大きな山体全域でゴミをどれだけ減らせるのか不安でもあったし先が見えないしかし少なくとも、前職のNPO時代だけで600トン以上富士山からゴミを回収してきました。
手伝っていただいた方も延べ6万人にもなります。15年前に想像していた以上の形が出来てきたわけです。そこにはルー大柴さんだったり、野口健さんだったり著名な方々の協力もありましたが、実際には汗を流してくれた人が6万人もいると言うのはありがたい事です。大事なのはこれを継続させる事です。
先日、友人の子どもが学校帰りに歩道橋でゴミを見つけて、そのゴミを家に持って帰ってきたそうです。その子は「このゴミが歩道橋の上から落ちてしまうと車が事故を起こしてしまうから拾ってきた」と言ったそうです。その事がすごく嬉しくて。「ゴミ拾いって楽しいよ、続けていかないと駄目だよ」と言い続けてきたひとつの成果が出たわけですから。