レッドデータブックとは何でしょうか?
絶滅しそうな生き物をピックアップして保護活動をするため、その生き物の名前がリストになっている本です。例えば、絶滅しそうな淡水魚のニホンウナギ、メダカなどが名を連ねます。
改定版を作るのに3年から5年かかりますが、もしその間に劇的な変化が起これば、印刷にかかっていても止めて確認作業に入る事もあります。
(レッドデータブックは10年に1度出版され、次回は2024年発行予定)
レッドデータブックの選定委員として見ると日本の河川の状況は?
世界、日本、各都道府県でレッドデータブックは出版されていますが、私は「東京都レッドデータブック」、淡水魚の選定委員です。
首都圏の川は一律に、これから水質が悪くなる事はないです。どんどんよい方向に向かっていると思います。高度成長期「死の川」と呼ばれた東京近郊の多摩川、荒川、相模川などの河川は下水技術の向上もあり綺麗になってきました。
レッドデータブックの委員としてほぼ毎日川に行きます。日々の観察から感じる事は「この魚は次回のリストから外してもいい」と言う魚種が出てきた事です。この本は10年に1度の見直しなのです。たった10年で生き物の変遷を見極めるのは難しい事ですが、増減に関してばらつきがあるものの、良い方向に向かっています。
ただ、人為的な問題による弊害は起きています。例えばある魚道の場所で設計を間違えたために魚が減ってしまったり外来種が増えてしまという事例はあります。
そんな事もあるのですか?
そのような事例はいくつもあります。治水の為に水を早く流したいから淵を全部埋めて浅くして一気に水路のごとく流す工法にした場合、本来その淵に生息する魚はいなくなってしまいます。
例えば今から40年、50年前の汚染が酷い時に「タナゴ」が多摩川から姿を消しました。今生息しているのは外来種の「タナゴ」だけです。理由は「水が汚れたから?」いえ、違います。水の汚れは関係ないのです。他の「モツゴ(クチボソ)」などの小魚は生き続けていますから。タナゴは貝に卵を産むんです。川が汚い時代にヘドロが川床にべったりついて貝が死んでしまいました。だから産卵場所を失ったタナゴは絶滅してしまったんです。
メダカも絶滅危惧種に指定しています。なぜ「危惧種」と表現したかと言うと「絶滅」に指定してしまうと「いない」と言う事になりメダカに配慮した河川工事はしなくても良い、と言う事になってしまう訳です。だからもしかしたら、どこかの池に多摩川の遺伝子を持っているメダカが残っているかもしれないので、「絶滅」の断定はやめました。メダカの住める環境が壊されてしまったら復活もできませんから。だから全体を見ながら配慮していくと言う事が大切なのです。
しかし私が委員を始めた2010年以降に絶滅した魚種はいません。
では、復活しそうな魚は?
「マルタ」という大きなウグイの仲間が遡ぼってきます。その「マルタ」は鯉科ですが、1年のうち10ヶ月海で過ごしています。2ヶ月だけ多摩川に還ってきて卵を産み、その稚魚は川で半年を過ごし、また海に戻っていきます。だから川、海の環境が整っていないと、生息は難しいのですが、環境がよくなった現在、稚魚が死ななくなり、よく育つようになりました。
80年代はほんの少しの個体が海でほとんど淘汰されて何匹かしか川に戻ってこなかった事もあります。それが2000年くらいになってからいきなり増えてきました。今のところそんな感じです。
おさかなポストの創設者と聞きました。どのような試みですか?
多摩川に外来魚を放流する人が増えてしまいました。今までに約300種類の外来種が多摩川で確認されています。さすがにそれでは環境によくない影響が出る事を懸念して始めたのです。
また育てられなくなった魚や生き物を預かり、飼育しながら里親を探す活動も合わせてしている「おさかなポスト」は日本唯一の施設となります。場所は川崎市多摩区稲田公園内にあり管理は川崎河川漁業協同組合。管理者は私、山崎充哲がしています。
外来種は自然界に捨てられ捕獲されれば、必ず殺されます。その生き物の不幸を回避する願いを込めて「おさかなポスト」は誕生しました。
殺される?
ブラックバスや外来魚はわざわざお金をかけて駆除しますよね。人に捨てられた外来種はまた人の手によって殺されてしまう訳です。捨てる人の理由はいろいろあります。いずれの理由にせよ、飼われていた生き物には何も関係ない。
そこで私が考えたのは、捨てる前におさかなポストが預かる。そして新しい飼い主さんが見つかれば、生き物の未来に光があたる訳です。川に捨てられると先程お話した通り、いずれは殺されます。生き物の幸せを考えると今はその方法しか考えつきませんでした。犬、猫は譲渡会があるのになぜ、熱帯魚やカメはやらなかったの?「じゃ、水の生き物が好きだし、俺がやってやる」と言う想いから始めたんです。
正式な「おさなかポスト」という名称で始めたのが2005年の事です。アロワナ、ピラニア、アリゲーターガー、ゾウ亀 、熱帯魚、など、今まで12万匹の魚や生き物が投函され、新しい飼い主の元に渡っています。
おさかなポストはどのようなものですか?
4メートル×7メートルの生け簀を漁協組合から、ひとつ借りています。
大きな生け簀の脇に常設されている「熱帯書用」「金魚、川魚用」の2種類の魚を引き取れる水槽を用意、持ち込む方はその水槽に入れていただくシステムです。熱帯魚用はヒーター付きなので冬でも問題ありません。大きいとは言えない二つの水槽に年間1万匹の魚が廃棄されているのが現状です。とても大変な事です。
開門時間は午前10時から冬は4時、夏は5時まで。ただ閉門後に鍵のかかった入口脇に魚を置き去りにする方がいるんですが、水温が低くなり死んでしまう事がありました。朝は10時から開いていますので、さかなを投棄する方はなるべく午前中に来ていただけると幸いです。それから月曜日が定休日になりますので気をつけてください。
始めてから11年が経ち、テレビ番組等で紹介されるなどメディア露出が多くなるにつれ、見学者も増えました。幼稚園、修学旅行、遠足、社会見学などで来場される方は年間に約5万人を数え、多いときは列が出来て入るのに順番待ちになることもあります。(取材時は夕方にも関わらず、10人の見学者がきました)
活動拠点の多摩川の状況はいかがですか?
川と海は確実に繋がっています。川と海を行き来する生き物はたくさんいます。例えば多摩川では、川は少々汚れていても、海は広いので環境全部が壊れなかったんです。しかし多摩川はどんどん汚染され死の川になりました。洗剤で水面が泡立ち、ひどい状況でした。それが下水処理場の技術の進歩により、水が綺麗になってきています。毎月送られてくる水道局の明細には蛇口から出る水より下水処理代費が高くなっています。それくらいの環境配慮の意識が変わってきています。
御陰様で鮎が大量に戻ってきています。鮎の赤ちゃんは海で育ちます。海から川に昇ってきて川で大きくなる。だから海と川との連携がなければ鮎は生きてゆけないのです。2012年には1194万尾の鮎が遡上しましたが、現在は450万尾となっています。この4年間で半分以下になってしまいました。理由は複合的ですが、魚道の不備も原因の一つだと考えています。
海は綺麗になっているという事でしょうか?
そうですね。海は綺麗になっています。特に川崎あたりの海は、とんでもない状況でしたからね。昔はほとんど海の自浄作用は働いていませんでした。藻場もなければ干潟もなかった。しかし現在は多摩川の河口、川崎工業地帯の羽田の付近では大きなハマグリが取れますよ。
鮎のあかちゃんの生活する「ゆりがご」は川崎工業地帯の羽田沖にある干潟です。その干潟には、カニ、ゴカイ、穴ジャコが住み付き、干潟のドロを耕してくれるので、どんどん綺麗になってきています。その御陰で、鮎やウグイの餌になるプランクトンが増え、泥には酸素が回るのでヨシが生えてきます。ヨシの軸には微細に毛がたくさん生えていて懸濁物質を吸収し、水を透明にしてゆきます。昔からは想像できないくらい良い循環が整ってきています。
多摩川のゴミの状況は?
昨今、わざわざ川にゴミを捨てる人はほとんどいません。昔はどんどんゴミを川に流していましたが、そのような「時代はもう終わった」という事に世間の皆様は気がついています。
今、川、海に流れているゴミは、わざわざゴミを捨てているのではなく、置いておいたら流されてしまった、風に飛ばされてしまうなど意図せずして飛んで行ってしまったゴミが遥かに多いです。ペットボトル、空き缶なんてまさにその典型です。ゴミを川に捨てる人なんて 十人のうち、一人、二人しかいないじゃないですか。
あとは産業ゴミと言っていいと思います。河川敷をグラウンドに使用していますが、これが誠にけしからん。川の氾濫源に物を置く訳ですから、一度氾濫するとそこのものはすべて流されゴミとなります。だから土手の中には氾濫してゴミになってしまうものを置いてはいけません。
それから多摩川を含め、都市河川で河川敷に住む人々の小屋や荷物が増水ごと川に流され、それが橋に当たるなどの被害が出る問題がおこっています。
またグラウンドの話になりますが、河川敷に作ったグラウンドに擦過傷防止のプラスチックの粒を撒きます。今はすごいですよ。多摩川には、流されたプラスチックの粒が何億粒あるかわかりません。撒いている方々は善かれと思っても無知は自然にとってはものすごい脅威であると言うことです。
先を読まずに「想定外」と言う言葉で片付けていく、現場に出ていると気がつく事がたくさんあります。ゴミの話、水質の話、外来種の話も、「今、目につくからどうにかしよう」ではなく、科学的根拠を持った数字できちんと表し、それを元に減らす取り組みをはじめないと、ただ感情論で走っていく、それだけだと「ゴミはあるね、なんで減らないんだろうね」と嘆くだけで、それでは駄目です。
このように考えると「供給源」というのはかなり限られています。ゴミを減らすには簡単です。ただ、その供給源を断つ手段を皆さんできちんと考えていかなければなりません。
子供達にゴミ問題の教育をされていると聞いています
地域の子供達とゴミ拾いをしています。夏休みには川で定点観察をさせます。朝からずっと同じ場所に座って観察するわけです。誰がどこで、どんなゴミを捨てたか調べさせています。その観察結果では、ほとんどゴミを捨てていない事がわかりました。
しかし夏のBBQ後に、二子玉川の橋のところに大量のゴミが山積みになっていました。行政が毎日それを片付けていたのですが、年間700万円の処理代がかかっていたので、多摩川のBBQはすべて禁止にしました。
なぜ橋の下にゴミが集まったのかと言うと、そこは年に1回行われる川崎市主催のごみ拾いのゴミの集積場所だったんです。30年間以上続いているイベントでしたが、それに参加した子供達は成長して大人になり、ゴミは「そこに集める場所」と認識の元、その場所にゴミを「置いた」訳です。無意識な彼らに非はないのですが、善かれと思った行動が皮肉な形となった典型です。だからどんな理由があろうとも河原にゴミを「置く」教育をしては駄目なんです。
先生のゴミ拾いでは?
川崎市が毎年6月の環境月間にゴミ拾いをしています。多摩川全体で数万人集まります。軍手、ゴミ袋を配って、ごみ拾いをしてもらいます。でも拾ってきたゴミを集積所に置いておいたら参加者を帰してしまうのです。それはゴミ拾いじゃないです。河原に散らばったゴミをまとめて集積所にゴミを移動しただけ。掃除した事にならない。
だから、私が子供達一緒に行うゴミ拾いはビニール袋をひとつ持参させます。基本、「拾ったゴミは持ち帰りなさい」と教えています。身の丈にあうゴミ拾いを実践し、ゴミは置いて帰らせません。そして持ち帰ったゴミは各家庭で分別してもらいます。
ゴミ拾いの感想などを聞いていますが、やはり大人が出したゴミが多い。特にタバコの吸い殻の多さが目立ちます。これはどう考えても大人の責任です。それを「子供に押し付けて」どうするのか、ゴミ拾いは良い事だけど、いろいろな考え方もあり一筋縄ではいかない事は痛感しています。
しかし問題を棚上げしていたら次世代の子供達に伝わらないので、大人達が闘う姿を通して子供達を教育していきたいと思っています。
どのようなお仕事をされているのでしょうか?
いくつか会社を経営していますが一番仕事としているのは移動水族館です。地域や学校と協力体制を組み、水辺の安全教育を中心に、環境教育や情操教育を実施しています。
日本中の幼稚園や小学校に多摩川の生き物を連れて年間100回くらい出前授業を行い、外来種、多摩川の魚の話やタッチプールで生き物との触れ合い教育をしています。