今、あなたの力が必要な理由

vol.69

東京湾江戸前の環境再生と学習の場づくり~大都会竹芝の干潟には多様な生物が生息~

髙橋愛美

髙橋愛美さん- Manami Takahashi -

一般社団法人竹芝タウンデザイン事務局、東日本旅客鉄道株式会社 東京支社 事業部

福岡県柳川市生まれ。宮崎育ち。
福岡の広告代理店にて、フリーペーパーの企画営業編集を担当。
2009年、株式会社アトレへ入社。大井町店や大森店で開発・営業・販促・地域連携等を担当した。
2020年、JR東日本へ出向。
現在は、ウォーターズ竹芝のタウンマネジメントを務める。主に、干潟や販促・ブランディング・地域/産学連携等を担当し、JR東日本初のタウンマネジメント組織での様々な取り組みに従事している。

髙橋さんはどのようなお仕事をしていますか?

2020年10月にまちびらきした、複合施設「ウォーターズ竹芝」(東京都港区)のタウンマネジメント組織「一般社団法人竹芝タウンデザイン」の事務局を担当しています。施設に隣接した「竹芝干潟」の運営をしており、水辺の利活用や都市再生推進法人の方々と、干潟をはじめ地域や街の魅力向上の活動に取り組んでいます。

「ウォーターズ竹芝」とはどのような施設ですか?

JR浜松町駅北口から海側へ徒歩約6分の立地にあり、ホテルや劇場、商業が一体となった水辺に面した複合施設です。

そして「ウォーターズ竹芝」に隣接する船着場と干潟は、一般社団法人竹芝エリアマネジメント(以下「竹芝エリアマネジメント」)と東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」)が、竹芝地区の利便性・魅力向上に向けた取組みの一環として、竹芝エリアマネジメントが「ウォーターズ竹芝」の前面の汐留川の占用許可を受け、JR東日本が船着場・干潟を整備しました。

「竹芝干潟」はどのような場所ですか?

「竹芝干潟」は環境再生や環境学習の場として、2020年7月に誕生しました。大きさは幅23m、縦は17m(潮の満ち引きで変動)で、かつて東京湾に多く生息していた貝類・甲殻類や、多様な生き物が生息できる環境の保全と再生を目指しています。

この水辺はとても穏やかで「東京湾のゆりかご」と言われている水域です。この干潟で、かつての「豊かな江戸前の海」の再生に向け、モデルケースとなるような環境づくりを目標としています。

「竹芝干潟」の運営体制について教えてください

「竹芝干潟」は多様な生物の棲み処を提供するだけではなく、東京湾のゴミ問題などに触れられる環境教育の場として市民に提供しています。

地域協働で取り組むにあたり、東京海洋大学水圏環境教育学研究室・海辺つくり研究会・(株)水辺総研・ココペリプラス・箱根植木(株)をアドバイザーに迎え、東京湾再生や協働プログラムの運営を行っております。

この干潟はこれから育んでいく場なのですね

はい。この干潟は昔からあった環境ではなく造成された場ですので、人の手を入れながら、自然の力でこれから豊かな干潟環境へと育んでいく、そんな場になっています。人が手を加えることによって生物多様性が高まっている状態を里海と言いますが、竹芝干潟は干潟を造成したことによって生物が集まるようになり、里海を体験できる場所であると言えます。

以前はどのような水辺だったのでしょうか?

このエリアは浜離宮が隣接しているため、自然が多く残っており、生物が住みやすい環境ではありました。しかし、水辺の環境は分からなかったので、工事着工前の2017年から環境調査や実証実験を繰り返し行った結果、多くの水生生物が散見できました。そのため、東京湾江戸前の再生を目的とした干潟の造成を検討しました。

その調査と並行して、水域で採取された水生生物の水槽展示や、ハゼ釣りなどの実証実験を実施し、竹芝地区まちづくり協議会を通じて地域との合意形成を図ってまいりました。

周辺の水辺にはどのような生物がいたのですか?

2017年から継続的に行ってきた水生生物や水質などに関する環境調査では、周辺の水域でクロダイ・スズキ・ハゼ・エビ・カニ・ミミズハゼ・アベハゼ・ビリンゴなど、中には東京都の準絶滅危惧種に指定されるような、多種多様な生物が存在する貴重な水辺であることがわかりました。

では完成した干潟には具体的にはどのような生物がいますか?

調査時と同様の多種多様な生物が見られます。「潮間帯」には二枚貝類・甲殻類・多毛類のホンビノスガイ・ケフサイソガニ・エビジャコ・ヤマトカワゴカイなどが生息し、「澪筋・海水滞留時」にはシラタエビ・ヒナハゼ・マハゼなどが見られます。

また、その魚を狙って、越冬性野鳥のオオバン・キンクロハジロ・留鳥のカワウ・オオタカなどが多く生息しています。植生も約6種類ほど確認されていますが、これも水質と合い環境に耐えられる植物を育てております。

※「潮間帯」(ちょうかんたい):海岸において、大潮の最大満潮時には海面下になるが、最低干潮時には干出するような場所を指す。
※「澪筋」(みおすじ):川や海の中で水路となっている深み。

干潟ができて環境は改善されたと思いますか?

生物生息環境が多様化され、生息する生物も少しずつ多様になってきています。竹芝干潟では「東京湾、江戸前の海の再生」を目標に掲げていますが、この水域だけでは達成できると思っていません。今後も目標達成に向け、取り組んでいきます。

四季を通してどのような楽しみ方がありますか?

「ウォーターズ竹芝」に関してお伝えするなら、浜離宮が目の前にあるので、秋は紅葉が綺麗です。施設内では芝生広場もありますので、春から夏にかけては芝生が青々しく育ち、とても気持ち良い公園のような空間が広がっています。また周辺は高いビルに囲まれているので、太陽がビルに反射してとても美しく、時間によって表情が大きく変わる街です。

干潟では潮の満ち引きにより、観察できる魚も異なります。春先は小さなマハゼやボラの稚魚が観察できます。秋には成長した成魚も確認できるため、シーズンを通して魚の観察を楽しめます。

干潟ができたことによって魚たちもたくさん集まってきますか?

そうですね。干潟は水質を浄化する作用もあり、2021年から魚や鳥のエサとなるプランクトンやゴカイなど微細生物が定着し、干潟の中に多くの生物が入るようになってきました。これは生態系が形成され、餌場として循環が機能し始めているという証拠です。

夏の河川は酸素濃度が低くなってしまうため、比較的酸素濃度の高い干潟の中に、ハゼ科の魚類などが避難してくるようなこともありました。不安材料としては、東京の下水システムは合流式なので、大雨で下水管が満たされると雨水と汚水が放流されるため、干潟内やその周辺の水域の環境への影響が懸念されています。今後も水質や酸素濃度等を引き続き調査していきたいと考えております。

また四季を通して生物のモニタリングを行っており、アドバイザーの方々と今後の対策を検討していくなど、PDCA(計画・実行・評価・改善)を回しております。

改善点、問題点はありますか?

はい、いくつかあります。改善点の一つは、この干潟に魚が侵入するには、しっかりと潮が満ちる必要があります。干潟の浜と接する場所の水深が急に深くなるため、水が引いてしまうと魚が干潟に出入りしづらい環境になるのです。これは構造状の問題なので、すぐには解決できませんが、魚道を作るなどの別の仕掛けを将来的に設置可能か検討中です。

また、砂が湿る時間が少ないことも問題です。特に夏は潮が引いてしまうとすぐに乾いてしまうため、湿った浜を好む生物には住みづらいという課題があります。改善策としては、水を定期的に流す仕組みなどをアドバイザーの方々と検討中です。そして、このような課題のアクションプランとして「ソーシャルインパクト評価」を設定中です。

ソーシャルインパクト評価とはどのような取り組みですか?

「竹芝干潟」における取り組みが社会に対してどのようなインパクトを与えているのか、またはゴールを決め、その目標に向けたアクションプランを細かく策定しております。

どのような課題があり、何を改善していけば良いのか、調査結果を言語化して共通のデータとして残すことにより、新たに干潟に関わる皆様と同じ認識を持ってもらうことで、協働作業が円滑になると思っています。

この干潟にもゴミは漂流してきますか?

潮の満ち引きによって流れ着くペットボトルやビニールをはじめ、家庭から出た油分が固まったオイルボールのような都心特有の汚染と、昔あった築地市場の名残なのか、発泡スチロール片なども多いです。例えば、ビニールゴミは20年くらい分解されずに漂ってしまうわけです。そのようなことも干潟の学習会を通してお伝えしています。

干潟を学ぶ機会もあるのですね

私たちは定期的に干潟でイベントを行っています。イベント開始前にはゴミ拾いを実施して、回収したゴミを通して環境問題を学ぶ「生きた課題解決学習の場」にもなっています。干潟に遊びにくる子ども達も熱心で、SDGsを授業で学んでいるのか、とても詳しいですよ。

また、年1回「干潟マイスター講座」を開催しています。その講座では、海と干潟の関係性を学びながら、再生スキルを身につけることができます。2020年に行われた講座では、魚が生息しているタイドプール(潮溜り)やカニの生息場(カニ塚)を作りました。今年は、場所を変えてタイドプールとカニ塚をつくり、現在もモニタリング中です。

問題が改善され、20、30年後の干潟はどのようになっていると思いますか?

20年や30年で東京湾の課題が解決されるかどうかは、人間の生活の仕方や今後の取組み次第で姿が変わるのではと思っています。

「竹芝干潟」の 東京湾再生活動のみで、抜本的に改善されるわけではありません。街全体で取り組んでいくことが、東京湾やその他の海を守っていくことにつながるため、もっと多様な人が関わる干潟になっていて欲しいなと思っています。

まずは、港区の人口である約25万人の方全員が関わってくださる、そんな干潟にしたいです。

干潟を体験するにはどのようにしたら良いでしょうか?

毎月第2日曜日に「竹芝干潟オープンデイ」として、どなたでも干潟に入っていただけるよう、無料で開放しています(潮の満ち引きの都合上、時間限定)。ぜひお好きな時間帯にお越しください。

今のところ、2022年1月9日(10時〜12時)、2月13日(13時〜15時)、3月13日(12時〜14時)を予定していますが、情勢により変更になる場合がありますので、お出かけの際はHPでスケジュールをご確認ください。

竹芝干潟オープンデイHP:https://waters-takeshiba.jp/waterside/tideland/20210401193000/

干潟を案内する髙橋さん

ハゼ釣り体験

ハゼ釣り体験で釣った1歳超の大物マハゼ

木道を通り、観察できる

波打ち際に生息する湿性植物。下には多くの生物が生息する

東京湾産の種子から育てられた植物

越冬性野鳥のオオバンが羽を休める

干潟に集まるボラの幼魚

奥に見える杭から先は水深2メートル

都心特有の汚染オイルボール

マイスター講座でカニ石塚を湿らせている様子

石積みも設置され、下にはカニなどが生息する

イベント開始前のゴミ拾い

竹芝干潟オープンデイの様子

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

干潟に来場していただいた方々は「都心の真ん中こんなに自然がある」と感想をいただきます。干潟の観察を通して魚や鳥の生態を知り、環境に対する視点を多くの方々に持っていただけると嬉しいですね。

髙橋さんの想い

私は大学で環境教育を学びましたので、子どもたちに環境のことを伝えていきたいと思います。今後は、浜離宮の周りを周遊しながらサップやカヤックなどのアクティビティを通して、環境を学べる機会をつくっていきたいと考えています。

私たちの取り組みは「ただイベントを開催して終わり」ではなく、参加することで環境へ配慮することの大切さに気が付くきっかけになって欲しいと、願っています。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com