今、あなたの力が必要な理由

vol.83

BLUE SHIPを作った理由~江の島の海にタツノオトシゴが戻ってくるための挑戦~

古澤純一郎

古澤純一郎さん- Junichiro Furusawa -

NPO法人海さくら理事長、BLUE SHIP事務局長

船具屋の長男として生まれ、現在、古沢工業株式会社 代表取締役/NPO法人海さくら代表・発起人。
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、大手デパートに入社し3年間勤務した後、広告代理店にて5年間マーケティング営業の業務に従事。退社後、古沢工業株式会社に入社し代表取締役に就任。2005年から任意団体「海さくら」を立ち上げ、神奈川県の江の島で毎月1回のゴミ拾いを始める。
2015年にNPO法人海さくらを設立以降、様々なプロジェクトを実施し、2016年5月にごみ拾い・環境ポータルサイト「BLUE SHIP」を開設。
学生時代は、慶應義塾体育会庭球部(テニス部)に所属し、脳を含む全身が筋肉で構成されていたが、現在、脳は筋肉のまま身体はほぼゼイ肉となる。

「海さくら」の活動が18年目を迎えましたね

はい。あっという間の年月ですね。NPO法人となってからは8年目となり、数えきれないくらい様々な活動をしてきました。

BLUE SHIPサイトの立ち上げをはじめ、「どすこいビーチクリーン」「お笑いビーチクリーン」「プロスポーツ20チームと共催での年間350回に及ぶLTOゴミ拾い活動」「釘のない海の家」「ちびっこビーチセーバーパーク」「海底に森を創るプロジェクト」「ACTION海の日ブルーサンタ」「海の叫び魚の展示」など本当に色々...。タバコのフィルターで自転車を作ってレースに参加したり、フィルターでカヌーを作って映画化したりもしました。

今では我々の主催するゴミ拾い活動に本当に沢山の方が協力してくれたり集まってくれるようになりました。
海さくらホームページ:https://umisakura.com

「海さくら」を立ち上げた時の想いは?

当時、色々な出来事が重なり「海さくら」を立ち上げようと思ったのですが、大好きな江の島の海のゴミを目の当たりにして「これはなんとかしなければ!」と本気で思ったことがベースとなっています。

船具屋の息子として生まれて海が身近な環境で育った私には、そんな海ゴミの状況を見て見ぬふりはできず、ゴミ拾い活動をまず1人から始めました。

海さくら設立当初は、真面目一本で頑張っていたのを思い出します。今ほど世界的に環境問題が大きくなかった当時は、他の人たちに「ゴミ拾いしよう!」と呼びかけてもなかなか共感を得られず、数年間は悩みながらの活動が続いて自身も息苦しくなった事を覚えています。

2年が経った頃、活動にあたって「確固たる目指すべきもの」を作ろうと思い、江の島の住民の皆様とのお話しを通じて「かつてタツノオトシゴが生息した綺麗な海を取り戻す」という目標を掲げることに決めました。

触発されたミュージシャンがいる?

はい。BEGINさんです。色々と重なった設立動機の一つとして、決心のタイミングで彼らの「うたの日コンサート」を観たことも大きかったです。BEGINさんは「みんなでうたをお祝いしよう」のコンセプトのもと、終戦日翌日の6月24日を「うたの日」と定め、県内の地域や団体と一緒に「うたの日コンサート」を毎年開催しています。

「戦時中のおじい、おばあは、防空壕の中で小さな声で歌い、その“うた”で励ましあっていた。大きな声でどこでも歌えるようになった今、そんな“うた”に感謝しよう!」というそのイベントは楽しく、美しく、本当に感動しました。楽しさの中から「今の平和が先人達によってあることへの畏敬と感謝」がひしひしと伝わってきて涙が出ました。

帰り道や翌日までじわじわと溢れる感謝と優しい気持ち。心から感銘と衝撃を受け、自分も「海への想い」「海をキレイにしたい!という気持ち」をこのような形で表現し、みんなと分かち合おう、と決めたのです。

実際立ち上げてみて、いかがでしたか?

最初の頃は悪い意味での「生真面目さ」が丸出しになりました。「思い描いた海さくら」ではない活動になっていましたね。周りの目も少し気にしていたような記憶があります。

鬱々としかけたそんな時に「うたの日コンサート」を思い出し、「これではいけない、自分が楽しくなければ人を楽しませられない」と我に返りました。

世間体なんか二の次だ、自分が海に行きたくなるような、みんなが楽しめるゴミ拾いイベントでなくては!と開き直り、発想を切り替えて企画するようにしました。

その時に生まれた言葉がスローガンとなっている「目指せ!日本一楽しいゴミ拾い」です。そこから今に至るまで、止まらず突っ走っています。まだまだやりたい事はいっぱい。真剣に海をキレイにしたい気持ちが強まれば強まるほど、アイデアがどんどん出てきます。もちろん、失敗した企画もたくさんありますが(笑)。

今は少しずつ、BEGINの沖縄での素敵なコンサートのような活動に近づいているかもですね。まだまだですが...。笑

ごみ拾い・環境ポータルサイト「BLUE SHIP」を作ろうと思ったのは、どうしてですか?

2005年より18年間江の島で活動をしてきた中で、一度でもゴミ拾いに参加した人たちが「ごみ問題が自分ごとに変わっていく」様子をたくさん目にしてきました。活動10年目くらいの時、「ゴミ拾い活動をどこでやっているか簡単に探せたらいいな」「探せるポータルサイトがあったらな」と思い立ったのです。

例えば「食べログ」のサイトでは簡単に近くのレストランが探せますよね。同じように簡単にゴミ拾い活動や環境活動に参加したい人が探せるサイトがあれば、各地域の活動にACTIONしてくれる人が必ず増え、海への関心・環境問題への関心が高まると思いました。

また、当時ゴミ拾い団体同士は横の繋がりがあまりなく、どこかと力を合わせたいと思っても仲間となれる団体を探すのが大変でした。そこも解決できると。

他にも色々な想いはあるのですが、2016年5月のサイトOPEN以来、今では4,000団体以上の方たちにご登録・ご活用いただいています。まだまだ進化させていかないといけないBLUE SHIPですが、着実に輪が広がっていることを感じます。

BLUE SHIPを作って7年ほど経ちました。苦労もありましたか?

サイトが立ち上がっても登録団体がなければ意味がありません。「食べログ」に例えると、レストラン探そうと思ってもレストランが少ししか出てこない状態が、立ち上げ当初のBLUE SHIPでした。

そこで、ゴミ拾い団体・環境団体に直接会いにいくことにしました。なるべくFACE TO FACEで想いを伝え、登録してもらえるようお願いしました。今ではサイト自体が周知されて自然に登録団体が増えるようになりましたが、最初の数年間は登録のお願いで全国を周りヘトヘトでした。笑。

でも今はようやく「BLUE SHIPに登録したら参加者が増えた!」「近くの団体と力を合わせて一緒にできた!」など様々な嬉しい声が聞こえるようになってきました。

諦めずに頑張っていけば、そして想いにブレがなければ、物事は軌道に乗るのだと思いました。引き続き頑張っていきたいですね。

神奈川県藤沢市片瀬東浜海岸を清掃する古澤さん

2010年 タバコフィルターカヌーで相模川を下り、江ノ島を目指した。大海原に出航する様子は、俳優・加山徹さんがドキュメンタリー映画「あなたの心が流れる先に」として記録

2012年「RED BILL BOX CARTRACE」タバコのフィルターで作ったカートで参加

2017年「どすこいビーチクリーン」の一コマ。
阿武松部屋、元益荒男師匠と一緒に

2018年「海の叫び魚」プロジェクトがスタート。新江ノ島水族館で行われた除幕式。「叫び魚」のデザインはつるの剛士さん。イベントの後は学校や環境センターなど各所に展示された

2018年夏から、江の島海水浴場片瀬東浜に期間限定で、子どもたちの遊び場「ちびっこBEACH SAVERパーク(通称:ちびビーパーク)」を開場している

2019年「ブルーサンタ」のイベントで司会をする古澤さん。この日は湘南乃風のHAN-KUNがゲスト参加

「釘のない海の家」釘を1本も使わないで建設されたライフセーバーの詰所&事務所

2022年に行われた第8回目お笑いビーチクリーンは「タウンクリーン」として東京都豊洲ららぽーとで開催された。右から古澤、「虹の黄昏」、「スーパーニュウニュウ」

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

海がキレイになれば、絶対に楽しい!そして美味しい! 安らぎをくれる海。たまに厳しさも教えてくれる海。そんな海にゴミは毎日やってきます。 本当に18年拾い続けて実感しています。このままだと本当に魚の量よりもゴミが多くなります。

押し付けたくないので、難しいのですが…。皆さん、ほんのすこしだけ、海で遊んでみてほしいです。 それがなにかを感じるキッカケになるかもです。ならないかもです。笑

よかったら海さくらのゴミ拾いに参加してみてください。一緒に海を楽しみましょう! 海さくらのゴミ拾いに参加できない人はぜひ、BLUE SHIPのイベント検索からお近くで開催されているごみ拾い活動を見つけて参加してみてください。 一人では、海は絶対にキレイにできないから、あなたの力は確実に必要なのです。

古澤さんの想い

生きている間に江の島の海で「かつて生息していたタツノオトシゴ」が戻った姿を見たい。 優しく熱く、目標にむかって頑張ってゆく。きっと出来る!と思っています。

ゴミ拾いは「おもいやり」を循環させていきます。そして最終的に海さくらは 「ゴミ拾い団体」ではなく、「海で遊びを提供する団体」になっていけばいいですね。

「海創造プロジェクト」では江ノ島に海底にアマモを植え、森の育成を目指す。「でいとう丸」で観察中の古澤さん

2021年の海ごみゼロウィークのイベントにて。BLUE SHIPの登録団体と協力してごみ拾いを実施

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com