今、あなたの力が必要な理由

vol.79

循環型社会に立ち向かう企業の挑戦~廃プラスチック問題解決への糸口へ~

山下卓也

山下卓也さん- Takuya Yamashita -

旭化成ホームプロダクツ株式会社 マーケティング部

2001年旭化成株式会社入社。サランラップ®に代表される消費財事業において、広域量販・北海道・九州にて営業職経験後、ジップロック®・クックパー®のブランドマネージャーへ。
広告宣伝・商品企画・販売戦略など、マーケティングに関する幅広い分野を担当している。

▼ジップロック®リサイクルプログラム サイト
https://www.asahi-kasei.co.jp/saran/recycle/

山下さんはどのような部署に勤務されていますか?

私は旭化成グループの旭化成ホームプロダクツ株式会社に勤めています。旭化成ホームプロダクツでは、サランラップ®やジップロック®など家庭日用品関連商品を販売していますが、その中でマーケティングの部署に所属しています。

仕事内容としましては、広告宣伝を通して商品価値を伝えるマーケティング活動、商品企画、販売戦略、企業理念に基づいたサステナビリティ活動の推進など多岐に渡ります。

なぜ御社はリサイクル活動に熱心なのですか?

旭化成ホームプロダクツで展開するジップロック®は、キッチンだけでなく持ち運びや整理収納に至るまで、日々の生活の中で便利にご使用いただいています。

そのような中、弊社では「あたりまえの毎日をこの先もずっと。」をサステナビリティ活動のスローガンに掲げています。この理念を体現する活動の一環として、「Ziploc RECYCLE PROGRAM」を始めました。

ジップロック®という身近な商品を通じて、多くの方にリサイクル活動を体感していただくことは、とても意義のある活動だと感じています。

「Ziploc RECYCLE PROGRAM」はどのような取り組みですか?

数年の準備期間を経て2020年から開始した「Ziploc RECYCLE PROGRAM」は、一般家庭から使用済みのジップロック®を回収し、別のプラスチック製品に作り替えることで、廃プラスチック問題の解決に貢献する活動です。

第一弾では、ビニール傘の廃棄問題に着目し、ジップロック®ジッパー付バッグをリサイクルした傘を、シェアリングサービスへ活用しました。

具体的にはどのような傘でしょうか?

ジップロック®ジッパー付バッグはポリエチレン製です。回収したジップロック®を粒状のペレット(原料)に戻し、再生シートを製造します。

ビニール傘1本に使用される生地は、重量換算でジップロック®フリーザーバッグMサイズ約16枚分ですが、今回は1000本ほど製造しました。これを、傘のシェアリングサービスである「アイカサ」でご活用いただいています。

大きなプロジェクトですが、御社で全て行っているのですか?

私たち1社単独で実施しているわけではありません。リサイクルパートナーである米ソーシャルエンタープライズの日本法人、テラサイクルジャパン合同会社(横浜市)さんに、リサイクルプログラムのサイトを通じて使い終わったジップロック®を回収していただき、どのような商品に作り替えるかなどを共同で考え、リサイクルを行っていただいております。

商品のデザインはBEAMS COUTUREさんにお願いしています。また、株式会社Nature Innovation Groupさん(東京・渋谷)は、傘のシェアリングサービスである「アイカサ」を展開する企業で、私たちの「リサイクル傘」を駅などに設置し、運用していただいています。

4社協働ということですね

はい、その通りです。ジップロック®の素材から「リサイクル傘」をただ作るだけではなく、利用したくなる工夫や、見た目の楽しさなどの要素を取り入れているのが大きな特徴です。

特に、BEAMS COUTUREさんにデザインをお願いしたことで、ジップロック®らしい可愛らしい傘が完成しました。

お陰様で「Ziploc RECYCLE PROGRAM」の象徴として、多くのメディアに取り上げていただき、プロジェクト開始から2年が経った現在でもお問い合わせをいただきます。

リサイクル傘はどちらで利用できるのですか?

協働している株式会社Nature Innovation Groupさんは、首都圏をはじめ、関西、愛知、岡山、佐賀などで展開し、鉄道沿線を中心に約1,000ヶ所をこえるスポットに「アイカサ」として傘シェアサービスを運営する企業です。

「リサイクル傘」は、西武鉄道池袋線の池袋~飯能駅で30スポットほどに配置していただきました。A地点で借りB地点で返却するということが繰り返され、今では広範囲に拡散している状況です。

傘の利用は、専用のアプリから確認でき、傘立てにあるQRコードをアプリで読み取れば借りられるシステムです。料金は24時間110円(税込み、以下同)、1カ月使い放題で280円。ビニール傘を買うよりお得な値段設定になっています。

リサイクル傘は販売はしないのですか?

今のところは考えておりません。リサイクルした製品を販売し、またすぐに廃棄されてしまっては、弊社としてリサイクル活動に取り組んでいる意義も薄れてしまうと考えているからです。

そこで、私たちはシェアサービスを活用することで「捨てない」「ゴミにならない」を柱とした循環型社会の実現へのアプローチを目指すことにしました。

「Ziploc RECYCLE PROGRAM」第二弾も報じられました

第二弾となる今回は、回収された使用済みのジップロック®コンテナーが、永塚製作所(新潟県三条市)さんに製作していただいたごみ拾いトング「MAGIP(マジップ)」のグリップ部分に生まれ変わりました。

新しいゴミ拾いトングに使うグリップ部分は、回収したジップロック®コンテナーを原料とした再生樹脂を型取りしたのですが、グリップとして必要な性能を再生樹脂で実現するのがとても難しかったと伺っています。

しかし、工程全体としては樹脂のロスも少なく、リサイクル品としては優秀なプロダクトだと思っています。

ゴミ拾いトングは何本製造したのでしょうか?

この2年間で回収したジップロック®コンテナーから約2,000本を製造できる樹脂が集まり、先行して1,000本製造しました。今後はタイミングを見て追加製造したいと考えています。

そして、今回はウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社さん(本社:東京都港区)の監修により、グリップの裏側部分に“ミッキーマウス”のシルエットを、可愛らしいデザインとして施したトングも一部製造しました。

先日、この新しいゴミ拾いトングを使用したゴミ拾いイベントも開催してきました。

ディズニージャパンとのコラボは凄いことですね

商品ライセンスでご一緒しているウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社さんにサポートをしていただきました。

“ミッキーマウス”のシルエットがデザインされているゴミ拾いトングを手に取れば、子どもも大人も笑顔になってくれると思います。海浜清掃イベントに楽しさやワクワク感をプラスしていただいたウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社さんには、心から感謝しています。

お披露目イベントはどちらで開催されたのでしょうか

2022年8月20日に神奈川県藤沢市江ノ島で行われました。環境団体のNPO法人海さくらさんとの共催で「魔法のジップロック®トングで探せ!GOMIS」を実施させていただき、代表の古澤純一郎さんに、ゴミ拾いトングを300本贈呈しました。

また、本トングを用いたゴミ拾いでは、子ども達が学んで楽しめるイベント「魔法のジップロック®トングで探せ!GOMIS」として、ゴミ拾いゲームも並行して行いました。

この催し物は、拾ったゴミをゴミの種類によってキャラクターカードと交換していく、ゲーム感覚の楽しいゴミ拾いでした。子ども達にとても評判がよかったため、今後も継続して提供させていただくことを検討中です。

今後のトングの利用法を教えてください

旭化成グループ発祥の地は宮崎県延岡市です。地域の中学校でも「Ziploc RECYCLE PROGRAM」に取り組んでいただいていますので、ゴミ拾いトングの活用を検討中です。また、海岸清掃団体や他の教育機関への寄贈も考えています。

これから第三弾が楽しみですね

有り難うございます。ただ、現在は製造した傘とトングを広めることで、私たちの活動を多くの方に知っていただくことが第一の課題と認識しています。

このリサイクル製品は、とてもわかりやすく環境の勉強に適していると評価されていますので、今後はこのリサイクル製品を使って、SDGsに関するイベントを開催するなど、「Ziploc RECYCLE PROGRAM」のことを多くの方にお伝えすることで、循環型社会について考えるきっかけを提供していきたいです。

問題点や苦労したことはありますか?

「Ziploc RECYCLE PROGRAM」の活動を始めて2年が経ちました。実は各家庭から出るジップロック®ジッパー付バッグやコンテナー の廃棄量はそれほど多くありません。月に数枚程度だと試算しています。

その少ない回収機会を大切に、より多くのジップロック®を回収できる仕組み作りが、これからの課題だと考えています。

例えば、消費する場所と回収する場所が近ければ、より回収量も増えると考え、同じ旭化成グループ内でマンション事業を展開している旭化成不動産レジデンス株式会社とも連携して、マンション内で回収する試験的な取り組みも始めています。

山下さんは現在海の環境をどのように捉えていますか?

私は千葉県で生まれ育ち、現在も千葉県に住んでいます。

休日は海岸までジョギングすることが多いのですが、ビニール袋やペットボトルなどプラスチック製品が落ちていますし、海岸だけでなく、街なかでもポイ捨てゴミを沢山目にします。

世の中の環境意識も高まってきており、以前と比べると感覚的には少なくなっているとは思いますが、無くならないのが現状です。

そのような状況を見ると、捨てるという行為をどのようにすれば止めることができるのかを考えています。

ジップロック®からリサイクル

ジップロック®の端材

溶かして生成したペレット

ポリエチレンの再生シート

リサイクル傘(江ノ島のイベントにて)

西武鉄道池袋駅に設置されるアイカサ

ジップロック®コンテナーが「MAGIP(マジップ)」のグリップ部分に生まれ変わる

“ミッキーマウス”のシルエットがデザインされているゴミ拾いトング

ジップロック®ごみ拾いトング 関係者とともに集合写真

楽しそうにトングを使用する参加者親子

ゴミ拾い活動をする山下さん

環境団体のNPO法人海さくら代表の古澤純一郎さんに、ゴミ拾いトングを300本贈呈。

GOMISの台紙。拾ったゴミの種類によってキャラクターカードと交換できる

「魔法のジップロック®トングで探せ!GOMIS」イベント前の集合写真

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

様々なマーケティング活動を通じて、商品の「便利な使い方」や「安全な使い方」を発信していますが、「正しく捨てる」という考え方も、もっと発信していく必要があると考えています。

「正しく捨てる」ことで、「循環させることができる資源がある」ということを理解していただき、皆様の環境への意識が今より高まることを願っています。

山下さんの想い

ジップロック®はとても丈夫な商品ですし、ご家庭から廃棄される頻度は決して多くありません。しかしながら、役目を終え廃棄される時はきますので、プラスチック製品が循環する仕組みが整っていますと、プラスチックゴミそのものの減量も進みます。

まだまだ微力ではありますが、「Ziploc RECYCLE PROGRAM」を通じて資源循環型社会に触れていただく活動は、長い目で見ると海の美化へと繋がると思っています。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com