有本さんはどのような活動をされていますか?
私は国指定の難病「HTLV-1関連脊髄症」と診断され、歩行困難となった障害者です。
神奈川県茅ヶ崎市でネイルサロンの経営をしていますが、自身に就労先がなく、自分で起業する選択肢しかなかったことや、これまでの様々な経験から「ネイルサロンに行きたい障害者もいるはず」と考え、車椅子の方でも気兼ねなく来て頂ける段差のないバリアフリーのPlumeria Nail(プルメリアネイル)というネイルサロンを、2018年に起業しました。
サロンでは、ネイルケアだけではなく、障害者の悩み事に寄り添う他に、心のケアも考える幅広い運営を心がけています。また、海の環境問題や障害者の就労など、社会課題に取り組んでいます。
海の環境活動とは、どのような事でしょうか?
環境活動の一環として、神奈川県茅ヶ崎市の海岸で拾った海洋プラスチックゴミを、私のネイル加工の技術で、アクセサリーや、つけ爪のネイルチップに蘇らせて販売しています。
お客様の爪に合わせたオーダーメイドなので、廃棄されることもありません。市販されているネイルチップは、サイズが合わないと捨てられる事が多いため、そのような問題を少しでも抑制できればと思い活動しています。
作り方を教えてください
海岸で拾い集めた様々なプラスチックの破片を洗浄し、乾燥後に細かく砕き、熱で溶かしてアクセサリーやネイルチップに加工します。
今は、ネイルチップ表面にプラスチックを組み込んだデコレーションがメインの装飾ですが、今後はネイルチップ本体も製作していきます。しかし、プラスチックの融点の違いや、爪の形に合わせた曲線を再現することは大変難しく、まだ失敗を繰り返している状況です。
可愛いネイルとアクセサリーですね
ありがとうございます。ネイルは鏡を見ることなく、自分の目で直接確認できる唯一の美容です。また、指先のネイルチップにはマイクロプラスチックがデコレーションされているので、いつでも視覚から環境問題を意識して頂けたらと思っています。
アクセサリーを先行して販売していましたが、海洋ゴミを拾う活動を始めたことをきっかけに、2022年5月からネイルチップの販売も始めました。私の商品は世界で一つだけのオリジナルですが、手作りのため、生産個数も限られるのが悩みの種です。
どちらの海岸で採取されていますか?
茅ヶ崎海岸の相模湾に少し迫り出した、通称「ヘッドランドTバー」といわれる場所でプラスチックゴミを採取しています。
茅ヶ崎の砂浜では、尋常ではないくらい大量のプラスチックゴミが落ちています。ライターや洗濯バサミなどの大きな物から、直径5ミリ以下のマイクロプラスチックなど、多種多様のプラスチックゴミを拾えます。
なぜゴミ拾いを始めたのでしょうか?
ゴミ拾いといえば、歩きながらトングで拾うイメージしかなかったのですが、私のように障害があると、海での活動は根本的にハードルが高く、諦めていました。
しかし友人から環境団体の「湘南クリーンエイドフォーラム」が主催している「10000ピースプロジェクト」という企画を教えていただきました。こちらは、1メートル四方を1ピースとして数え、その枠内を徹底的にキレイにし、その枚数の累計が10000ピースを目指すというプロジェクトでした。これなら私にも出来ると思い、参加を決めました。
海岸に降りて砂浜専用の車椅子に乗り換え、砂に座って1メートル四方内のゴミを一生懸命に拾いました。障害者の私でも、海岸でゴミ拾いができたことに衝撃を受けました。それは今でも鮮明に覚えています。
砂浜専用の車椅子を使用されているのですか?
砂浜を自由に走行できる大きなタイヤが特徴の車椅子「ランディーズ」です。茅ヶ崎の「サーフ90チガサキライフセービングクラブ」さんや、鵠沼の「サーフビレッジ」さんから無料でお借りしています。(貸し出し時期は要確認)
この車椅子を使用することで、少ない人手で海にも入れるし、諦めていた砂浜での活動ができることを、障害者の方々にもっと発信していきたいです。
ゴミ拾いをして感じたことはありますか?
海岸清掃を始めてわかった事があります。町々によってゴミの状況が違うと感じました。先日は藤沢市の鵠沼海岸にゴミ拾いに行きましたが、茅ヶ崎とは違う種類や形状のゴミがたくさん落ちていたことに気がつきました。地域によってこんなにも違うものかと勉強になりました。
私自身を含め、障害者は「社会貢献はできない」と、自ら思ってしまう傾向が強いのですが、1歩踏み出す事ができれば、誰だって「社会貢献ができる」と言うことを伝えていきたいです。
では、障害者就労支援のことをお聞かせください
私は約8年前に難病を患いました。それまでは、福祉施設で支援する側の仕事に就いていましたが、辞めてしまいました。引きこもりの生活をしていたのですが、家族の応援もあり、仕事を探す決意をしました。
しかし、就労先が見つからない現実を目の当たりにしました。ある時、気分転換のためにネイルサロンを探しましたが、そのネイルサロンですら、私には敷居が高く断られてしまいました。
それは辛い体験でしたね
はい。そのような経験がきっかけとなり、今まで培ったネイルチップ製作技術を活かした、海洋ゴミネイルアクセサリーの製作・販売などを学べるオンライン授業を始めました。自宅で学んでもらい、そこからECサイト経由などで、私のように収入や仕事に繋げてもらえたら、という想いがあります。
この試みで、車椅子ユーザーの社会課題である「雇用」「低賃金」「移動」といった課題解決に取り組み、将来的には世界中の車椅子女子で独自ブランドを築きたいとも考えています。このビジネスプランは「2022年第8回女性起業チャレンジ大賞」の特別優秀賞を頂き、大変励みになりました。
具体的には、どのような製作コースですか?
車椅子ユーザーは「移動」がとても大変です。そのため、遠方に住んでいる方用に、オンラインでもわかりやすく勉強できるように工夫しています。
例えば、実習の教材を全てこちらで用意することで、手軽にスタートして頂けるようにしています。また、足りない物もこちらから購入いただけるようにしています。
他に、私のアトリエでは個別で親子講座も受け付けています。講座内容は、プラスチックゴミを使ってアクセサリーやイヤリングを製作する以外に、座学として海洋プラスチックゴミの勉強や、実際に茅ヶ崎海岸にマイクロプラスチックを拾いに行くプログラムも実施しています。いずれもとても好評です。
マルシェなどへ出店されていますね
藤沢市の湘南のSDGsマルシェや、湘南藤沢HEART FESなどのイベントに、車椅子ネイリストとして参加しています。そこでは、ネイルチップの販売やネイルケアを行っていますが、一人で製作・販売しているので、初日に完売してしまうことも多く、ご迷惑をかけることも少なくありません。
しかし、私にとってありがたいことに、マルシェに来る方はビーチクリーンや環境に関心の高い方が多いです。「本当に海ゴミから作っているのですか?」という質問や、「私も海洋プラスチックが蘇るワークショップ受けてみたいです」と、嬉しいリクエストも頂いたりします。
また、教員の方から、子どもたちに「捨てない授業」ができないか打診をいただくなど、マルシェは私にとって出会いを作る大切な場所です。
課題や問題はありますか?
今まであまり考えていなかったのですが、海岸に流れ着いているゴミが、どこからきているのか?なぜ茅ヶ崎の海岸に多いのか?ゴミを出さないようにする工夫をするには?プラスチック製品を減らす努力はどうすれば?と、様々な課題が浮かんできます。
私たちは本当に何ができるのか、根本的に考えなくてはいけないと思っています。
海の環境はどのようにお考えですか?
最近は茅ヶ崎のサザンビーチのゴミが少ないと感じています。潮の流れの影響などで、もしかしたら私の勘違いかもしれませんが、先日、海に入ったらあまりにも海水が透きとおっていたので驚きました。
しかし、海の環境問題は依然として改善の兆しが見えない状況です。このままだと、魚がゴミを食べ、もしかしたら最終的に私たち人間の口に入るかもしれません。そのような負の連鎖にならないように、考えていきたいです。