今、あなたの力が必要な理由

vol.77

ミュージシャンのライフワーク「赤米」とは~自然との共生を後世へ託す~

相川七瀬

相川七瀬さん- Nanase Aikawa -

ロックミュージシャン、赤米大使(長崎県対馬市、鹿児島県南種町、岡山県総社市)

1995年「夢見る少女じゃいられない」でデビューして以来、現在までのCDトータルセールスは1200万枚を越えている。毎年7月7日には、「七瀬の日」と題したLIVEを16年連続で開催中。
音楽活動以外にも絵本の出版や小説「ダリア」、日本の聖地の旅エッセイ「神結び」「縁結び」「太陽と月の結び」などを出筆。岡山県総社市、長崎県対馬市、鹿児島県南種子町の「赤米大使」として伝承文化継承の活動をしている。
また、伝承活動を応援するイベントとして、毎年、岡山県総社市備中国分寺前で「赤米フェスタ」と題した音楽フェスを主催している。

2019年 中村あゆみとタッグを組み「ANNA」結成。
2020年 國學院大學 神道文化学部に入学。
2020年11月8日にデビュー25周年を迎えた。
2021年2月に東名阪ツアー。7月には織田哲郎を音楽監督&ギタリストとして全国ツアー開催。25周年最終日の11月7日には中野サンプラザで織田哲郎、布袋寅泰、マーティフリードマン、柴崎浩らギタリストをゲストに迎えてのライブを開催。

26年目に突入しYouTubeにて「なないろ旅-Nanase meets Japanese Culture-」と題した日本の文化を紹介するコンテンツを開始。2022年3月水郷・東国三社を中心とした鹿嶋市、潮来市、神栖市、香取市の「水郷PR大使」に任命される。

▼オフィシャルホームページ
https://www.nanase.jp/

▼オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/channel/UCDmW7aoLTqCTMrNHzvOpC4Q

▼赤米フェスタ公式ホームページ
https://akagomefesta.com

ミュージシャン活動25周年や神道を学ぶなど精力的に活動されていますね

ありがとうございます。私は1995年に「夢見る少女じゃいられない」という曲でデビューして、2020年の11月に25周年を迎えることができました。そのアニバーサリーとして、プロデューサーの織田哲郎さんと一緒に念願の全国ツアーを行いました。

2020年という年は私にとって音楽活動25周年と、自分自身の目標だった大学入学も果たし、環境が新しく変わった年でもありました。

大学では具体的には、どんなことを学ばれているのですか?

現在、在学している國學院大学では、主に神道と日本文化を中心に学んでいます。20代から神社が好きだった私は、日本中の神社を訪ねる中でお祭りというものの虜になっていました。

祭りというものの中には、その地方の文化伝承が詰まっている。この希少価値になりつつある、その“地方らしさ”を残せるお手伝いができないかと、大学で学びを進めています。

祭りに関わるきっかけとなったのは、10年前に日韓友好ライブで訪れた長崎県対馬市で出会った赤米神事でした。その神事は、もう後継者が一人もおらず、絶えてしまうということを知りました。

「何か手伝うことができないか」と考え、同じ赤米神事を残している岡山県総社市、鹿児島県南種町に声をかけさせていただき、2市1町の赤米大使として2012年から活動させていただくことになりました。

そもそも赤米とはどのような米でしょうか?

今、私たちの食べている白米の“祖先”とも呼ばれている赤米は、穀粒が赤褐色で細長く、稲の茎が長いなど古代米の特徴を残していると言われています。現在は、黒米や緑米など様々なお米が健康食として作られていますが、赤米も非常に栄養価の高いお米の一つです。

しかし、美味しい白米が食べられる今は、健康米としての流通を残すのみで、赤米は随分減ってしまいました。2市1町に残っている赤米は、基本的に神様のためだけに作られてきたため、神事米として正確に守られ、その地域に残されてきたと言えます。

赤米神事とはどのような神事ですか?

2市1町それぞれの地域で神事の内容が違うものではありますが、共通点があります。それは、毎年秋に収穫される赤い稲穂の稲魂を、神としてお祭りすることです。

この神事は、その集落で粛々と続けられてきました。神事は氏子さんや関係者だけのクローズされた世界でしたが、「氏子さんだけではなく、市民の皆さんにも赤米を知ってもらおう」という気運が高まり、岡山県総社市では赤米フェスタというイベントが立ち上がりました。

そしてその田んぼでは、市民のみなさんと田植えをし、実をつけた赤い稲を見ながら音楽を楽しむという行事として成長しました。

コロナウィルスの流行は、やはり神事や赤米フェスタにも影響はありましたか?

2市1町の田植えや稲刈りなど、これまではなるべく一緒に参加してきましたが、コロナ禍で県を超える移動が出来なくなった期間、私自身は参加出来ませんでした。ただ、神事は止まることはないので、地元の方々の中で粛々と行われていました。岡山県総社市の赤米フェスタも2年間開催できませんでした。

しかし、リモート形式で、赤米神事に携わる人たちのドキュメントと私のコンサートの映像を配信するという形でアーカイブを残すことができました。これは、今まで赤米フェスタに来てみたいと思っていてくれた人たちに、その風景を届けることができたので、意義あることだったと思っています。

今年の岡山県総社市での田植えは、神田もフェスタが行われる国分寺の田んぼも開催されたと伺いましたが、2年ぶりの田植えはいかがでしたか?

そうですね、まずは久しぶりに神田に伺い、氏子さんたちの顔を見れたことが何より嬉しかったです。皆さんが「相川さんが帰ってきた!」といって迎えてくれ、子供たちも「この日を楽しみにしていた」と言ってくれたので熱い思いが込み上げました。

また、国分寺の田んぼでも市民の皆さんと楽しい交流ができ、とても楽しかったです。やっぱり人と人の交流はいいなと心底感じました。

今年は、赤米フェスタも開催されると伺いました。どのような思いをお持ちですか?

この2年様々なことがありました。コロナもありましたが、台風が直撃して稲穂が倒れてしまうなど、自然の脅威を見せつけられてきました。このような、決して人間がコントロールできない自然環境に、昔の人は神を感じて祈ったのだろうなと強く感じました。

今年は2年ぶりの開催となります。堀内孝雄さんや押尾コータローさん、松本英子さんなどが、赤い稲穂をバックに音楽を奏でてくださいます。今からとても楽しみです。

先ほど自然の脅威とありましたが、赤米を守ることと環境の関係性についてはどう考えていますか?

先日、総社市の田んぼを守ってくれている農家さんから「キジがたくさん飛来するようになりました」と教えてもらいびっくりしました。

休田だった田んぼに再び水が入り、作付けされていくようになって、少しづつ生態系が豊かになり、ドジョウ、カエル、タニシ、タガメなど、今まで見られなかった生物が多く見られるようになってきたと。まさに赤米を作ることで自然環境が変わったのだというのです。

私たちは、その生物をリスト化して可視化することで、また地元の子供たちへ何かの学びとして、還元していけたらいいなと考えています。

里の環境のお話を伺っていますが、海の環境はどうお考えですか?

長崎県対馬市の赤米神田の向こうには、海が広がっています。対馬市の漂流ゴミは、ボランティアや環境省からの支援などもありますが、追いつかないほどの量なのでとても深刻です。

ゴミは近隣諸国からも多く流れてきています。しかし、同様に私たちのゴミも海外に流れているわけですから、お互いに共通意識を持たなくてはいけないと思いました。

山も森も全て海につながっていて、里に暮らす私たちの生活がある。どれひとつ欠けても私たちは生きていけません。そう考えると、海の環境汚染の問題は真剣に考えないといけないと思います。

2012年7月19日(相川さんSNSより抜粋)
小学生と一緒に植える赤米

2014年3月2日(相川さんSNSより抜粋)
赤米大使を任命し3年目に赤米3県協定式が行われた

2018年9月17日(相川さんSNSより抜粋)
西日本豪雨復興支援コンサートとして開催された岡山県総社市の赤米フェスタのワンシーン

2019年9月14日(相川さんSNSより抜粋)
2019年赤米Festaの舞台である国分寺の赤い稲穂

2022年6月19日(相川さんSNSより抜粋)
2年ぶりに総社の新本小学校の5年生と赤米の田植え

2022年6月23日(相川さんSNSより抜粋)
國學院退学神道文化部にて令和3年度の成績優秀者に選ばれ表彰

2022年7月6日(相川さんSNSより抜粋)
相川七瀬25th Anniversary LIVE MOVIE(25周年ビジュアルイメージ/織田哲郎さんと)

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

暮らしている環境は、それぞれ違うと思いますが、ご自身の周りの世界にぜひ興味をもっていただきたいです。自分が暮らしている街に目を向けることで、当たり前の景色に歴史があったり、意味があったりと発見があるかもしれません。

地域への関心も持つことは、“新しい人との繋がりや、社会との繋がりを生むきっかけになる”と私は思っています。

相川さんの想い

キャリアは年齢とともに変わっていきます。柔軟に変容していける意識を持つことがこれからの私の目標でもあります。何歳になっても好奇心を忘れずに、目を輝かせて世界を見たい。そういった思いが、私の音楽となり、今後の学問や活動などの起爆剤になるのだと思っています。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com