川口さんの活動についてお聞かせください
私たち「NPO法人Earth Communication」は、自然を楽しみ、身近に感じ、環境について考える『自然楽校事業』・『未来へのこす事業』・『自然とつながる事業』など、自然や環境・安全に関する各種講座などに取り組み、子どもの成長における体験の重要性や私たちを取り巻くさまざまな環境について考えるきっかけづくりを行っています。そして、より良い自然・環境が未来へとつながることを願い、持続可能な環境や社会づくりに寄与することを目的とし活動を行っています。
川口さんの経歴を教えてください
二人の祖父の影響を受けて自然の中で育ったので、環境や自然に興味を持ちました。その原体験から海洋生物や自然体験活動について、学ぶことができる専門学校に進み、卒業後は障害者施設で子ども達の療育に従事しました。
これまでの学びや経験をより活かすため、神奈川県葉山町で自然体験活動をするNPO法人に転職。そして2016年、約15年ぶりに帰郷し、2019年にNPO法人Earth Communicationを立ち上げ、久々生海岸(くびしょうかいがん)などで活動を開始しました。
活動されている久々生海岸(くびしょうかいがん)はどのような海岸ですか?
僕が小学校の頃は、カヤックなどのパドル競技の練習場所となっていたこともあり、地域の方から愛されていた海岸でした。しかし、港の発展に伴い多くの施設が造設され、防災上の観点から許可無しに立ち入ることができなくなっています。元々は岩場の多い海岸でしたが、度重なる造成の影響によって海流が変わり、今では砂や泥の他に、海洋ゴミも溜まりやすい環境に変化してしまいました。
久々生海岸は普段は閉鎖されているのでしょうか?
はい、閉鎖されています。防波壁のかさ上げにより、海岸の状況が目視しづらくなってしまったため、安全や防災の観点から陸閘(りっこう・りくこう)が15年前に設置され、『必要時のみに海岸に立ち入る』という今の形になったと聞いています。
「陸閘」(りっこう・りくこう):堤防を切って設けられた河川への出入り口を閉鎖する門のことで、洪水の時には陸閘が閉められ堤防としての役割を果たす。 ※国土交通相HPより抜粋
なぜ、川口さん達は閉鎖されている海岸で活動できるのでしょうか?
久々生海岸の砂浜に貴重な動植物が生息していることや、海洋ゴミの溜まり場になってしまっていることなど、海岸環境が明らかに変化していることを知り、静岡県や御前崎市など行政のみなさまに掛合い、2019年に久々生海岸への立ち入り許可をいただきました。
当初は年に数回の立ち入りでしたが、最近では月に数回のゴミ拾いや海岸環境調査を実施しています。
行政に実績が認められた訳ですね
そうですね。私たちは研究機関が実施する大規模な調査などはできませんが、海中の状況を写真撮影したり、観察した生き物のリストの作成、ゴミの回収など地道な活動が認められたことは、とても嬉しいです。
今では、静岡県や御前崎市行政、国交省や静岡県内外の研究機関のみなさまと連携をとり、活動が継続できるようになりました。
「久々生海岸里海プロジェクト」とは、どのような取り組みですか?
久々生海岸の貴重な環境の保全活動を行っています。例えば、自然環境と都市空間との間にある「里山」のように、久々生海岸では『里海』という考え方を大切にし、海岸環境を維持していくためには、人の手を入れ続けなければなりません。
そのため、久々生海岸のビーチクリーンなどの保全活動だけでなく、生き物の観察会など、自然体験活動への取り組みを年間を通して行っています。
どのような生き物が生息していますか?
あまり広くない久々生海岸ですが、潮が引くと干潟のような砂浜が現れ、岩場もあり、様々な特徴がコンパクトにまとまっている特殊な海岸です。また、多くの生き物を観察ができます。
中でも、県指定の準絶滅危惧種のコアマモが自生・群生し、国指定の絶滅危惧種コアジサシの採餌場にもなっていて、初夏にその姿を観ることができます。これらのことから、久々生海岸は貴重な生き物たちが生息する場所だと思います。
準絶滅危惧種のコアマモが自生しているのですか?
港に入ってきた鯨類を港外に逃すために水上バイクで海上を走っていた際、あるはずのないコアマモの切れた葉っぱを偶然見つけ、海中を覗いてみるとコアマモが自生してるのを発見しました。
海洋ゴミが漂着して溜まりやすい海岸ですが、幸か不幸か、どこからか流れてきたコアマモの種が体積した砂地に定着して、自生、群生したのでしょう。この藻場のお陰で、たくさんの幼魚や小さなエビ・カニたちの生息が確認されているので、生き物にはとても良い環境が整っていると思います。
久々生海岸のゴミの状況はいかがでしょうか?
ルアーや釣り糸などの漁具、漁網、発泡スチロールなど、漁港に関するゴミが多い印象です。ペットボトルや空き缶、お弁当のパッケージ、ビニール袋などもよく漂着します。
また、台風などの悪天候が重なると、砂浜を覆い尽くすほどの流木が打ち上がります。私たちの力では太刀打ちできませんが、年に1回程度、行政機関のみなさまが重機を入れて、流木などの大きな漂着ゴミを撤去してただけるので助かっています。
問題は、流木を撤去した砂浜に大量のマイクロプラスチックが散らばっている状況を目の当たりにすることです。現在、そのマイクロプラスチックの処理に苦慮しているところです。
どのくらいのゴミを回収しているのでしょうか?
毎月、休日に2回、平日に1回ほど実施し、2021年1~12月の年間海岸ゴミ回収データは、全40回で約50時間のゴミ拾いを行い、約500人が参加。回収量は約16,140ℓ。重量は約1,930kgでした。
今まで久々生海岸は閉鎖され、保全活動にはあまり取り組んでいない状況でしたが、「少しは改善したのでは」と考えています。しかし、まだまだ人手は足りません。もし私たちの活動や久々生海岸に興味を持っていただける方がいましたら、是非ご連絡ください。一緒に活動しましょう!
ゴミがひどい状況ですが、解決策はありますか?
早々に解決する画期的な方法を見つけ出せていない状況です。特に久々生海岸は貴重なアマモ場があるので、流木や大型漂着ゴミなどによる藻場への影響を心配しています。海上にネットを設置するなど、様々な方からのご提案やご意見を集約して、海岸の改善に向けてより良い形で進めていきたいと思います。
干潟で「夜の生きもの観察会」をされているとお聞きしています
はい。安全面の観点からこれまで開催ができませんでしたが、今回初めて開催許可をいただくことができました。2022年2月26日の午後19時〜21時まで行われた「夜の生きもの観察会」では、子ども達を含む約30人が参加しました。
ヘッドライトで足元を照らし、海岸にある石の周りやアマモ場で生きものを採集し、小さな魚やエビ・カニなどの生き物を観察しました。寒い冬にもかかわらず、生き物たちを見つけることができて、子ども達も大喜びでした。これからも夜の観察会を継続していこうと思います。
今後のスケジュールを教えてください
現在のところ、決まっているスケジュールをお知らせします。
5月1日(日)・3日(火 祝):磯の生きもの観察会
5月28日(土):アマモ場の生きもの調査隊
7月16日(土):夜の海辺の生きもの調査隊
各観察会の後半ではビーチクリーンも行う予定です。
NPO法人Earth CommunicationのHPをご確認していただき、ぜひご参加ください。御前崎の海には、特徴的な海岸環境がたくさんあります。私たちと一緒に、いろいろな生き物たちを観察しましょう!