今、あなたの力が必要な理由

vol.50

都会のオアシス・身近な動物から学ぶこと~地域の活動拠点を作り環境を守る~

海上智央

海上智央さん- Tomoo Unagami -

足立区生物園 水族飼育班チーフ

1989年 埼玉県春日部市出身。東邦大学卒業。姓に導かれるように大学の研究室から海の世界にどっぷりハマる。生き物を探り当てる特技を活かして環境省の干潟モニタリング調査や各地の海洋生物調査に参加。様々な希少種やお台場の新種ゴカイ発見にも貢献。

趣味のダイビングは国内外のキレイな海で泳ぐより、東京湾で砂泥と一体になりながら、海底に蠢く小さな生命を観察しているほうが多く、赤潮や青潮の海にも潜水した経験を持つ。

2013年から現職。館内外での解説活動のほか、展示や教材の開発も行う。2017年に海の楽しみ方をまとめた「海辺の環境教育プログラム事例集 ナニコレ!?海あそびレシピ」を編集。下記サイトで現在公開中です。
・海あそびレシピ:http://www.cnac.or.jp/recipe.html

“海と人をつなぐ”ことをキーワードに、身近な自然を親しむ体験や解説を通して、自然への興味を引き出すこと、環境保全への関心を高めることを目指し、日々活動中です。

海上さんは何をされていますか?

足立区生物園の水族飼育班のチーフをしています。それと並行して、千葉県浦安市にある三番瀬環境観察館の解説員やNPO法人 海に学ぶ体験活動協議会(CNAC)の理事をしています。また、東京湾の再生に関わる東京湾再生官民連携フォーラムの「東京湾の窓」プロジェクトチームにも参加しているので、活動は多岐に渡ります。

足立区生物園:https://www.seibutuen.jp/
浦安市三番瀬環境観察館:https://www.ces-net.jp/sanbanze/guide.html
NPO法人 海に学ぶ体験活動協議会(CNAC):http://www.cnac.or.jp
東京湾再生官民連携フォーラム:http://tbsaisei.com/team.html

三番瀬の干潟の活動もされているんですね

はい。三番瀬は東京湾奥部に残る広大な浅い海で、ところどころに干潟が顔を出します。本来ならば大部分が埋め立てられる予定でしたが、市民の強い反対活動によって残りました。

東日本大震災の影響で地盤沈下が起こり、現在は干潟の面積が約半分になってしまいましたが、観察館の前に現れる小さな干潟で、生き物観察会など様々なプログラムを開催しています。

足立区生物園はどのような施設なんでしょうか?

小さい動物園、水族館、昆虫館がセットになった全国的に見ても珍しい施設です。身近な昆虫や熱帯魚、両生類、爬虫類、哺乳類、鳥類など様々な生き物に触れ合うことができます。飼育している生き物の種類は約300種で、季節毎に様々な生き物に出会えるのが特徴です。また、多種多様な体験プログラムや工夫を凝らした展示に加えて、常駐スタッフが解説してくれるコーナーもあります。

来園した方には、命の尊さや素晴らしさを感じてもらうこと、そして自然環境の大切さ、自然との「共生」について考えていただくことを目指しています。

珍しい施設なんですね

生物園はGoogleマップなどで確認していただくと分かりますが、集合住宅に囲まれた公園の中にあるので、普段から大勢の区民の皆様が訪れる場所です。

来園者はちびっ子を連れたご家族が多いです。親御さん自身も自然体験の経験のない方が増えているので、子供だけでなく、大人も積極的に生き物に接して楽しんでいただければと思っています。そのため、生物園では大きく3つの区分でプログラムを行っています。

ちびっこでも楽しめる「ふれあいプログラム」では、小動物とのふれあいや、飼育員が動物たちの食事を通して彼らについて解説する「ごはんの時間」などがあります。

気軽に参加でき、生き物や生命に関心を持つきっかけとなる「導入型プログラム」では、普段入れないバックヤードを紹介する「うらがわ探検ツアー」や、生き物の見どころを紹介する「生きものガイド」など様々なものを用意しています。

生き物や自然にもっと深い興味・関心を持たせる「発展型プログラム」では、園を飛び出して、干潟で一緒に生き物を観察しながら、海の大切さや環境保全について考えることもあります。

他にも公園で行っている「冒険あそび」は、子供達が自分で責任をもって、みんなと協力しながら、自由な発想で元気に楽しく遊ぶことをテーマにしています。焚き火で焼き芋を作ったり、みんなで流しそうめんをするなど、都内では貴重な体験ができるプログラムもあります。

何人のスタッフがいて、どのようなチームで仕事をしていますか?

現在、私は水族班という魚チームの班長として仕事をしています。他にはカメなどの両生爬虫類班、チョウチョ専門の蝶班、カブトムシなどの陸生昆虫班、ホタルなどの水生昆虫班、哺乳類・鳥類班、それから教育普及専門の解説班がいます。この解説班は飼育業務を兼任せず専門で行っていて、全国的に見て珍しい組織です。

各飼育班、解説班、事務方、公園管理など、全てを含めると56名のスタッフで運営しています。

特徴はありますか?

保育園や幼稚園など、多くのちびっ子達が遊びにきてくれるだけではなく、地域の老人ホームの方達も来園されます。高齢のため野外に出かけることはできないけど、ここでは自然の生き物を見ることができると評判です。特にシマヘビ、アズマヒキガエル、ゲンゴロウ、タガメ、ヘイケボタルなど、足立区の身近な生き物を紹介した展示室が人気です。

数十年前までは、この地域にも田園風景が広がる豊かな自然が広がっていて、そこで過ごした思い出があるからだと思います。蛍やタガメを見て、懐かしい昔話をしてくれる方もいます。

HPを拝見すると身近な生き物が多いですね

「遊びながら学ぶ」ことを実践しているため、身近な生き物が他の動物園より多いかもしれませんね。ここでは「ザリガニ釣り」ができるコーナーがあります。子供達から、ザリガニを気軽に釣れる場所がないと聞き、ザリガニ釣りができる水槽を設置したところ大人気になりました。

大人なら小さい頃にザリガニ釣りを一度はやったことがあるでしょう。餌を食べず待ちぼうけか、すぐに食いつくこともある。その経験から生き物との駆け引きを覚えるのではないでしょうか (笑)

来園者は小学生ですか?

ちびっこから幼稚園生が多いです。年間パスも小中学生は600円と安いので、気軽に遊びに来てほしいです。ここでいろんな生き物の事を知り、経験してもらって、自然は楽しい!生き物は面白い!と感じてくれることが一番大切だと思っています。

この施設にしかいない生物も?

この園でしか見られない生き物も多いです。例えば、幻のニシキヘビと言われるベーレンニシキヘビは、日本中の動物園の中でここにしかいませんし、4メートルを超える日本最大級のビルマニシキヘビも展示しています。アゲハチョウやオオカマキリなど身近な昆虫も飼育しているので、冬でも生きた姿が観察できます。ジャウーというアマゾン川の大ナマズは、ある水族館の閉館に伴って引き取りましたが、国内の水族館では生物園を含めて数園館にしか展示されていません。

規模の割に他ではなかなか見られない生き物が集まる理由は、地域に愛される施設を長く続けてきた事と、生き物好きなマニアックな飼育員がいるからでしょうね。

課題は?

来園者に中高生や大学生がほとんどいないため、その世代がどうしたら来園してくれるのかを考えています。私が彼らに伝えたいことは、「自然や生き物」について学ぶことは、将来の進路や生き方を決める上で、新しい気付きを得る可能性があるということです。

生物園では、ツシマウラボシシジミや蛍をはじめとする様々な絶滅危惧種を展示しています。減少した理由は様々ですが、人間の影響がほとんどです。普段の生活が生き物にどんな影響を与えているかを知ったり考えたりすることは、今後の世界を生きる上で重要だと思います。

もちろん私たちが、より楽しめて学べる仕掛けを作って、自然に対して考えるきっかけを提供し続けることも課題だと思います。

それはどのような仕掛けですか?

規模が大きくないので大掛かりな事は難しいですが、展示物を工夫して作っています。例えば、金魚の大水槽は昔、ネオンテトラなどの熱帯魚が泳いでいましたが、施設改修時にある決断をしました。三世代にわたって来園してくれる方々に伝えたい「生き物」はなんだろうと考え、「金魚」に変更しました。

誰もが知っていて親しみある金魚は、金魚すくいや夏の風物詩として幅広い世代から愛着を持たれています。しかしよく考えてみると、実は動物の中で最も劇的に変化した生き物です。

生物学的に見ると極めて短い時間で、一見地味なフナから驚くほど多様な色彩や形の変化が起きていて、生き物の進化のロマンを疑似体験できますし、この先、どんな姿・形になるかを想像させることで、身近にいる地味な生き物の見かたも変わります。

さらに金魚の文化や人との関わり、体形による行動の違い、金魚の生産国の美意識の違いなど、金魚を通して多くの発見や驚きがあります。

このように一方向ではなく、様々な視点から生き物を観察するきっかけを作っています。目の前にいる生き物を通して、その背景をどのように伝えるか、中身が変わらなくても伝え方を変えることで見え方が変わってくる。それが展示の醍醐味だと思っています。

他の動物園、水族館と違いはありますか?

自然教育研究センター(CES)という、人と自然をつなぐ環境教育を30年間以上続けている会社が運営母体なので、教育的な目線でアプローチをしています。

例えば、2017年からスタートした「教育利用研究会」という取り組みは、地域の保育園・幼稚園や小中学の先生達と一緒に研究会を作って、生物園を使った効果的な授業を考えています。このような取り組みは、日本ではまだ少ないと思います。年に2回、ワークショップ形式でプログラム開発を行って、実践しています。

外見はパッと見ると古い施設ですが、教育的な目線を持って、様々な活動をしているところが他との大きな違いだと思います。

自然教育研究センターとはなんでしょうか?

CESは1990年の設立以来、ビジターセンターなどの拠点運営や自然体験プログラムの企画・実施などを通して、環境教育に積極的に取り組んでいます。2020年現在、都内を中心に20施設の運営業務、解説業務を行っています。

近年は自然公園だけでなく、身近な都市公園での環境教育のニーズも高まっていることから、それら施設の運営・解説業務にも多く関わっています。

自然教育研究センター:https://www.ces-net.jp/

園として環境問題に取り組んでいますか?

特別に環境問題を取り上げている訳ではありませんが、子供達には環境に配慮した行動を、自然にできる大人になって欲しいと願っています。例えば、様々な環境問題が注目されている昨今、環境問題への具体的な行動を突然訴えても「動ける人」と「動けない人」がいると思います。それはなぜかというと、環境問題が自分事になっていないからだと思っています。

生物園は、生き物の観察やプログラムを通して、環境問題について考えるきっかけを作る場所だと考えています。例えば、足立区で絶滅してしまった生き物を展示していますが、ふれあいなどを通して興味を持った時に、「なぜ今はいなくなってしまっただろう?」と疑問を持つ子供達が増えれば、環境問題に直面した時にも自分の頭で思考し、好きなものを守るためにどうすればいいのか、自分事に落とし込んでくれるのではないかと考えています。

海上さんの環境活動は?

私自身は干潟や海の保全に関わっています。そこで感じたことは、遊ぶ人や守る人がいなくなった干潟や海は簡単に壊されてしまうということです。

特に注目しているのが海辺の公共工事で、例えば東北では震災後に巨大な防潮堤が築かれています。今までも防潮堤はありましたが、急速に進んだことはありませんし、より規模も大きくなっています。同時期に造り始めると、生き物は逃げる場所もありません。これは生息環境が悪くなったという話ではなく、居場所そのものが無くなることを意味します。

震災の影響で生き物達には深刻な状況ですね

はい、とても危機的な状況です。その中で生き物を守ることができた例もあります。

私が参加している研究チームが調査した福島県の鮫川河口干潟には、ハマガニという絶滅危惧種の東北地方最大級の生息地がありました。しかし、その場所は重機の作業道として踏み潰されそうになっていたんです。そこで関係機関との情報交換が行われ、一定の配慮の結果、少し作業道をずらしてもらうことができました。翌年、再び調査に行くと、カニたちが生息していたのを見て安心したことを鮮明に覚えています。

今回の件は、ギリギリ間に合って最悪の結果にはなりませんでしたが、「一般の市民や研究者にもっと情報があれば生き物を救える機会も増える」と思うと、より一層そのような人を増やしていかなければと強く思いました。

しかし一方で、この工事自体は善悪で判断できない難しい問題です。防潮堤は津波などの災害から市民を守るために作っています。自然と防災をどう配慮すれば良いのか、子供達にそのようなことを考えられる大人に育ってほしいです。

目標などはありますか?

私はすごく面白い立ち位置にいて、水族館の飼育員と海辺の調査員、解説員、そして海に関わるNPOで活動をしています。

それぞれの視点から海やそこに関わる人を見ていると、似たような課題を抱えていたり、それぞれの長所、短所が見えてきました。それらをうまく補い合いあえば、より良い活動ができるのではと思っていますし、それらをつないでいきたいです。

生物園外観

三番瀬環境観察館正面

三番瀬で行っている干潟観察会の様子

生き物の見分け方をレクチャー

ニューギニアカブトガメ

かつて東京湾内にたくさんあったアマモ場を再現した水槽

幻のヘビ:ベーレンニシキヘビ

国内最大級の金魚水槽には、多彩な品種が泳ぎまわる

コモンリスザル

アマゾン川の巨大魚:ピラルクー(手前) とジャウー(奥)

用意した蜜を吸う日本最大級の蝶:オオゴマダラ

園内を駆け巡る行動が人気のチョウセンシマリス

アフリカに生息するケヅメリクガメ

深海生物のオオグソクムシ

温室に飛び交う蝶は飼育室で卵から育てている

アオサ漂う海に潜る

絶滅危惧種のハマガニ

環境省モニタリングサイト1000干潟調査の風景:東京湾に残された広大な小櫃川河口干潟で調査

お台場:薄暗い底で死亡したシオフキ

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

私は学生の頃から海の体験活動に顔を出していましたが、その頃に比べると、今の親世代の方が子供を外に連れ出すことに意欲的になってきていると感じています。ぜひ子供たちと一緒に様々な体験活動に顔を出してほしいです。そして、自然とそこに集まる愉快な人とのふれあいを通して、自然を好きになってほしいです。

海上さんの想い

趣味のダイビングでは国内外で潜ってきました。ハワイ島のマンタの群泳や佐渡島のコブダイなど心に残るスポットは数あれど、一番印象に残っているのが調査で潜ったお台場です。真夏のお台場は、昼間に潜っていても水中ライトが必要なほど真っ暗です。赤潮で太陽の光が遮られ、たった4m潜るだけで何も見えなくなります。ライトで海底を照らすと、貧酸素特有の真っ白なバクテリアマットが海底を覆い、様々な生物が窒息して死に絶えていました。まだ生きているアサリが苦しみながら酸素を求めて歩く姿も目にしました。観光客であふれるにぎやかなお台場から海に視点を向けると静かに死が広がっている、ここまで生と死のギャップが際立つ場所を他に知りません。

それでも夏が過ぎると透明度が上がり、海底に光が差すようになると、新しい生命が芽吹くように次々と現れる光景に、心を奪われましたし、海の生き物の力強さや神秘を感じました。

海にはものすごい力があります。それを知ってほしいし、一緒に守る仲間を増やしていきたいです。そのためにまず海で遊び、その面白さ、不思議さに触れること。それが大事だと思っています。ポストコロナの時代に移っても、この思いを大切に行動していきます。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com