今、あなたの力が必要な理由

vol.58

たばこ会社はサステナブルになれるのか~健康からポイ捨てまで、喫煙の害に立ち向かう!!~

濱中祥子

濱中祥子さん- Shoko Hamanaka -

フィリップ モリス ジャパン合同会社
エクスターナルアフェアーズ コーポレートサステナビリティ エクゼクティブ

2015年フィリップ モリス ジャパン株式会社(当時)入社後、営業、渉外担当を経て、2019年5月より現職。フィリップ モリス ジャパンにおけるサステナビリティ戦略の立案と実施、サステナビリティレポートの制作、および社内外のステークホルダーとの関係構築を担当している。

濱中さんは何をされていますか?

私はフィリップ モリス ジャパン(PMJ)で、企業のサステナビリティを推進する担当をしています。フィリップ モリス インターナショナル(PMI)の日本法人として、グローバルの戦略を見据えながらも、日本における当社事業の影響と日本の市場で必要とされているサステナビティに関する課題を特定し、その取組みを推進しています。

フィリップモリスはどのような会社でしょうか?

PMIは、米国以外の地域において、紙巻たばこ、煙の出ない製品とそれに関連する電子機器・アクセサリー類、その他のニコチン含有製品の製造と販売を行っています。

PMJはPMIの日本法人として、フィリップモリス社製品の日本におけるマーケティングおよび販売促進活動を担っています。当社は紙巻たばこからの撤退を目指すことを宣言し、紙巻たばこを煙の出ない製品に置換えることを企業活動の主軸にしています。

濱中さんは喫煙者ですか?

いえ、私は非喫煙者です。実はたばこの煙が苦手で、たばこやたばこの会社に良い印象を持っていませんでした。しかし、私が就職活動中に煙の出ないたばこ製品であるIQOSが日本で発売され、「たばこ会社でありながら煙の出ない製品を打ち出す」という斬新な発想に惹かれて会社のことを調べてみると、たばこに対する会社の考えをはっきりと打ち出している姿勢に興味を持ちました。「煙のない社会」をたばこ会社が目指しているスタンスに共感し、入社を決めました。

最近目にすることも多いIQOS(アイコス)はフィリップモリス社の製品ですね

そうです! PMIでは、加熱式たばこ製品を長年研究開発してきました。10年以上前に日本と米国で初めて加熱式たばこの機器を発売しましたが、当時は消費者に受け入れられませんでした。

さらに第二弾の試作品が2006年にスイスとオーストラリアで試されましたが、これもサイズが大きく、味わいも不評のため受け入れられません。第三弾として満を持して発売した加熱式たばこがIQOSでした。

2014年に名古屋とイタリアのミラノでテスト販売した後に、2015年9月には公式のIQOSストアで販売を開始。2016年4月から全国のたばこ取扱店へ販路が拡大され、それ以降は成人喫煙者の反応も良く、現在に至っています。

シェアはどのくらいなんですか?

日本におけるIQOSのシェアは約20%(2020年9月末時点)です。加熱式たばこカテゴリーは、これからも日本で拡大する市場だと思います。

厚労省が実施している調査の一つ、「国民健康・栄養調査」では、2018年(平成30年)の報告から「加熱式たばこ」と「紙巻たばこ」が区別されるようになりました。最新の調査結果によると、習慣的に喫煙をしている男性で27.2%、女性の25.2%が加熱式たばこを使用していることがわかっています。

この数字からも、日本では加熱式たばこへの切替えが進んでいることがわかりますし、国が行う調査で「加熱式たばこ」が「紙巻たばこ」と異なるカテゴリーに分類されたことからも、社会の中に加熱式たばこの存在感が増してきていると感じます。

たばこ会社としてサステナビリティの考え方は?

企業がサステナビリティのどの分野に注力すべきかを考えるとき、まず、事業が社会や環境に与える影響を理解する必要があります。当社が持つ最も大きな影響は、私たちの製品、紙巻たばこの害です。裏を返すと、当社が社会に貢献し、サステナブルな企業でありたいと考えるのであれば、この問題に対処することから始めなければなりません。

どのような対処ですか?

紙巻たばこの喫煙と比較して、より害の少ない代替品の開発と市販化によって、一日も早く「紙巻たばこの煙のない社会を実現すること」を目指しています。これは、事業戦略の中心であり、サステナビリティの最も重要な柱でもあります。

一方で、事業の変革に伴う新しい社会や環境への影響に対処することも必要です。環境に与える影響の一つで、日本市場と関係が深い課題がIQOSの使用済み機器についてです。IQOSユーザーの数が増えるにつれて、IQOSの使用済み機器の適切な処理が日本市場の新たな課題になっています。

どのような課題でしょうか?

PMIは日本を含む2か所に、IQOSの使用済み機器を回収、検品、リサイクルするための拠点を確保しています。日本の拠点では現在、保証期間中に故障で返品されたIQOS機器を回収し、素材ごとにリサイクルをしています。2拠点で回収されたIQOS機器のリサイクル率は2019年末日の時点で74%です(エネルギー回収はこの数字に含まれておらず、埋立て処理は行っていません)。

PMIは、これらの拠点企業と緊密に連携して、故障の原因やリサイクルのしやすさに関するフィードバックを受けながら、それを製品デザインの時点から考慮することで、サーキュラーエコノミーへの貢献を目指しています。

御社のたばこのポイ捨てに関する取組みを教えてください

たばこのポイ捨ては、当社が長い年月をかけて取組んでいる課題です。PMJとして、社員ボランティアによる清掃活動を始めてから20年近くが経ちました。実施してきた清掃活動は山、川、街、そして海など多岐にわたります。私たちはごみが街から川、そして海へと流れているという認識のもと、どこか一カ所を掃除すれば良いということではなく、ごみが出るところを広く活動の拠点としてきました。

コロナウイルス感染症の拡大を受けて、従業員が一斉に清掃活動をすることが難しい状況が続きますが、現在、個人でボランティア活動をしやすくするための会社の制度づくりに取組んでいるところです。

主に清掃活動がメインなんですね?

近年は、World Cleanup Dayへの参加を通して啓発活動も行っています。当社は、World Cleanup Dayが日本に紹介された2018年から様々な形でこのイベントに参加しており、2020年は同イベントへの協賛に合わせ、ポイ捨て防止を啓発する動画を制作しました。

2019年には、東京都の荒川で活動されている「荒川クリーンエイド・フォーラム」さんに、海洋プラスチックに関する社員向け講義をしていただき、そのあと、ボランティアを募って荒川の清掃を行いました。

そのほかの環境活動はいかがですか?

気候変動の対応に目を向けると、当社は2030年までにPMIとして、温室効果ガス排出量の実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指すという野心的な目標を掲げています。日本でこの目標に貢献できる分野として、営業活動のために使用する社用車の燃費向上に力を入れています。

すでに80%以上の営業車にテレマティクスという通信機能を備えた車載機が導入されており、90分以上のアイドリングを可視化し、必要に応じて燃費向上のための指導を実施しています。また、車種についても段階的に電気自動車・ハイブリットカーに置換えているところです。

グローバルでのその他の取組みはいかがでしょうか?

国際環境NGOであるCDPが「気候変動」「森林」「水」の分野で優れた対応をしている企業を選ぶ、「2020年度Aリスト」を公表しました。PMIがこの3分野全てにおいて「A」評価を獲得した10社のうちの1社に選ばれたことは、昨年届いた嬉しいニュースでした。

気候変動については2030年を見据えた目標に加え、PMIは2050年までに、当社が直接排出する温室効果ガスに加え、サプライチェーンで間接的に排出される温室効果ガスを含めてカーボンニュートラルになることを目指しています。

PMIは温室効果ガス排出量が特に多い上流サプライチェーン(たばこ葉農家や直接原料の仕入れ先など)に重点を置いて、取引先とも協力しながら排出削減に取組んでいます。

森林保全の事例としては、たばこ葉を乾燥させるために使用する薪を、サステナブルに調達する取組みがあります。2019年にPMIが調達したたばこ葉の97%は、保護価値の高い森林破壊のリスクを伴わずに乾燥されました。2020年までにこの割合を100%にすることを目指しています。

水資源については、実はIQOS専用たばこスティックの製造には紙巻たばこよりも多くの水を必要とします。そのため、製造工場では水をリサイクルするテクノロジーを導入するなどして、この課題に対応しているところです。

御社の環境活動が負荷軽減の効果に現れていますか?

環境を含む多くのESG(環境・社会・ガバナンス)関連分野で実績が出ています。取組みの進捗はPMI統合報告書2019(英語のみ)および、PMI統合報告書2019ESGハイライト(和訳)に掲載されています。

最近、砂浜では葉たばこのフィルターよりIQOSのフィルターが多いことについて

IQOS専用たばこスティックにもポイ捨てされるリスクがもちろんありますが、当社が実施した調査によると、紙巻たばこに比べてポイ捨てされにくい可能性が見えてきました。

日本・イタリアのIQOSユーザーと紙巻たばこ喫煙者に吸い殻の処理方法を聞いてみたところ、どちらの国でもIQOS使用時のほうがポイ捨てを「しない」もしくは「ほとんどしない」という回答が多い結果になりました。IQOSは火を使わず灰が出ないので、紙巻たばこのように専用の灰皿に捨てる必要がないという特徴が理由になっているかもしれません。

PMIは、2025年までに2021年比で、当社製品に由来するプラスチックごみのポイ捨てを半減するという目標を掲げています。紙巻たばこにもIQOS専用たばこスティックにも、フィルターの一部にプラスチックが使われていることはあまり知られていないのではないでしょうか。

今後も消費者行動の理解に努めると同時に、World Cleanup Dayのような機会に啓発活動を行うなど、ポイ捨て防止の取組みを続けます。

問題、課題、将来について

私たちの大きな課題は社会の信頼を得ることです。現在は、多くの方々がたばこ会社を信頼するのは難しいと感じている事実も理解しています。

しかし、私たちはより良い社会をつくるために、たばこ会社にも担える役割があると信じて、紙巻たばこからいずれ撤退をする意向を宣言しました。その進捗を社会に伝え、社会の期待に耳を傾けながらそれを取組みに反映することが、当社のサステナブルな未来の礎となります。

※日本における取組みについては、PMJのサステナビリティレポートで詳しく紹介しています

たばこのポイ捨てで悪者イメージになりがちですが、たばこ会社からのメッセージお願いします

「この世の中から、なくなってしまったほうがよいものは何ですか?」と質問したら、多くの人が「たばこ」と答えるかもしれません。その理由は、たばこの健康への害、ポイ捨て、においや煙、未成年への悪影響など、答える人によってさまざまだと思います。

当社がたばこの販売を止めることが、これらの問題解決になるでしょうか。世界中には喫煙を続ける意思を持つ喫煙者がいて、近い将来でも、推定喫煙者数は10億人以上いると言われています。私たちが紙巻たばこの販売をやめても、喫煙を望む人がいて、たばこを入手できる環境があれば、喫煙に関する問題は続いてしまうでしょう。

当社は、喫煙開始の予防と禁煙推進に向けた政府の取組みと並行して、今後も喫煙を続ける意思を持つ成人喫煙者を対象に、紙巻たばこと比較して害の少ない代替品への切替えを促すことに意義があると考え、今、これまでの事業を覆すような変革を進めているところです。

IQOS 3の専用機器

IQOSストアで紙巻たばことIQOSの違いを科学的な視点から説明するスタッフ

IQOSストア銀座店

紙巻たばことは異なるカテゴリーとして確立しつつある加熱式たばこ

日本にある使用済みIQOS機器のリサイクル拠点

PMIの従業員がスイスで清掃活動

WCD2019への参加の一環としてPMJ従業員が荒川を清掃

WCD2020のクリーンアップ活動

富士山のクリーンアップ

海洋プラスチックに関する社内勉強会

インドネシアにあるPMI関連会社が所有する製造施設の排水処理

アルゼンチンでたばこ葉を熱気乾燥している様子

節水効果が高い点滴灌漑(かんがい)を導入しているメキシコのたばこ葉農家

サステナブルに調達された薪の横に立つPMIが契約するマラウイのたばこ葉サプライヤー

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

当社の「煙のない社会」を目指す取組みと、そのほか、サステナビリティに関する取組みに関心を持ってくださった方、是非、皆さまのご意見をお聞かせください。たばこに関する課題は多く、複雑ですが、たくさんの関係者が共に考え、行動することで解決の糸口が見つかるはずです。

濱中さんの想い

サステナビリティという言葉を最近色々なところで耳にするようになりました。多くの人が自分を取り巻く環境や社会にまで意識を巡らせていて、より持続可能な社会をつくる機運が高まってきていると感じます。その中で、個人も企業も、豊かな想像力を持ち、新しい価値観に柔軟であれば、できることはまだまだたくさん見つかるはずです。

私自身も公私ともにたくさんの人と話し、危機や困難を機会に変えられるような、前向きなエネルギーを交換しながら、自分にできることに挑戦し続けていきたいと思っています。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com