今、あなたの力が必要な理由

vol.68

鳳神ヤツルギ!環境問題に立ち向かう~子供に伝える「海のゴミは街からくる」~

飯澤慎

飯澤慎さん- Shin Iizawa -

株式会社ヤツルギ魂 代表兼プロデューサー

消防士、電子部品商社マン、GS用地開発、不動産コンサルティング営業等を経て、1995年に映像製作メーカーを31歳で設立。2011年千葉県発のご当地ヒーロー「鳳神ヤツルギ」をスタート。

以後数々のヒーロー製作や、アクションショーからPRイベントまで手掛ける。2018年に特撮ヒーローユニット「特撮Boyz」を結成し、総合エンターテインメントプロダクションとして日々活動中。

飯澤さんのお仕事についてお聞かせください

私は株式会社 「ヤツルギ魂」の代表兼プロデューサーをしています。2人で始めた小さな会社でしたが現在は社員80人で、各種イベント企画、本格アクションショーからPRイベントまで幅広い活動をする総合エンターテインメントプロダクションになりました。

株式会社ヤツルギ魂:http://yatsutama.com

「ヤツルギ魂」についてもう少し詳しく教えていただけますか?

「ヤツルギ魂」はヒーロー特撮の製作を得意とするメーカーで、制作に関わるすべての部署を擁しています。例えば私が企画を立案し、デザイン部がデザインを描き、造形部がマスクや甲冑を作る。コスチュームは衣装部が担当し、自社の監督がメガホンをとり自社スタジオで撮影をする。CGや合成などの編集作業を経て完成したコンテンツも営業部が販売しています。自社で制作をしているため、全て手作りの作品は、スタッフ全員の想いを一つにすると信じています。

また社名の「ヤツルギ魂」の由来は、木更津にある八剱八幡神社から「ヤツルギ」をいただき、「魂」は全ての作品に魂を込めるという意味で命名しました。

自社で全て制作されているのですね

はい。一切、外注はしていません。発案から販売まで自社で行っているので映像コンテンツを保有できるのです。例えば、他の制作会社ではテレビ番組の制作依頼を受け映像を納品しますが、この方式だと会社には何のコンテンツも残らない訳です。コンテンツが自社の財産となることが「ヤツルギ魂」の大きな特徴だと思っています。

どのような作品を作っていますか?

特撮ものを数多く制作していますが、その中でも社名を冠した木更津発の千葉県ご当地ヒーロー「鳳神ヤツルギ」(ほうじんヤツルギ)をメインキャラクターとした番組を作っています。現在は千葉テレビで毎週土曜午前7:30〜8:00に「鳳神ヤツルギ10」が放送中です。

それでは「鳳神ヤツルギ」について教えてください

私は海が好きだったので「海」を題材に選び、2011年4月から初代「鳳神ヤツルギ」の放送をスタートさせました。

その後のシリーズでは「海」のストーリーから離れていたのですが、ある時、ゴミ拾い団体「NPO法人海さくら」の代表である古澤純一郎さんとお話する機会がありました。彼の環境に対する考え方や行動と熱意に共感したため、改めて海を題材としたリメーク版として「鳳神ヤツルギ」シリーズ10を復活させました。題材も10年前と同じく、現在も悪くなる一方の環境問題をテーマとしています。

番組のゴミ拾いと実際のゴミ拾いをリンクさせる新しい取り組みをされていると聞きました

主人公が活動している「木更津海さくら」というゴミ拾い団体が劇中に登場していますが、実は私たち「ヤツルギ魂」もゴミ拾い団体「木更津海さくら」を運営しています。つまり、「鳳神ヤツルギ10」で視聴した同名のゴミ拾い活動にリアルに参加できる「仮想と現実」をリンクした番組構成になっているのです。

とても面白い取り組みですね

私たちは、お世話になった木更津やその周辺の地域に少しでも恩返しをし、子どもたちにきれいな海を残してあげたいという想いで「木更津海さくら」を立ち上げました。「鳳神ヤツルギ10」が終了しても「木更津海さくら」の月に1回の活動はこれからも続けます。ゴミ拾いにはヒーローも参加していますので、お子さんと楽しみながらゴミ拾いをしませんか!

そもそもなぜ環境問題をテーマにしたのでしょうか?

海洋環境汚染が問題となり、世界中で解決策が模索されています。そこで、我々に何ができるかと考えた時に、「ゴミのポイ捨てはダメ」という教育的な題材をテーマとして選びました。私たちは教育がとても大切だと考えています。「街にポイ捨てされたゴミは川から海に流れ出てしまう」ことを子供たちにしっかり伝えたいと思います。

説教臭くならずに子供たちに伝えるために、主人公がゴミ拾い団体(木更津海さくら)を立ち上げ、子供たちとゴミ拾いをするお話が軸となり、敵対する悪役は「人間が捨てたゴミと海の生物が融合した怪人」と、子供たちにもわかりやすいストーリーにしました。

そもそも、なぜローカルヒーローに注目したのでしょうか?

私は沖縄が好きで、よく遊びに行っていました。沖縄には大人気のご当地ローカルヒーローがいて、そのヒーロー関連の商品がお土産屋さんに並ぶほど、子供から大人まで評判になっていました。

私もヒーローショーやテレビで見て、その面白さに魅了された一人でした。その頃はまだ、関東にはローカルヒーローという言葉自体もない時代でしたので、ヒーロー好きなスタッフと共にチャレンジすることにしました。

「ヤツルギ魂」では「鳳神ヤツルギ」の他にどのようなヒーローがいますか?

まだまだたくさんのヒーローがいますよ。千葉館山の房州では「房州電撃!!ライデンマル」というヒーローが活動しています。その他にも、「もぐもぐ!べじわーるど」というテレビ番組のキャラクターで、トマトやピーマンなどをモチーフにしたゆるキャラがいます。これは野菜離れをしている子供たちに、野菜に親しんでもらうために作ったキャラクターです。

企業やNPO法人から依頼され、「自販騎士ヒラノグレート」「絶対帰還カエルーン」「防災勇士トリプルウィング」など、個性的なヒーローも制作しています。また「特撮Boyz」というイケメン8人組の特撮ヒーローユニットも女性を中心に人気を集めています。

「ヤツルギ魂」ではどのような環境活動をされていますか?

「鳳神ヤツルギ」のロケ先や「特撮Boyz」の公演活動に出向く先々でゴミ拾い活動をしています。会社としても「木更津海さくら」という団体名で月に1回、木更津を中心にゴミ拾いをしています。

その活動の一環として、「富津海水浴場クリーンプロジェクト」も2021年7月に立ち上げ、地元の富津海水浴場を清掃しています。この海水浴場は富津岬の南側に広がる海水浴場で、透明度も高く、波が穏やかな遠浅の海岸は家族連れや若者に人気です。しかし、実はゴミがすごく多い場所でもあります。

例年、花火などのイベントも多数開催されていたのですが、コロナの影響で全て中止になりました。そのため、監視や規制もない浜では、人が多く集まり、ゴミが散乱することが多くなりました。その状況に危機感を持ち、海岸を清掃をしたいと思ったのです。

富津海水浴場でゴミ拾いをして環境は変わりましたか?

2021年7月からスタートした清掃活動も、回を重ねるごとに参加者が増え、とても感謝しています。先月のゴミ拾いでは、他の団体も清掃活動をしているためか、浜には目立ったゴミは落ちていませんでした。大勢の方が清掃に関わることで、浜がきれいになることは喜ばしいですね。

しかし、悪天候が続くとペットボトルをはじめとした多くのゴミが浜に上がってくるなど、問題は残っています。

飯澤さんはなぜ環境に興味を持ったのでしょうか?

小さい頃は野球少年でした。王選手や長島選手が活躍する野球黄金時代の頃ですね。海も大好きだったので、江ノ島にはよく遊びに来ていました。しかし、当時はゴミが多く、砂浜には花火の燃えカスがたくさん落ちていたことを覚えています。今の江ノ島とは比べ物にならないほど汚れていた風景は、今でも忘れられません。

時を同じくして、ゴミの埋め立て地である東京都江東区のゴミ集積場「夢の島」が近い将来満杯になってしまう、というニュースを見て衝撃を受けました。「このまま人間がゴミを出し続けたら、地球がゴミで一杯になってしまう。」と子供ながらに恐怖を感じていました。

その頃の日本人はまだモラルが低く、隣人が川にゴミをぶん投げるような時代だったので、潜在的にゴミ問題に対して危機意識が芽生えていたのかもしれませんね。

少年期の想いが今の環境問題への取り組みにつながっているのですね

私は昔から海が大好きです。これからも環境を改善するために、海をテーマにしたヒーローものを作り続けたいと考えています。「鳳神ヤツルギ」を通して、テレビを視聴する子供たちに海の環境問題を伝えていきたいと思っています。

人が集まるヒーローショーなど、コロナ禍で大変ではないでしょうか?

2020年春から続くコロナの影響で、アクションショーを開催できない状況が長く続いています。感染状況も少しは落ち着いてきましたが、まだ大変です。しかし、2011年に起きた東日本大震災の時はもっと大変でした。丁度「鳳神ヤツルギ」をスタートした年で、「さぁこれから活動を広げていこう!」と考えていた矢先の震災でした。

ヒーローショーでお世話になっていた「龍宮城スパホテル三日月」さんではお客さんがほとんどいない状況でした。しかし、総支配人さんから「お客さんが一人でもいる以上、開催しましょう」と提案され、お客さんが少ない会場でヒーローショーを演じました。

少し寂しい気持ちでしたが、ショーを見てくださった方から「震災直後、子供から笑顔が消えたけど『鳳神ヤツルギ』を見て笑顔になりました」との声をいただき、感動したことを覚えています。今は「ウイルス」という見えない敵と戦っていますが、震災での人の繋がりや体験が、今の原動力になっていると思っています。

夢や目標などありますか?

「鳳神ヤツルギ」のテレビやショーを通じて「街で捨てたゴミは、川を通じて海に流れ出ること」をもっと世間に広めて行きたいです。

今も路上に平気でタバコをポイ捨てする方はいます。誰も捨てなければ拾う必要もないわけです。いくら拾っても、捨てる人間がいる限りゴミは減らないことを子供たちにしっかり伝えたいと思っています。

千葉テレビでの放送以外に「ヤツルギ10」視聴の方法があれば教えてください

千葉県民の皆様は千葉テレビを視聴していただけます。それ以外だとYouTubeの「ヤツルギ魂チャンネル」でも1週間の期限限定で視聴できます。またインターネット配信の「GYAO!」「ニコニコチャンネル」などでも有料配信中です。

ヤツルギ放送ガイド:https://www.yatsurugi.net/media.php

ヒーローショーを撮影中の飯澤さん

鳳神ヤツルギ・哮神ガイオン・天神キサラの3ショット

イベントでは率先してゴミ拾いする飯澤さん

江ノ島で行われたヤツルギ10のロケ現場

江ノ島をバックにヤツルギと怪人

江ノ島でゴミ拾いをするヤツルギ

江ノ島での3ショット

特撮Boyz

木更津海さくらゴミ拾い活動

ゴミ拾いをするヒーロー

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

私一人が声を大にして環境問題を説いたところで、たいしたことはできません。しかし、仲間たちと一緒に「街に捨てたゴミは川から海に出る」ことを伝え続けることで変わるかもしれませんね。

海外では、唾を路上に吐いただけで罰金となる国もあると聞きます。日本はタバコの投げ捨てなど平気な国なので、これからは「捨てない」という文化を育んでいきたいです。

飯澤さんの想い

私が育った昭和は良くも悪くもめちゃくちゃ元気な時代でしたから、今の子供たちはいろいろな意味で少しかわいそうな気がします。

しかし、こんな時代だからこそ「鳳神ヤツルギ」を通して、大変な時代を生きる子供たちに勇気と元気を与えたい。それが長年想い続けていることです。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com