今、あなたの力が必要な理由

vol.30

京都発、経済学者がITを活用し川ゴミ問題解決に挑む~世界に広まるWorld Cleanup Dayとは~

原田禎夫

原田禎夫さん- Sadao Harada -

大阪商業大学公共学部公共学科 准教授・博士(経済学)

同志社大学大学院経済学研究科博士後期課程満期退学。博士(経済学)。

現在、大阪商業大学公共学部准教授、特定非営利活動法人プロジェクト保津川代表理事として、川やごみのプラスチックごみ問題に研究、実践活動の両面から取り組んでいる。自他共に認める川バカ!

原田先生は何をされていますか?

私は海と川のごみ問題に取り組んでいます。海ごみはほとんどが陸を通じ川から流れ出している状況をご存知ですか?その解決のためのアプローチはいろいろあります。

例えば、東京農工大学高田秀重先生のようなプラスチックを化学的に分析されるような取り組み、あるいは海洋工学の先生ならば、世界中の海流を調べて、ごみの流出過程など分析されている方もいらっしゃいます。

私自身のバックグラウンドは経済学なので、社会活動や経済活動の中で大量に流れ出ているプラスチックごみ問題を解決できる社会の仕組みを作り、どうゴミを減らせるか、どのようにしたら使い捨てプラスチックごみ問題への無関心を関心へと高められるか、ITを使いどのようにしたら人々の行動を変えられるのかを研究しています。例えば、クリーンアップ活動はいろんな地域で行われていますが、どうすればもっと元気に、そして効率的にできるのかを研究しています。

先生はいろいろ活動されていると思いますが、具体的には?

京都・嵐山を流れている保津川は流域で名前がコロコロと変わります。私が住む上流の亀岡市では保津川と呼ばれ、下流の京都では桂川でしょうか。それくらい川の流域に住む方々にとっては、昔から生活に密着した川なのです。例えば、亀岡から嵐山まで16kmに及ぶ保津川下りは今年で412年の歴史を誇り、今日では毎年30万人のお客さまが世界中からお越しになる世界的に有名な舟下りとして知られています。

20年以上前、保津川にも大量のプラスチックごみが流れ着くようになりました。当初、船頭さん達が自分の職場であるということで清掃活動をボランティアで始めたのですが、追いつかないくらいごみの量が増え、私の元に相談に来られました。なんとかしなければと思い、船頭さんをはじめ、学者、行政の方々、一般の方々と一緒に作ったのが「プロジェクト保津川」です。2007年に設立し、今年で11年目になります。

設立以来、毎月1回市民の皆さんと清掃活動をしています。今年の9月で114回を数えました。年間延べ1000人以上の方が清掃活動に参加してくださっています。おかげさまで下流の嵐山では「随分と川ごみが減った」と嬉しいことをおっしゃってくださるようになりました。

「ごみマップ」という活動もされていると聞きました。

オンラインで川のごみが調べられるアプリです。スマートフォンや携帯電話のカメラでごみを撮影して送信すると、地図に写真とごみ情報がアップされます。どんなごみがどこに、どれくらいあるか調べられます。しかし、このアプリの大切なことはごみを調べるプロセスにあるのです。この「ごみマップ」は川の10mごとにごみの種類や量を調べられます。

しかし、そんな細かい情報は研究者や行政だけでは集められません。地域住民の皆さんの協力が不可欠です。これまでの調査では、自治会や町内会のみなさんに、3ヶ月から6ヶ月、毎月調査をしてデータを収集していただいてきました。

調査を通じてこんなにごみがあったのかと認識していただくと、色々気づきが生まれます。例えば、自分の町内を流れる川が綺麗だと思っていたら実はすごく汚かった。隣町の方が綺麗だと気づくことがあります。それがとても大事だと思うのです。

きっかけが大切なんですね

清掃ボランティアの団体や役所が「川を綺麗にしよう」と声をあげても「あーそうですか」と言った感じになりますよね。そうではなくて、やはり長続きさせようと思ったら、地域のみなさんが自分の地域の課題だと認識しないといけません。調査を皆さんと一緒にやるというプロセスが大切なのです。調べると如実に数字でわかるわけです。

どこにどんなごみがあるのだろうと、例えば年に3回くらい清掃活動しようとか、そのための組織を作ろうだとか、ごみを捨てやすい場所には監視カメラを付けよう、回覧板を回すなど、その地域の皆さんが考えてくださる。

そういう声が上がってくるとNPOだけで声を出しているより、自治会や町内会など一緒になって声を上げ始めると行政も動きやすいですよね。国や、市町村の様々な支援制度も組み合わせて使うことができます。

ITを使って広めるのですね

地域が自発的に行動を起こし、活動を広めていく。その過程でITを使うことも重要なポイントです。調査に協力してくださる自治会のみなさんは、どこも基本的に年配の方が多いのです。あえてそこにスマホやGPS付きデジカメなど、年配者にとってある種の「訳のわからない道具」を持ち込む。最初は「こんなもん使えん!」と言っていた人が、息子さんに使い方を教わり、そこに親子で川ごみについての会話が生まれたりするのです。

また、調査していると他の人から注目されるわけですね。「何をしてるの?」と尋ねられて、住民のみなさんの間でごみについての会話が生まれる。そういうことが地域としてとても大切です。

あるいは「役所はちゃんとゴミの回収しているのか?」と文句を言っていた方が、定期的に川を清掃している役所の方の現場に出くわすこともあり「土木事務所がゴミを回収していたぞ。ちゃんとやってくれている」という話になり、行政の皆さんももっと頑張ろうと思ってくださったりと、いい循環が生まれてくる。そうなると、ある意味私たちの手から離れても、その地域は住民だけで十分やって行けます。

先生の活動拠点の亀岡市では全国初の取り組みがあるそうですね。

全国では初めて「内陸部から海ゴミの発生抑制に取り組む」ということを、平成23年に策定された市の総合計画に掲げています。総合計画に定められる、ということは非常に大事で、予算化して必ず事業が行われることにつながります。

今では、河川管理者の京都府とも連携した取り組みが進められています。総合計画に掲げられたあと、翌年「第10回海ごみサミット2012亀岡保津川会議」が、海のない町で初めて行われました。テーマは「デポジット制度など経済的な手法を使い、陸から海にごみが流れ出ないためにどう抑制するか」でした。海外の方も含め500人以上参加してくれました。

海ごみサミットの翌年2013年には「川と海つながり共創(みんなでつくろう)プロジェクト」を市内の16の団体、企業、自治会連合会、と一緒に立ち上げました。プラスチックのストローなど使い捨てプラスチックが世界的な問題になっていますが、亀岡市内の喫茶店やレストランで、プラスチック製品をなるべく使い捨てしない状況を作るために、市民の皆さんや飲食業の方と一緒に、その取り組みを応援できるような仕組みを作っていきたいと考えています。

プラスチック製品抑制は単なるスローガンで終わらせてはいけません。市長も「世界最先端の環境先進都市を目指す」と掲げているので、この小さな町から世界に発信して行こうと思っています。

プロジェクトの名前はなんですか

「川と海つながり共創プロジェクト」から市長に提案している段階なので、名前はまだありません(笑)。

環境教育はどのように?

よくある環境教育は、残念ながら単発で終わることが多いです。1年間の授業のカリキュラムとして、このゴミ問題に取り組んでいこうと先生方と話し合い、現在は小学校の総合学習の時間を使って授業をしています。時間をかけた丁寧な取り組みをやっているのも、亀岡市の教育の一つの特徴です。

子供達の取り組みはすごいですよ。よその町の取り組みはどうなんだろうと調べたり、海外はどうなっているか知るために、各国の大使館に電話して聞くなど、積極的ですね。

先生のその情熱の原点は?

子供の頃から川で遊ぶのが大好きで、朝から晩まで川で魚取りをする少年でした。近くの川で護岸工事があって、怪我をしたり死んだ魚が血だらけでプカプカ浮いていて、それを見たら「何ちゅうことすんねん!」と子供心に思ったのが原点ですね。

東京の川は護岸工事により河川に入って行けない状況です。どう思われますか?

いやー、ありがたいことですね。都会でそうやってくれると田舎の川の価値が上がります(笑)。でも本当にそれは、日本の河川の課題なのです。「危ないから近寄らせないではダメ」です。保津川では鮎も捕れますし、保津川下りもあれば、最近では筏流しの復活にも取り組んでいます。

しかし、単なる観光イベントで終わらせるわけではありません。例えば、保津川の筏流しは1300年の歴史があります。鮎は「鮎の道」を通って京都に運ばれ、朝廷にも献上されました。このように川から地域の歴史、文化、自然を学ぶことができるのです。

単に「ごみをなくしましょう」だけだったら、「意識高い系」の人しか集まってくれないでしょう。楽しいとか、面白いとか、いろんな価値観を提供することが、間口を広げていろんな人の参加を実現します。10人いたら10人の価値観があるわけですから、10人の人たちに届くような訴え方をして、いろんな角度から伝えていくのが大切だと思います。

2008年からエストニアで始まったWorld Cleanup Dayをについて教えてください。

私は「ごみマップ」などITを使って人を繋ぐという事に関心があり、その研究を進めてきましたが、ワールドクリーンアップを主催しているNGO「LETS Do it!」のメンバーだった、10年ほど前に日本に留学していた学生が連絡してくれたのがきっかけです。エストニアの若い人たちが新しいクリーンアップの取り組みを始めていたのは、この頃から知っていたのですが、3年前から現地調査を始めました。

それがきっかけでWorld Cleanup Dayを日本でもできないかと考えるようになり、同じようにエストニアと交流のあった日本のみなさんとの出会いもあり、とにかくやってみましょうという話になりました。

エストニアのゴミって想像がつきません

ソ連からの独立後、廃棄物管理制度が崩壊し、以前は原野や森林に大量の不法投棄があったそうです。しかし、今のエストニアにはそれほどごみはありません。ITを活用した国民的なクリーンアップ活動が根付いたこともありますし、日本の散乱ごみで特に多いペットボトルなんかもデポジット(預け金)制度を導入しているので、ポイ捨てもほとんどありません。

エストニアはITが非常に進んだ国ですが、こういう問題にもうまくITを活用し、社会の制度を作り上げているのが興味深いです。

日本では初めてですね

2008年にエストニアで始まった当初は、エストニア国内での一斉清掃として始まりました。 2008年5月3日、初めてのクリーンアップが行われました。5万人が団結して、5時間かけて国中をきれいにしました。そこから「LETS Do it! WORLD」として、少しずつ世界中を繋げてきました。

エストニアの成功事例は、現在130国以上が同じモデルに基づいて世界へと広がっています。そして初めての「World Cleaup Day」が2012年に行われました。今年はエストニアの建国100年にあたり、それを記念して今まで以上に取り組みを広げ、150カ国の参加を目標に準備が進められてきました。日本も今年、初めて開催することとなりました。

世界では155ヵ国で行われ、1300万人を超える人が道路や公園、ビーチ、森林でごみ拾いをしました。同じ時間に同じ事を世界中の人がやっている、面白いですよね。世界同時とはいえ時差があり、日本の活動が終わっても、夜になっても、「今頃どこかの国でごみ拾いをしている人がいる」。そんなことを日常の生活で感じることはありません。地球を順番にリレーしていく、その感覚も面白いですね。

※活動が評価され、LETS Do it! は2018年ユネスコ/日本ESD賞受賞

9月15日日本で初めて行われてたWorld Cleanup Dayはいかがでした?

残念ながら今年は秋雨にたたられて、開催を予定していた多くの会場で清掃活動は中止になりました。私が参加した京都・保津川でも、雨のため清掃活動の時間を短縮したり場所を変更したりしましたが、125名の方にご参加いただき、わずか30分の清掃活動で600kgのごみを回収することができました。清掃活動のあとは、地元特産の京藍のたたき染体験をしていただいたり、参加者のみなさんにも、いつもと違うごみ拾いを楽しんでいただけたかなと思います。

清掃活動の最中も、日本はもとより世界各地の取り組みがどんどんスマホに飛び込んできて面白かったですね。一番印象的だったのは、私たちが清掃活動を終えたころ、中東のカタールからもごみ拾いの様子がアップされたことでした。都市の側の砂漠に風で飛ばされたごみを、暑くなる前に日の出とともに清掃している様子がツイッターにアップされました。「朝日が昇る砂漠でごみ拾いが始まった」そんな様子をリアルタイムでみなさんと共有できたのも面白い体験でした。

今後の展開と目標を教えてください

今回は、いつもの私たちの活動と違い、日本・エストニア友好協会や企業のみなさんなど、いろいろなセクターの人と世界同時にごみ拾いをしよう!という本当に面白い経験ができました。来年の取り組みはまだ何も決まっていませんが、この素敵な経験をもっと多くの人とともに楽しめる、そんなイベントに育てていきたいなと思います。

マイクロプラスチックは言葉として定着していきますか?

本当は問題を解決をして、そんな言葉は定着しない方がいいのです。しかし実際には無理なので、マイクロプラスチック問題の解決は、本当に地道な時間のかかる活動だと思います。

京都や大阪の大学でプラスチックごみの授業をゲストスピーカーの方とともに行い、学生にアンケートを行いました。すると、ごみのことは小学4年生頃の社会科の授業で、ごみ処理工場の見学などと合わせて行ったまま、という学生が6割ほどを占めていました。その次は、私たちが行った大学の講義、ということになります。

つまり、たまたま私たちの講義を受講した学生は、こうして最新のごみ問題に触れることができていますが、そうでない場合は小学4年生の時に習ったのが最後、そのままアップデートされていないことになります。ごみ問題をはじめ、昨今の環境問題についても一過性のことにしないために、社会で現実に起こっていることを、中学・高校・大学と学び続け、きちんと理解できるようにならないといけません。しかし、今の日本の教育ではそれが出来ていません。マイクロプラスチックの話にしても、ただ「大変だ」というだけで自分たちの生活に結びついてない。それが日本の教育の問題点です。

保津川の活動

多量のペットボトルが保津川に集まる

江の島の活動

日本エストニア友好協会のエストニア文化セミナーで、「エストニアから始まったWorld Cleanup Day 2018〜世界をキレイにしよう!」のミーティング

オオミズナギドリの生息地、冠島のペットボトル回収調査。40分で518本のペットボトルを回収

世界各国のWorld Cleanup Dayの様子

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

ごみを調べていると、生活ごみがほとんどなのです。社会の制度や仕組みを整えることももちろん大切なのですが、本来プラスチックは、人類が産み出した便利なものの一つのはずなのです。軽くて丈夫で、プラスチックがなくては医療や宇宙産業も実現しない。

そんな大事なものを使い捨てにしていていいのか? 資源の使い方など、結局私たちの意識を反映したものなのです。環境問題に積極的に取り組んでいる企業、団体があればどんどん応援していただきたい。ごみ問題は誰かを悪者にして終わる話ではありません。我々全員が被害者であり、加害者でもあるという複合的な問題なのです。今ならまだ間に合うので、国任せにするだけではなく、今の環境破壊を食い止めるために私たち自身にも何ができるのか考えて欲しいです。

原田先生の想い

祖父が釣り名人で、子供の頃は朝から晩まで川で遊んでいました。今は子供たちと一緒に川で遊んでいます。自分がおじいちゃんになった時にも、孫と一緒に、やっぱり魚がいっぱいいる綺麗な川で遊びたいなと思っています。私にとっては川が原風景です。そんな昔と変わらない風景を守っていきたいと思います。

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com