ビーサン協会とはどのような団体ですか?
「はだしで歩ける海岸をいつまでも残したい」と言う理念のもとにビーチクリーンを行い、綺麗になった砂浜でビーチサンダルを遠くに蹴とばして距離を競うのがビーサン跳ばし選手権です。
1990年に神奈川県茅ヶ崎市でビーサン跳ばし選手権がスタートし、2003年に日本全国でビーサン跳ばし選手権が開催できるように設立したのがビーサン協会です。現在では、北は岩手県から南は沖縄県の宮古島まで幅広く活動しています。
岩井さんはどのように活動をされているのですか?
平日は会社員として務め、休日にビーサン協会の活動をしています。例えば、土曜の朝に鹿児島で「ビーサン跳ばし選手権」がある場合は、仕事終わりに飛行機で福岡まで移動、最終の新幹線は熊本止まりなのでそこで一泊し、早朝始発で鹿児島入りします。タイトなスケジュールの中、会社員とビーサン協会の仕事を両立させながら活動しています。平日に活動することができないので、沢山の方々にご協力いただいております。
ビーサン跳ばしは、どのような競技ですか?
規定のコートでビーチサンダルを遠くに蹴り飛ばし、その距離を競う競技です。まずは参加者全員で会場である海岸のごみ拾いをします。「綺麗になった砂浜で、子供からお年寄りまで思い切りビーサンを蹴りあげる」という、とてもシンプルで面白いイベントです。
遠くに跳ばすには秘訣があります。それは余計なことを考えないことです。記録を狙ったり、カッコいい所をみせようとすると残念な記録になる事が多く、メンタルが試されるスポーツでもあるようです。
当初、ビーサンを蹴り出す回数は2回だったのですが、参加者がかなり増えたため、全員が参加できるように1回になりました。年に1回しか開催できない地方大会もありますが、その1回のために練習を重ねてきたのに、ファールとなり大号泣する子供もいます。かわいそうですけど、皆に公平を期すために「また来年も頑張って」と声をかけています。それでも大会の後に「ビーサン跳ばしごっこ」としてみんなで遊んだりしています。(笑)
「ビーサン跳ばし選手権」の公式ルールについて教えてください
砂浜に横5mのキックライン、その両側から縦35mのファールラインを引きます。メジャーがなくても25cmのビーサンを「1ビーサン」という単位で計ることができます。「横20ビーサン」「縦140ビーサン」で規定の距離になります。
以前は縦30mの距離でしたが、記録が更新されたため変更しました。これからも記録が出るたびに更新されるかもしれませんね。ちなみに今までの最高記録は33.13mです。
また、海岸ならではのルールも作りました。トンビ等にまつわる規則として、空高く舞い上がったサンダルをトンビ等に取られてしまうとファールになると、HPに記載しました。
使用するサンダルは公平を期すために、全員同じ種類のビーサンを使用します。公式サンダルとして、サンダルやTシャツで有名な葉山の「げんべい」さんとのコラボサンダルを使用しています。S、M、Lサイズのビーサンを用意しています。
開催前にゴミ拾いをするのですね
はい。海岸線に集まるごみは川から流れてくる物が多いのですが、夏には砂浜にも多くのゴミが散乱しています。特にBBQの残骸、タバコの投げ捨て、禁止されているロケット花火の燃えカスも多いです。そのため、競技を開催する前に必ずごみ拾いをします。
理由は、僕たちの活動の狙いの一つとして、環境に全く興味のない方々にもビーサン跳ばしを通し、環境問題に少しでも関心を持ってもらいたいと思っているからです。
ビーサン跳ばし選手権へ参加した方から「初めてビーチクリーンをした」などの声をかけてもらうこともあり、微力ながら関心を持っていただける“きっかけ”になっていると実感しています。
ゴミ拾いの時間はどのくらいですか?
「ゴミ拾いに参加してみる」というのが一番の目的なので、ゴミ拾いの時間は短いかもしれません。長年のごみ拾い活動で気がついたことは、人が大勢集まる海岸だからといって、ごみが多いとは限らないということです。観光客が多い海岸は、環境意識の高い人が多いようで、そうそうごみは捨てません。人の目もありますしね。
逆に、人が少ない海岸にごみが多いイメージがあります。場所によっては海外から流れてくるゴミが溜まっている所もあります。
苦労はありましたか?
そうですね。最初は「サンダルを跳ばして何になるんだ」といったご意見がきました。しかし、活動が大きくなるにつれて応援の声が増えてくると、今までのような批判の声も少なくなりました。
最近では仕事として「梅干し種跳ばし」など、物を跳ばすイベントのMCのオファーが来るようになりました。やはり「跳ばす」という行為は何か駆り立てるものがあるのでしょう(笑)
どのような方が参加されますか?
孫の付き添いで、おじいちゃん、おばあちゃんも多く参加されています。昔からある長靴や下駄跳ばしを経験されいる方もいるので、皆さん結構遠くへ跳ばします。
競技のカテゴリーは、小学校4年生までが男女ともに子供部門として一緒に競技を行い、5年生以上は全て大人部門として男女を分けています。競技を開催していく中で、中学生以上を大人部門としていましたが、小学校高学年の子供たちも「かなり跳ばすぞ!」という事で、5年生以上が大人部門となりました。
海外の方もよく参加してくれます。以前のチャンピオンはアメリカの方でした。また、セントレア空港に近い愛知県新舞子で開催した際には、中国の方が流暢な日本語で「大きいという“大”に“連なる”と書いて大連から来ました。」と自己紹介をすると、参加者全員から「大連は知っているよ」とツッコミが入り、和やかな大会になったことを覚えています。
コロナの関係でイベントが制限されていると思います
20年近くこの競技に関わってきました。茅ケ崎発で開催していましたが、今では日本各地で「ビーサン跳ばし選手権」が開催されるようになりました。現在はコロナの影響でほぼ全てのイベントが中止です。しかし、今でも「コロナが収まったらお願いします」という連絡を多数いただき、とても励みになっています。
実は2020年に少しコロナが下火になった時期に、しっかりと対策して2回開催する事ができました。感染防止の観点から、使用した公式ビーサンは、そのまま参加賞としてプレゼントとなりました。今後どうなるかわかりませんが、対策はしっかりと行います。
今まで印象深かった「ビーサン跳ばし選手権」はありましたか?
「長期療養の方が入院している病院」からの依頼で、ビーサン飛ばし選手権を開催したことがあります。病院の中庭の芝生で行いました。記録より「楽しい!」を目的としたほのぼのとした大会です。
競技を進行していると、車椅子の初老のご夫婦が「私もやりたい!」と飛び入りで手をあげてくれました。ビーサン跳ばしは足で蹴るため、どうやってやろうかと考えていたところ、その方が両手で力いっぱい車椅子の手すりを握りしめ、立ち上がろうとしています。看護師さんの手を借りながらなんとか立ち上がり、ビーサンを浅く履いた足を振って、短い距離ですが跳ばすことができました。
担当していた看護師さんは「自分で立とうとする姿を初めて見ました」と、目が潤んでいました。たかがビーサン跳ばしですが、人の人生や思い出に寄り添うことができたと感じた瞬間です。
砂浜のないところでも開催できるのですね
はい。砂浜のない地域でも競技はできます。東京都杉並区永福にある人工砂浜の施設でも行いました。また、長野県の野辺山高原や郵政省の駐車場で行ったこともあります。
時々「海はありませんが、競技はできますか?」と、問い合わせがあります。その場合は「街のゴミは川を通り海に流れてきます。どこでも海とつながっているので、ビーサン跳ばしはできます」と伝えています。
今までの活動を通して、海の環境に感じていることはありますか?
僕は全国の海岸に多く訪れていますが、どの海岸もごみや海岸侵食の問題や悩みを抱えていると感じています。昨今、地球温暖化による海水温度の上昇や、巨大台風の発生と洪水などの自然災害が頻発し、将来的に今の環境を維持できるか心配しています。
その反面、改善されたこともあると感じています。ビーチクリーンという言葉さえ無かった頃、海岸には割れた瓶など危険なものが散乱し、とても裸足では歩けない状況でした。
しかし、皆さんの環境意識の高まりによって海岸の状況はかなり改善されてきています。ただ、マイクロプラスチックなどの問題もありますので、まだまだ先は長いと思っています。
夢や目標はありますか?
色々なところで「ビーサン跳ばし選手権」を開催したいです。今のところ最北端が岩手県なので、北海道でも大会を開きたいと思っています。
それと、以前に一度だけ開催したことのある、グランドチャンピオン大会をまた開催したいですね。この大会は、全国のビーチクリーンイベントで予選会をして、その勝者が年末に本拠地へ結集して開催しました。
以前は予算がほぼ無い状況でしたので、こじんまりとしたグランドチャンピオン大会だったのですが、今度は大々的にみなさんと開催するのが目標です。点と点が線でつながる楽しいイベントを催したいですね。