今、あなたの力が必要な理由

vol.59

「音楽」と「食」から環境を伝えるミュージシャン~海菜は海からの贈り物~

宮手健雄

宮手健雄さん- Takeo Miyate -(テミヤン)

フォークシンガー、野草研究家

平塚生まれ、茅ヶ崎育ち、葉山在住。浜辺のフォークシンガー。
1984年、ブレット&バターの岩沢二弓プロデュースによるアルバム「Za Za Za」でデビュー。湘南を拠点として、心がほどけるような人生を支える唄、胸がきゅんとなるような恋の唄、森羅万象の神秘を感じる唄、彼の太く深みのあるやさしい歌声には、潮風と波の音と温かな陽射し、そして穏やかな時の流れがあり、多くの人が魅了されている。現在までに、メジャーレコード会社より16枚のアルバムと12枚のシングルをリリース。たくさんのアーティストに楽曲提供もしている。

▼幸せの小舟(湘南で採れる海藻の色々から始まる楽曲)
https://www.youtube.com/watch?v=w7a3Q-q04Rc

▼宮手健雄(テミヤン)さんFacebook
https://www.facebook.com/temiyan.miyate

テミヤンさんは何をされていますか?

私は地元湘南を拠点とした海辺の生活をコンセプトに、自然体でさりげない日常を通し人生を歌い上げる、独自のアコースティックな湘南サウンドを確立したミュージシャンです。神奈川県のテレビ、ラジオ、雑誌などのメディアで湘南情報を発信するかたわら、葉山に開店した「海菜」の経営をしています。

どのような音楽活動をされてきましたか?

1984年にハミングバードレコードよりアルバム「ZaZaZa」でデビューしました。ちなみに同期は、中村あゆみ、浅香唯です。その後は高橋真梨子、アグネス・チャン、中村あゆみ、谷村有美、他に楽曲提供などの活動をしていました。

バンド「ラチエンボーイクラブ」のメンバーとしての活動を経てソロ活動を再開し、財津和夫のコンサートツアーにもコーラスで参加。パシフィックヘブンクラブバンド(Kan、スターダストレビュー、森高千里、その他)のメンバーとしてアリーナツアーに参加。テレビやラジオのレギュラーやナレーションの仕事もしてます。

テミヤンさんの曲を聞いていると湘南の風景が浮かんできます。最近の湘南の海はいかがでしょうか?

この数年で一番に感じることは、湘南海岸の砂浜が狭くなったことでしょうか。茅ヶ崎の海岸線でも途中で歩けなくなる場所もあり、環境の変化を感じます。海辺の植物は年に数回の台風などで、砂は大きく舞い、植物は流されてしまいます。

でも、それは自然なことで仕方ありません。現在も全体的に浜辺の植物は減少していますが、保護活動をされている団体もあり、なんとか持ちこたえている状況です。

相模川の河口でもある、茅ケ崎海岸で実施している養浜事業では、ダムの浚渫土で海岸線の後退を抑えているのですが、砂浜に山の植物が突然生えたりするので驚くことがあります。養浜は大切なのですが、海辺独自な植物相においては心配な点も多いですね。

ミュージシャンだけではなく、野草研究家としての活動もされている?

山菜との出会いは子供の頃でした。キャンプをしていた東丹沢のふもとで、地元の人たちが「ワラビ」「ミズ」「モミジガサ」などの山菜を摘むのを見て、それまで「セリ」や「ツクシ」ぐらいしか知らなかった自分にはとても新鮮に感じました。

それ以来毎年、山菜の採り方や見分け方を少しずつ教えてもらい、自分でも本を見て勉強しました。自然の中に生えてるものを自分で探し出し、直接触れて、匂いを嗅いで、噛んで、摘み取って食べる。その野草の奥深さに魅了されました。

そして、趣味が高じて色々と調べていくうちに、湘南の浜辺にも食べられる野草がたくさんあることを知りました。潮風にさらされる砂地という過酷な環境の中、それぞれが工夫を凝らして何千年も生きてきた浜辺に生えている植物を、山菜と区別する意味で、私はそれらを「海菜」(かいな)と呼んでいます。

「海菜」ですか!面白いですね

海岸の波打ち際から前後1kmの間に自生している食べられる植物をはじめ、潮が引いた時に採れる海藻や、浜辺の「ツルナ」「ハマ大根」「ハマカンゾウ」など、松林の中に自生している「エビヅル」「イヌビア」や「ヤマモモ」のような果実もあることから、昔から慣れ親しんている物を「海菜」と名付けました。

ある時、山菜の本の執筆を依頼された時に、「海菜」が広く知られるようになればと思い、初めて「海菜」を文中に使わせていただきました。

なんという本ですか?

「湘南ワイルド食卓図鑑」「山菜☆海菜フィールドノート」といいます。茅ヶ崎市では点字図書にもなっています。この本はイメージの中で語られる湘南ではなく、リアルな生活史として食文化を途絶えさせることなく、楽しむことを伝えています。今にして想うと、幼い頃に見た「相模湾の原風景」と「歌」は全て繋がっていると感じ、その想いを伝えるために執筆をしました。

しかし、私は誰も彼にも野草、海菜採りを推奨しているわけではありません。自然に対して心づかいのできる人だけに許された行為だと思っています。自然が減少する中、これからの時代の山菜採りや海菜摘みに大切なことは、あまり無理せず、見つけた野草は自分が食べる分だけ採取し、時期の過ぎた物や数の少ない個体は諦め、観察するだけにとどめて欲しいと願っています。

具体的に海菜とは何でしょうか?

山や里山で採れる「山菜」に対して海辺で採れるものを「海菜」と呼んで区別しています。海辺の植物には独特の生態系があります。

引き潮の磯に姿を現すヒジキなどの海藻類。渚で波の飛沫が届きそうな砂浜に生えるオカヒジキなどの一年草群落。少し後退した砂丘にみられるハマボウフウなどの多年草群落、そしてハマゴウなどの低木群落から、クロマツ、ヤマモモなどの高木群落などがあります。

海菜はどこに自生しているのでしょうか?

日本の海岸線に生息している多年草でツルナ、ハマナ、ハマジャシャ等と呼ばれ、海辺近くの民家の周りや防砂柵の脇など、風の吹き溜まるようなところに生えています。

しかし湘南海岸の海菜は、残念ながら、もはや摘み菜を楽しめるような状況ではありません。もし見つけても、保護のためにも「ほんの少し味わってみよう」という程度にしていただきたいです。また、場所によっては漁業権があるので注意が必要です。

難しい状況ですね

もし、海辺の植物に興味をもたれたのなら、神奈川県横須賀市三浦半島の佐島にある「天神島」を訪れてはいかがでしょうか。この施設は海洋植物を保護している自然公園なので、四季を通じてツルナ、ハマゴウ、ハマダイコン、ハマボウフウ等の海菜や北限のハマオモト(ハマユウ)やハマボッスに出会えます。

特にハマボウという植物は、満潮時に根が海水に洗われる熱帯のマングローブに似た仲間です。夏には淡い黄色のハイビスカスのような素敵な花を咲かせます。

注)自然保護の公園なので採取は厳禁です

著書「湘南ワイルド食卓図鑑」を拝見しました。湘南の食材が満載でした

海からの恵みを大切に利用するという、ネイティブ湘南人のディープな食文化を途絶えさせることなく楽しんでいきたい。そんな気持ちで思い立った企画でした。この本は、いわゆるガイドブックには紹介されないような料理や食材がほどんどです。海辺の日常生活の中で、湘南の自然の豊かさを伝えています。

私の一番のこだわりは、歌も、海の遊びも、食も、生きることの全てが繋がっていくライフスタイルですから。

そのような想いで飲食店「海菜」も経営されているのですか?

はい!現在、日本国民の日常的な食卓では、純国産の食品を探すことは大変です。ましてや自然とうまく向き合い、四季を感じさせる三度の食事をいただくことは困難だと思います。そんな状況に危機感を持って、自然農法や有機栽培、旬な食べ物を見つめ直す大切さに気がつき「海菜」を開店しました。

長年の海辺の食べられる野草「オカヒジキ」「ツルナ」「明日葉」「ヒジキ」「ワカメ」に本来の植物の力を感じていていたので、「海菜」では、なるべく地元の無農薬野菜や地元の食材を使用して、化学調味料は使わず料理を提供しています。

お魚も、地元の漁師さんがとれたてを届けてくれて、地ダコもお店で茹でています。基本は、ご飯と味噌汁だと思い、「龍の瞳」提供のつやみがき玄米と、鰹節、煮干しでとった出汁の具沢山味噌汁をお出ししています。

夢はありますか?

今まで自分が生きていくために歌っていた気がするので、今後は人のための歌を唄っていきたいと思います。実際に、町やお店、企業、個人の方からも色々なオファーをいただき、楽曲作りも増えています。そして海から感じたことを、力を抜いて、植物のように自然に歌うことが私の夢です。

環境活動はされていますか?

茅ヶ崎にある「ゆい」というグループは「ハマボウフウ」という絶滅種の植物を育てている団体です。彼らはその植物を増やすだけではなく、出来れば商品化をして障がいのある方々の仕事にしたいと試行錯誤をしているので、海菜でもその商品の買取を検討をしています。

また、パネルディスカッションを通じて、海辺の植物の生態や発見等を公演活動で伝えています。先ずは海辺に来てもらい、見て感じて、豊かな心を育んで、五感を使って海辺を楽しんでもらいたいです。

環境問題はいろいろな形で伝えることができるんですね

私は環境問題の専門家ではありません。しかし、シンガーソングライターとして「歌」で自然の大切さを語りかけることや「海菜」から海の厳しい自然環境を伝えることもできるかなと思っています。また「食」を通して、古来から続く日本の豊かな食文化を継承できればと考えています。

現代の大量消費、フードロス。このままでは地球の自然回復力を超えていきます。遠い国の話しのように思っている飢餓さえ、人ごとではないと思っています。素晴らしい日本の自然を守るためにも、身近な植物に目を向ける。そんなきっかけを、私ならではのアプローチで伝えていければと思っています。

葉山のお店「海菜」

ボタンボウフウ(長命草)

ボタンボウフウ

ツルナ

ハマゴウ(浜香)

ハバノリ

ツルナ

「山菜☆海菜フィールドノート」「湘南ワイルド食卓図鑑」

ビーチクリーンイベントでのライブ

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

海辺の植物には食べることできるものもありますが、例えば、正論で道徳的にとっては絶対ダメと言うより、食いしん坊的発想で「取りすぎてしまうと来年は食べられませんよ」って言った方が好きですね。

そのような感覚や欲求のバランスを少しでも考えていただくと、浜辺の野草のことを大切にする意識に繋がると思います。さらに植物の名前を覚えてくれるだけで愛おしさが増すと思うので、ぜひ海辺で植物の観察をしてみて下さい。

テミヤンさんの想い

海辺の植物は環境が過酷だからこそ、流されないように根が長かったり、種はコルク質で、海に浮いて波に運んでもらうようにできています。「ハマヒルガオ」「ハマエンドウ」は濃い色の花をつけたり、強い光に負けないような葉っぱだったり、それぞれ工夫して生きています。浜辺を散歩する時に自生している植物を観察すると、季節や環境の変化にも気がついていただけると思います。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com