北村さんはどのような活動をしていますか?
僕たちはフジテレビで放送されているテレビ番組「逃走中」と「ゴミ拾い」を融合させた『清走中』というイベントを主催しています。私自身は2021年3月に地元・長野県の高校を卒業し、現在は大分県の立命館アジア太平洋大学に通っています。
この学校は全学生に占める国際学生の割合が50%を超え、94の国と地域から学生が集まる国際色豊かな大学です。大学に在学中ですが、株式会社Gabという社会課題への敷居を下げることを目指している会社に参画し、「清走中」の企画・運営を任されています。
※本企画はフジテレビ「逃走中」の制作チームより許可をいただいて実施しています。
株式会社Gab:https://www.gab.tokyo/about
清走中とはどのような企画ですか?
清走中は、エリア内に落ちているゴミを拾いながらLINEで通達される様々なミッションに挑み、拾ったゴミの重量やミッションの達成度などの合計で順位を競うゲーム感覚ゴミ拾いイベントです。
「ハンター」や「武器屋」という演出もあり、ミッションに応じてポイントが大きく変動するのも醍醐味の一つです。単にゴミを拾うだけではなく、世代を超えて一緒に楽しむことができるように様々な演出を組み込んだ新感覚のイベントで、今年9月に行われた長野県・諏訪市でのイベントでは従来の街での清走中に加え、カヤックに乗って湖に浮かぶゴミを拾いながらミッションに挑むという新たな試みもしました。
北村さんはなぜ環境問題に興味を持ったのですか?
環境問題に興味を持ったのは高校2年生の時です。10歳までは東京に住んでいたので、よく家族で江の島に遊びに行っていました。しかし、長野県に引っ越してからしばらく経ったころ、報道番組やSNSを通じて自分が大好きな江の島はおろか、世界中の海がゴミだらけになっていることを知り、大きな衝撃を受けました。その後、海のない長野県からもアクションを起こそうと奮起し、ゴミ拾いを始めました。
「清走中」を考えたきっかけを教えてください
ゴミ拾いなどの活動をスタートした当時は、自ら学生団体を設立し、「信州学生環境サミット」という学生向けの環境啓発イベントや、「信州プラゴミゼロ宣言」といった署名活動を行おうと企画していました。しかし、周囲の友人や大人の方々からは、「偉いね」「意識高いね」とは言ってもらえるものの、なかなか関心をもってもらうことができず、このまま活動を続けていても多くの人を巻き込むことができないと感じていました。
そんな時期に、小さい頃から大好きだった「逃走中」の番組を家族で見ていた時、「ゴミ拾いと逃走中を組み合わせて、ミッションを解決しながらゴミ拾いをしたら面白いのではないか!?」と閃いたことがきっかけです。清走中のように、環境意識の有無や年齢に関わらず多くの人が楽しめる機会を創ることで、環境問題へのハードルを下げることができると考えたのです。
今回、長野県の諏訪湖で開催したのはどういった背景があったのですか?
これまで清走中は、諏訪湖以外にも長野市や松本市など、ポイ捨てが多い傾向のある長野県内の主要都市で主に開催してきました。また、イベント開催に加え、伊那市や塩尻市など様々な地域に赴き、実際にゴミ拾いや行政職員の方へのヒアリングを行ったりして、ポイ捨ての状況を調査していました。
その過程で、県内では諏訪湖のゴミ問題が特出して深刻であることに気付き、今秋は諏訪湖に絞って集中的に打開策を練ることにしました。当初は他地域での開催も構想していましたが、この意思決定が清走中の企画としてのクオリティ向上とゴミ問題の解決への近道になると信じ、方針を大きく変更しました。
「清走中」開催に向け、諏訪市に住み込んで準備したそうですね
はい!僕たちの活動に賛同してくださった地元旅館「RAKO華乃井ホテル」様の社員寮に寝泊まりさせていただきながら準備を進めました。土地勘や人脈が乏しい状態からのスタートだったので、企業とのスポンサー交渉、行政との連携、コンテンツ作りなど、開催に向けてやらなければならないことが山積みで毎日不安に駆られていました。
しかし、スポンサー企業様からの様々なご協力やチームメンバーの支えもあり、事故など大きなトラブルなくイベントを終えられたことに、とても感謝しています。
大変でしたね。将来的には、長野県以外の地域での開催も考えていますか?
今はまだ長野県内だけでの活動ですが、既に全国各地から清走中を開催したいという声をいただいています。社会情勢を鑑みての判断にはなりますが、今後はさらにポイ捨てが深刻な東京や大阪などの大都市で開催したいと考えています。
また、今回開催した「清走中カヤック編」は来春からのパッケージ化を目指して準備を進めています。いずれは修学旅行や新入社員研修のコンテンツとして、多くの方に楽しんでいただける新たなアクティビティに進化させることを目指しています。
なるほど。清走中をアクティビティとしてパッケージ化するのですね?
現状は僕たちが「イベント」として企画しているため、日程や地域、定員の関係でご参加いただける方が限られてしまうのですが、今後は「アクティビティ」として諏訪湖に来ればいつでもカヤックでの清走中を楽しめるような体制を整えたいと思っています。その際にいただく参加費を今後の事業の発展に役立てることができればと思っています。
清走中以外にも企画を考えていたりしますか?
来年度の方向性として、諏訪湖でのカヤック編パッケージ化計画や、渋谷をはじめとした都市圏で自治体と連携した開催モデルの確立、また「清走中」×「〇〇」という新たな可能性の発掘などの、3つの方針を主軸として事業を拡大していきたいと考えています。
近年、東京都などポイ捨てが深刻な地域では、自治体の予算として巨額の清掃費用がかかっている事実があります。特に私の会社のオフィスがある渋谷区では、当然のようにタバコや空き缶などをポイ捨て・置き捨てする人が多く、長野県では見られない別次元の問題が発生しています。そういった現状を打破するには官民連携でオープンイノベーションを促進するべきだと考えているので、来年度以降は自治体と綿密に連携を取り、イベントを開催していくモデルを構築したいと考えています。
大勢の大人が協力してくれています。なぜ一人の若者に力を貸してくれるのでしょうか?
多くの人を動かすのは「正しさ」より「楽しさ」だと思っています。もちろん環境問題への危機感もあると思いますが、誰よりも楽しそうにゴミ拾いをする様子を見て、ワクワクが伝染したのではないでしょうか?(笑)
良い人たちに恵まれているのですね
日々恵まれた環境に身をおけていることを実感しています。特に諏訪地域にお住まいの皆さんは、長年美しい諏訪湖を取り戻したいと強く願っているので、僕の熱意を汲み取ってくださる方が多いのだと思います。活動を応援してくださる方々からの言葉が僕のエネルギーとなっています。
清走中で大変だったこと、嬉しかったことはありますか?
2021年7月までは現地の高校生たちと企画を運営していたので、高校生たちのモチベーションを引き出し、組織をまとめることにとても苦慮しました。また、学生団体として行っていた企画が、突然企業の行う事業になり、勉強不足のまま社会に飛び込んだので「株式会社」という鎧を着ることによる風当たりの違いを正面から受け、辛い思いをしたこともありました。
しかし、イベントに参加してくれた子供たちが楽しそうにゴミ拾いをしてくれたり、ゴミ問題への意識を持ってくれるようになったりした瞬間や、新たな企業様がスポンサーとして応援してくださることはとても嬉しく、応援団がどんどん増えていくような感覚があり、やりがいになっています。
そんな北村さんが憧れている方はいるのですか?
株式会社Kakedas代表の渋川駿伍さんです。渋川さんは、僕と同じ長野県出身の23歳で、法人向けオンラインカウンセリングサービスなどを運営する株式会社Kakedasの代表取締役を務める傍ら、自身が立ち上げた日本ポップコーン協会の会長も務める、僕の師匠です。
そもそも、僕が課外活動の世界を知ったのは2019年2月8日。当時高校一年生の時に参加したイベントで学校外に広がる世界の面白さを知り、地域での活動にのめりこんでいきました。それからまもなくして高校の先輩と学生団体を設立し、年齢や職業の垣根なく様々なテーマで語り合い、繋がれるイベントを開催したり、ゴミ拾いに魅了されたり、生徒会長に就任したり...活動が次第に大きくなって様々な壁にぶつかる中で、僕が活動を始めてからちょうど1年後の2020年2月9日に行われたイベントに登壇してくださったのが渋川さんでした。
株式会社Kakedas:https://corp.kakedas.ooo/
渋川駿伍さんTwitter:https://twitter.com/keelerx
運命的な出会いですね
ちょうど清走中を発案し「これからさらに活動を大きくしていくぞー!」と意気込んでいた時期に、自分が全く知らなかった異次元の世界で活躍する渋川さんの講演を聞き、強い憧れを覚えました。高校時代に生徒会長を務めながら地方創生の活動をしていたこと、子供の頃の夢は環境大臣だったこと(僕の高校一年生の頃までの夢は日本一の政治家になることでした)、実家が近いことなど...過去の境遇や思考に共通点が多すぎて、まさに5年後の理想の自分の姿を見ている感覚でした。
その後も活動や進路に悩んだときに、渋川さん自身の経験に基づいた言葉をかけてもらいました。今所属している会社の社長が渋川さんの所属する起業家塾の後輩であることや、僕の人生を大きく変えるきっかけとなるような方を紹介していただいたりと本当にお世話になっています。
受験勉強のために活動を休止するタイミングで渋川さんからいただいた、ビデオメッセージを暗記するほど頻繁に見ているおかげで、「話し方まで似てきた」と周囲から言われるほどに尊敬している師匠です(笑)
他に影響を受けた方はいますか?
渋川さん以外にも沢山尊敬している方々はいらっしゃるのですが、中でも特筆すべきは僕が同世代で最も尊敬している山邊鈴さんです。彼女は長崎県で生まれ育ち、現在はアメリカの名門・ウェルズリー大学に進学し、学びを深められています。直接お会いしたことはないのですが、SNSを通していつも刺激と勇気をもらっています。
山邊さんは幼い頃から社会の不条理に違和を感じ、「国連職員になりたい」という夢を持たれていました。中学3年生の時に、NGOのプログラムで訪れたフィリピンで恵まれない境遇にある子供たちと関わったことで、社会の不条理に全力で取り組み、恵まれない人たちのために命を捧げることを改めて決意したそうです。
その後、高校2年生の頃にはインドに留学し、カースト制度による貧困に苦しむ子供たちを主役としたファッションショーを開催したり、世の中の「ふつう」という感覚に対しての違和をご自身のストーリーとともに綴った「この割れ切った世界の片隅で」というnoteが、私を含め多くの人の共感を呼んだりと、社会における格差・分断の解消のために活動をされてきました。
山邊さんの言葉には、長い年月をかけて形成された鍾乳石のような洗練された美しさと固定観念を穿つ鋭さがあり、行動に思考が裏付けされています。僕はまだまだ行動に思考が伴っていないので、等身大かつ実直に、自身の感覚を描写できる力や幾多の壁を乗り越え、夢に向かってひたむきに学び続ける姿に憧れを抱いています。そして、いつか僕も山邊さんに刺激を与えられるような人になれるように頑張りたいと思っています。
山邊鈴さんTwitter:https://twitter.com/carpediem_530
2021年には日本テレビ24時間テレビにご出演されました。反響はいかがでしたか?
お笑い芸人のEXITさんが司会を務めた「世界変えたいこと会議」というコーナーに出演させていただきました。この企画は「様々なフィールドで活躍する10代が10人集まり、未来を語り合う」というコンセプトのもと、環境問題やバリアフリーに関するテーマで議論をしました。全国放送ということもあり、たくさんの方に見ていただき反響も大きかったです。
Twitterに寄せられたコメントを見ると「短い放送時間だったので、フルバージョンを見たい」などの声が寄せられています。僕の活動を全国に発信する機会になりましたし、活動を応援してくださる方も増えたのでとても有意義な機会となりました。
現在の海の環境をどのように感じていますか?
僕の大学がある大分県別府市の砂浜にも多くのゴミが漂着しており、時には一面にペットボトルが散乱していることもあります。日本でもこれだけ深刻なのです。東南アジアのインドネシアやフィリピン海域では、海流の流れによりさらに大量のゴミが漂着している写真も目にしました。
日本からもたくさんのゴミが流出してしまっているので、まずは自国での打開策として清走中を全国に広め、ポイ捨てを減らしていきたいと思っています。いずれは、海外でもゴミ拾いをエンタメ化したイベントを実施するなど、世界中を巻き込むムーブメントを創出したいと考えています。
北村さんの理想の未来を教えてください
現時点での目標は、国連が掲げているSDGsの達成目標年度である2030年までに「清走中を開催する必要のない世界を創る」ことです。逆に、10年後まで清走中を続けなければならない社会では、地球の未来は危ういと思っています。
また、清走中は「ゴミ拾いは21世紀の遊びに」というビジョンを掲げています。ゴミ問題をはじめとした環境問題は、課題意識の高い方や、ボランティアの方だけでは到底解決できません。清走中のような「楽しさ」を入口として「正しさ」を広めることができるアプローチを通して意識の分断を解消し、ゴミ問題解決への歩みを加速させていきたいと考えています。
あと9年しかありませんね(笑)
そうなんです!でも、普通の高校生だった自分が、この2年間でいろいろな方の支援を受けながら大きく成長できたことを考えると、これからさらに指数関数的に飛躍を遂げることができると信じています。
Z世代(1996年〜2015年生まれの世代)の若者にメッセージはありますか?
自身の経験から、勉強、部活、生徒会、課外活動など何事においても「違和感」を言語化し、その感覚を抱いた原因や解決のために何ができるかを思考することが重要だと考えています。
そして、その違和感を解決するために多くの人の協力が必要な場合、正義を振りかざすのではなく、ワクワクという調味料を加えることが肝心です。多くの人の行動を変えるのは「正義」よりも「ワクワク」だと考えています。
僕が「大好きな江の島がゴミだらけになっている」という違和感をきっかけに「ゴミ拾い」という行動を起こし、「清走中」を考案したように、「違和感」を「ワクワク」に変えることに夢中になることができる人が増えたらもっとこの世界は面白く変貌を遂げることができるのではないかと考えています。