今、あなたの力が必要な理由

vol.81

キャンピングカーで旅するエコアートアーティスト~廃材から絵具を創る!未来を考える作品~

綾海

綾海さん- Ayami -

アーティスト

1996年生まれ。長崎県出身。デザイン専門学校卒業後、都内のデザイン事務所に勤務。百貨店のカタログデザイン、大手アパレルメーカーの広告デザイン、航空会社のカードデザインなどを手がける。

食べるために会社勤務をしていたが、絵を描く時間が作れなくなった為、退職し、キャンピングカーで旅を始める。訪れた先々で地方が抱える課題や生産者の想いに向き合い、「観る人に未来を考えてもらう作品」をその土地で取れる廃材を使って制作している。

▼オフィシャルInstagram
https://www.instagram.com/ayami_ecoart/

綾海さんはどのような 活動をされていますか?

私はキャンピングカーで日本全国を旅しながら、エコアート作品を創作しています。その制作には、その地域課題から排出される廃材などを利用することが大きな特徴です。

しかしゴミのリサイクルや、廃材をアートに活用することだけが目的ではありません。私の作品を通じて、廃棄された物のストーリーを感じ、未来を考えるきっかけになって欲しいと願い活動を続けています。

具体的にはどのようなアートでしょうか?

「100年後の未来」という想いをテーマに掲げ絵を描いています。例えば竹害に悩む地域では、100年後の竹林を想像し、どのような竹林が望ましい未来なのか考えます。当事者の方にお話を伺うと、竹林では傘をさして歩ける間隔が好ましい姿だと教わりました。

完成した作品は「雨の竹林」をイメージ。そのように私は全国で起こっている様々な問題と理想、そのギャップを埋めるような作品を目指しています。

なぜ始めたのでしょうか?

沖縄県の石垣島でおこなわれた環境問題のシンポジウムに参加した時に、珊瑚の死骸の除去に10 億円費用が必要なことを知りました。

そこで私個人に何ができるのかを考えた時に、廃棄される珊瑚で絵具を作り、絵を通してこの現状を伝えることだと思ったことがきっかけです。

では、絵の特徴を教えてください

特徴的なことは、地域課題の廃材を利用して作った絵具を使用して創作していることです。先ほどお伝えした沖縄県での珊瑚の死骸問題と同時期に、絵具について考える機会がありました。

それは林業をされている方から「森」に絵を書く提案を受けた時、その森に生息している動物が、もし絵具を口にしたら健康被害が出るのではないかと考え、絵具の素材について勉強した時です。そのことが、今のスタイルにつながっています。

具体的に作品はどのように作るのでしょうか?

大勢のお話に耳を傾け、その都度、適した素材を見つけ出すようにしています。たとえば岩手では、ジビエ事業を展開している猟師さんのお話をお聞きしました。彼は、人間の都合で動物を殺しているのだから、その命に少しでも価値を見出そうと、取り組んでいました。私も猟師さんに同行して狩猟の現場を拝見し、命の尊さを学びました。

その時に、猟師さんからいただいた鹿の角と骨で絵具を作ると決めました。鹿の角は1200度で焼き、粉砕して、ニカワを混ぜて絵具を作り、作品を仕上げました。

また最近では使えなくなった化粧品や眠っているクレヨンを使い、子供たちと一緒に新たに可愛いクレヨンに作り直すなど、微笑ましいエコアート活動もしています。

興味深い活動ですね。ほかのテーマを教えていただけますか?

岐阜県では、養蚕業のお蚕さんの糞から絵具を作りました。長良川の鵜飼をテーマに選んだ時は、松明の残りカスを使い作品を作りました。

また有明海の漁師さんから伺ったお話は、その地域のヘドロの成分は生活排水からだけではなく、実は酸素が少なく生き物の生息が難しい土のこともヘドロと呼ぶそうです。

そこで有明海ではヘドロを使い作品を仕上げたところ、作品を観ていただいた方から「知らないことを知ることができた」と言葉をかけていただきました。

一つの作品にどのくらいの時間をかけるのでしょうか?

作品に起こすまで、構想だけで1年くらいかかります。作品の大きさにもよりますが、実際に手を動かす作業時間は2週間くらいです。

問題に関わっている方たちの想いを聞いた時に、どのようにしたらうまくメッセージが伝わるのかを思案することが多く、描き出すまでに時間がかかってしまいますね。

環境問題が大きなテーマですか?

環境問題という大きな括りだけではなく、残したい文化や、別の活用法を模索している方など広いテーマを対象にしています。

また今回、訪れた神奈川県の湘南海岸では、海がテーマなので、マイクロプラスチックを多く使用しました。

このように地域で頑張っている方々の想いをアートで表現していく。そのツールとして廃材・廃棄物が必要になるのです。

それに私は、現地に赴きしっかりと自分の目で確認することが大切だと考えています。例えば沖縄の海は、きれいな印象でしたが、実際には珊瑚の死骸が多くあり、イメージと現実の違いを知ることができました。

テーマ選びにこだわりはありますか?

難しい質問ですね。目標がしっかりしている方が、作品作りのイメージがしやすいです。なんとなく環境を良くしたいという漠然な話よりは、例えば湘南でしたら「タツノオトシゴ」を蘇らせたいなど、具体的な夢や目標がある団体や個人の方々とお話がしたいですね。

エコアートは販売しているのでしょうか?

個展の際に、小さな作品を販売することはありますが、基本的には作品は販売していません。なぜなら使用する廃材に限りがあるからです。

鵜飼の松明の残りカスを絵具にした時などは、量に限りがあります。そもそも廃材のストーリーや未来を伝えるために絵を描いているので、販売して絵を失ったら伝えるツールがなくなってしまうからです。

キャンピングカーで全国を旅をされている?

はい。「ひまわり号」と名付けました。作品を作る道具一式は重たいので、移動式アトリエの開設を目指して、2021年11月にクラウドファンディングを始めて160%の達成率で成功しました。お陰様で、2022年1月より愛車に乗って日本全国への旅をスタートすることができました。

「ひまわり号」とは、可愛いネーミングですね

毎日、日本全国を回る「日を回る」で「ひまわり」との語呂合わせです。それに私はゴッホの名作「ひまわり」が好きなことも理由の一つです。

小さなキャンピングカーですが、これまで私の活動に共感していただいた方に「ひまわり」を車体に描いてもらっています。ガソリンの給油口サイドに絵があるので、給油の度に描いていただいた方のことを思い出しています。

目標はありますか?

私自身が社会課題を改善しなければならない理由を、うまく落とし込めていない状況です。しかしキャンピングカーに乗り、全国でいろいろな方のお話を聞いていると、環境や地球に対して頑張っている人の事たちのことを大好きになりました。

その大好きな人たちのためにも「旗」となるような作品を、これからも作り続けることができたらと思っています。

絵はどこで学んだのですか?

小さい頃から絵が好きで、学生時代は美術部でした。その当時から絵でしか表現できない世界を大切にしていました。絵具には草木染めや、日本画の技法を取り入れたり、焼き物の釉薬から学ぶことも多いです。しかし絵具の作り方など、まだ工夫が必要かもしれませんね。

困ったことや問題はありますか?

活動されている方の想いをうまく表現できているのかが、大きな課題です。作品作りに息詰まった時は現場に何度も足を運び、関係者の方のお話を聞き、インスピレーションを高め、キャンバスに向かうようにします。本来なら関係者と同じくらい、その課題を説明できるように詳しくなりたいです。

各地域の問題は複雑ではありませんか?

はい。その通りです。ある時、有明海の漁師さんに「どのような状態の海が正しいのですか?」と訊いたことがあります。その方は「温暖化の影響で、生き物の変化に対し人間が危機感を持ち、改善しようと人間が手を加えることで結局、どこかで歪みが生まれ、大きな問題になる」と言われました。

私はその意見を聞いた時に、では何も対処しない方がいいのでは?と思う反面、環境をよくする活動をしている方たちは、何を信じて頑張っているのかを知りたいと思いました。

しかし二つの意見が混在する地域の場合、私の絵に「想い」を落とし込むには、どうしたら良いのかと考えてしまいます。そのために私の作品は完成までに1年もかかってしまうこともあるのです。

今までどのような展示をされてきましたか?今後の展示は?

実はエコアートを始めてまだ2回しか展示会をしていません。1回目は東京の麻布のカフェで開催しました。先日は神戸の大手百貨店で展覧会を開く機会をいただきました。私は展示会をほとんどやりませんので、現時点では今後の予定もありません。

しかし日本一周の旅を無事に終えてから、47都道府県分のアートを掲げ「日本一周展」を開催できればと思います。私の想定では2年の予定でしたが、もう少し時間がかかりそうです(笑)

イメージ作りのために訪れた湘南海岸西浦にて

作品の制作風景

マイクロプラスチックを砕いて絵具にする

ひまわり号

共感する方にはひまわりの絵を描いていただく

ひまわり号の運転席での1枚

蚕のフンの絵の具の写真

竹の作品【雨の日2122年】

ヘドロ作品【有明海 選択】

鹿作品【共死と共生】

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

これからも日本全国に足を運び、課題に取り組んでいる方々の話を聞きたいです。もし、お目にかかる機会がありましたら、よろしくお願いいたします。

綾海さんの想い

アーティストは自己表現をする人というイメージがあると思いますが、私のアートは、自己表現ではないと考えています。人の話を聞いてそれを具象化する。共感した方の想いを大勢の方々に伝えるために、絵を描いています。

そのため私は全ての社会課題が解決して、伝えるものがなくなったら、人生を終えていいという覚悟で描いています。しかし現実的には、あり得ないことなので、私の活動はまだまだ続くと思います。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com