美化財団とはどのような団体ですか?
25年前、平成3年に相模湾沿岸の13の市町がお金を出し合って海岸清掃のために設立された団体です。それまでも行政による海岸清掃は行われていましたが、一体的で効率的な海岸清掃の実施主体とし、また、ボランティアの活動を支援する拠点としてスタートしたのが美化財団です。
市と町がそれぞれ清掃はしていましたが、それだと非効率だし、ボランティアの活動を支援する拠点としてスタートしたのが美化財団です。
メイン事業は年間通して海岸を綺麗にする清掃事業です。それ以外にも海岸の美化を世間に訴えて行く美化啓発、ボランティアさんを支援する美化団体支援、海岸ゴミの組成を調べる調査研究の4本柱の事業で活動しています。
活動範囲は横須賀市走水海岸から湯河原町の吉浜海岸まで150キロの自然海岸。美化財団の清掃以外にも年間延べ16万人のボランティアさんがゴミを拾ってくれています。大勢の方々が参加してくれている。日本でもここだけの取り組みです。
柱本さんのお仕事は?
私はボランティアの支援などを担当しています。それ以外には、西湘地域の海岸パトロールを担当しています。毎週月曜日はパトロールをしながら、海岸のゴミの漂着状況の確認や委託業者の清掃確認や現場での調整、また汚れている箇所ではゴミも拾っています。他の職員も各持ち場でパトロールと清掃を平行して行っています。
鎌倉、藤沢、茅ヶ崎はボランティアが多いと思いますが、他の市町村の状況は?
ボランティア活動にも地域性があって違いがあるって面白いです。小田原、真鶴、湯河原の西湘は自治会が主体。夏前に一斉の清掃をしっかりしています。一方、三浦半島は小さな浜が多いので、その小さな浜を愛する地元の方が中心になり清掃しています。湘南は、マリンスポーツが盛んなので、サーファーが非常に多いです。また、交通の便が良いので、外からビーチクリーンしにくる団体が多いのも特徴です。
ゴミも多いですか?
神奈川の海岸ゴミの約7割は川から。雨が降れば、川から流れ出た、ペットボトルやお菓子の袋などの人工ゴミ混じりの木くずが漂着します。それは自然豊かで多くの人も住んでいる、ある種の象徴かもしれませんが、やっぱり目につく、ペットボトルやお菓子の袋などの人工ゴミは余計ですよね。特に西湘方面では、丹沢の山々で狩猟が始まると散弾銃の薬莢が流れてきますね。それと、処分にお金がかかるバッテリーとかタイヤ、消化器など処理に面倒なものは多いなと感じます。
藤沢ではあまり散弾銃の薬莢は見ません
藤沢付近だと引地川や境川などの都市河川から流れてくるゴミが多いので、散弾銃の薬莢はないかと思います。
環境保全の現場に身を置いていると、意識の高い方が周りに多いです。だから、環境問題に関心がある方が増えていると思う事があります。その一方で「ゴミなんて関心ない。マナーなんてどうでもいい」と言う「層」が、社会の中ではある一定の割合でいる、と現場で感じています。その無関心層の方々の意識をどう変えていくかは、課題ですね。
川から流れてくるゴミはどのようなものでしょうか?
海岸ゴミの約7割は川から。流木やアシ、竹などの木くずに人工ゴミが混じったものが漂着します。この人工ゴミは、私たちの身の回りにあるもの全てが含まれますよね。ペットボトルや食品の容器などは多いのですが、それ以外には、水場周りにある生活用品が何気に多く見られますよね。例えば歯ブラシとか・・・。このまま、トイレに流して捨ててしまうんですかね・・・。それから、浣腸!ちょっと人に見られたくないから、トイレに捨ててしまったんでしょうか。けっこう、見つけられますよ。
木くずなどの自然物はある種、仕方のないものではありますが、こうした人工ゴミは、それぞれが少し気を付ければ無くなるものですよね。「まっ、いいか」と思うものが集まると大変です。逆に、その、「まっいいか」を無くせば、海岸は変わっていきます。
年間16万人のボランティアがゴミを拾っています。ゴミは減っていますか?
神奈川県では年間2000t前後のゴミが回収されます。近年の数字に代わりはないのでゴミは減ってはいないと思います。
最近、海岸は「綺麗」になっていると言う言葉は多く聞くのですが、それはゴミが減ったのではなく、人の目に付く前に誰かが拾ってくれるため、ゴミが目につく時間が減っていると分析しています。
ではもし16万人のボランティアが拾わなくなったら?
延べ16万人って凄い力です。ボランティアさんはどんどん増えてきています。清掃のやり方は各人違うのですが、人の手で一つひとつ拾う事は海岸が一番きれいになりますよね。ボランティアがいなくなったら、相当数のゴミが海岸に残ってしまいますね。ボランティアさんがいなくなるなんて想像した事もありません。
例えば西湘では一人で拾っている方が多く、回収量も一袋、二袋と少ないですが、そのような方の一人の力でも全然違います。海岸の雰囲気が違って見えます。本当にボランティアあって海岸美化が成立するというのが実状です。
回収されたゴミはどのように処理をされていますか?
海岸ゴミは、その海岸のある市町の処分場で処理しています。藤沢市だったら藤沢市。茅ヶ崎で集められたゴミなら茅ヶ崎市の処分場に持ち込む仕組みです。こうした処理は無料で行ってもらっています。
鯨やイルカなどが浜に上がった場合はどうすれば?
昨年度も鯨が西湘で上がりましたが、基本、鯨類があがった市町にご連絡ください。
もっと「海を綺麗にする」という美化財団としてのビジョンはありますか?
これからも、我々は限られた予算の中できっちりと海岸清掃をしていかなくてはいけませんが、それだけではなく、ゴミが海岸まで流れつかないようにする取組みも、しっかりと行っていこうと思っています。そのため、「学校キャラバン」と称して、学校を回って環境出前授業を実施しています。昨年度は、41校、2915人の子どもを相手に行いました。
なぜ美化財団は神奈川県にしかないのでしょうか?
神奈川県の海岸の「価値」を沿岸市町だけでなく、神奈川県に暮らす方々が認めてくれているからだと思います。
神奈川県の海岸は、多くの観光客が訪れる観光地としての価値もありますし、住宅地と近接しているところが多いので、地元の方が都市公園のように利用する場としての価値もあります。これだけ大勢が利用する海岸は他にはないのではないでしょうか。
こうした価値のある海岸や守っていこうと1990年に開催されたイベント「相模湾アーバンリゾートフェスティバル (通称:サーフ'90)」の中で、重点プロジェクトの1つとして位置付けられたことを受けて設立されたのがこの美化財団なのです。
海岸清掃費は県が半分、市町が半分負担しています。その各市町の清掃費負担割合は、海岸線の長さでもないし、人口の割合でもなく、その市町が美化財団設立前に出していた海岸清掃費の実績をベースとしています。あと残りの半分は県が負担しますと言う仕組みで運営しているので、25年間破綻せず続けられた、行政的には成功している仕組みなんです。
海岸線の長さなどで各負担額を決めていたら、うまくいかなかったかもしれません。こうして県と市町にご負担いただいている海岸清掃費も年々減少しています。ですので、美化財団の清掃も非常に効率的に行っています。
まず、年間通して決まった曜日に清掃するといったことはありません。季節やゴミ量や入込客数などのその海岸の特性に応じて基本的な清掃の頻度を決めています。さらに、日々、職員が海岸パトロールをして、ゴミの漂着状況を確認して、その結果を翌週の清掃計画に反映させています。なので、江の島界隈などは、観光客も多いこともあり、おのずと清掃頻度が高いのですが、月に1回程度の海岸もあったりします。
ゴミのある場所をピンポイントで効率的に清掃するために、職員による日々の海岸パトロールは欠かせません。
では、美化財団のない都道府県はどうしているのでしょう?
地方に行くとボランティアさんがゴミを集めても、ゴミを引き取ってくれる先がないという話があったりします。美化財団のような団体を他でも作ることは非常に難しいかと思いますが、関係機関が話し合って、ゴミの回収システムだけでも作るとボランティアさんが活動しやすくなるのではないでしょうか。
海岸線を長い間見て、変化などありますか?
江の島の「東浜」は、隣の片瀬漁港の突堤整備の影響で境川からの流出方向する潮の流れが変わり、境川のゴミの大半が東浜に流れつくようになりました。それに伴って境川から流出する砂が東浜に行き、砂浜が増えました。また、江の島の右側奥に位置する「西浦」に多量のゴミが漂着するようになったのも、整備の影響かもしれません。
浜が小さくなったり、波で削られて浜崖になったりしてしまうと清掃用の重機も動かしづらくなるので、清掃が大変になりますね。
ボランティアの支援とは?
海岸清掃をしたいボランティアに対しては、ゴミ袋の提供とゴミの回収を無償で行っています。ボランティアの方が海岸清掃に取組む理由はそれぞれです。
マリンスポーツを楽しんでいて自分のフィールドをキレイにしたいからだとか、地元で散歩のついでに少しゴミを拾ってみたいという方もいます。ボランティアはそれぞれいろいろな背景を持っていて、共通するのは一点、「海岸をキレイにしたい」というところです。その一点に美化財団が存在するのが大切だと思います。
なので、海岸をきれいにしたいという方は、どういった理由でもいつでもウエルカムなんです。そのスタンスこそが、ボランティアさんの年間の人数が16万人を超えた要因のように思っています。
海ゴミの7割が川からと聞きます。流域の方々への対策や啓蒙活動は?
「学校キャラバン」と称し、美化財団の職員が学校に出向いて環境出前授業を積極的に行っています。2015年は、41校、2915人の子どもを相手に実施しました。また、相模川や酒匂川といった河川の流域協議会にも所属し、機会を見ては海岸の現状をアピールしています。
また、普段あまり海になじみのない層にもアピールするために、サッカーの試合会場や音楽イベント等にも出展し、海の大切さを訴えています。
花火、BBQゴミの現状は?
やはり、近年一番問題になっているのはBBQゴミ。各所に捨てられています。シーズンには、地元の市や県、美化財団の職員も加わって、ゴミの持ち帰りの声かけを行ったり、また、これまでBBQゴミの投棄がひどかった茅ヶ崎市域のオンシーズンにおけるゴミ箱の試験的撤去も行った結果、BBQゴミの投棄がとても減りました。といっても、まだまだBBQは様々な海岸で行われるので、今後も県や地元の市町と連携して対応していきます。
ゴミ箱がなくなって、どうなりましたか?
最初はゴミ箱があった場所に捨てられてしまうこともありましたが、粘り強く回収して対応していくと、少しずつそうした投棄も減ってきますね。
また、ゴミ箱の設置の有無は、市町の判断になります。ゴミ箱は残した方がいいのか、なくした方がいいのか、両方のご意見があると思います。美化財団としては、ゴミの投棄状況をデータとしてとって判断材料の一つとして提出しています。
海の家解体時に出る釘問題については?
釘は残念ながらありますよね。それが現実です。
こうした釘は、海の家の設置者がきちんと後始末すべきものだと思いますので、解体の時は釘についてもっと気を付けてほしいです。釘は、道路などでは、落ちても見つけて拾うことができますが、砂浜は違います。
一度落ちると、砂の中にもぐって見つけられなくなっちゃうんですよね。更に、風で砂が移動してその上に積もったりしてしまうと、探そうとしても探せなくなってしまいます。その後、春先などの強風で、表面の砂がなくなると、下からごっそりと、夏の終わりの釘が翌年の春に発見されるんです。
釘は、海岸にあってはいけないものです。本来、設置者がきちんと対応すべきものですが、美化財団の清掃で回収した釘については、本数を集計しています。それをデータとして、海岸管理者に提出し、対応をお願いしています。
パトロール中に大変だった事、危なかった事は?
海岸は、夏は暑いんですよね。日陰がありませんし。そこにドバっとゴミが散乱していることが多くて、去年は、そんなゴミを片づけていたら、ふらーっとして、熱中症で倒れました。
基本的に海岸ゴミは、片付けても一雨降れば、また新たなゴミが漂着したり、夏場は毎週末のようにゴミが捨てられたりと、キリがないのが現実です。せっかく、きれいにした場所を汚されるのはうんざりすることもありますが、これをきっちりキレイにするのが美化財団の仕事です。
ボランティアさんがゴミ拾いをする時の注意とアドバイス
楽しいのが一番です。「ゴミ拾いなんて」と思っている方もいたりしますけど、そういう人に限って、始めるとかなり熱中して拾ってますよね。なので、やるなら楽しく。そして、「ゴミを拾ったらすぐ帰る」のではなく、きれいになった海岸でぜひ遊んでほしいです。やっぱり、海はいいところなので、アフター含めて楽しい時間を過ごしてほしいです。