今、あなたの力が必要な理由

vol.20

ジビエ料理が日本を守る~鳥獣被害から農家を守り、地方創生の担い手に~

藤木徳彦

藤木徳彦さん- Norihiko Fujiki -

一般社団法人日本ジビエ振興協会 代表理事 理事長、
オーベルジュ・エスポワール オーナーシェフ

東京都生まれ。駒場学園高校食物科卒業後、すぐに蓼科高原のオーベルジュで修行。肉、魚、野菜の卸業を経験した後、98年「オーベルジュ・エスポワール」をオープン。オーナーシェフとして腕を振るう。

貪欲に地元食材を追求しており、地元食材を使った料理教室や食育講座、大学・高等学校の講師も務める。地域の食材と環境を活かして、そこでしか味わえない美味しい料理や、そこでしか楽しむことのできない空間でのおもてなしを提唱し、「地産池消の仕事人」として全国各地で地域の魅力を発信するための助言を行っている。また、「(一社)日本ジビエ振興協会」代表理事として、全国各地の自治体と連携してジビエ講習会を開催している。

著書に「フレンチで味わう信州12か月」(信濃毎日出版社)「旨いぞ!シカ肉~捕獲、解体、販売、料理まで~」(農文協)「ぼくが伝えたい 山の幸 里の恵み」(旭屋出版)がある。

松本大学人間健康学部健康栄養学科、松本第一高等学校食物課特別講師。

  • 2008年:農水省「地産地消の仕事人」選定。
  • 2009年4月~:日本農業新聞「藤木シェフの食材発見」連載中。
  • 2011年1月:農水省「FACO食農連携コーディネーター」登録。
  • 2011年9月:農水省「六次産業化ボランタリープランナー」任命。
  • 2012年5月:「日本ジビエ振興協議会」代表に就任。
  • 2014年7月:「特定非営利活動法人日本ジビエ振興協議会」代表理事に就任。
  • 2017年3月:「(一社)日本ジビエ振興協会」代表理事に就任。

藤木さんは何をされていますか?

1998年にオープンしたオーベルジュ・エスポワール(長野県蓼科高原)を経営しています。オーナーシェフとして地元食材を使った料理教室や食育講座、大学高校等の講師も努めています。

ジビエ協会の発足のきっかけは?

レストランは諏訪インターから八ヶ岳に向かう国道299号線の道沿いにあります。ここは11月の下旬からゴールデンウィークまで山頂付近が通行禁止となり、ほとんどのお客さんは蓼科に来る事ができない状態になってしまいます。

私は東京育ちなので、蓼科でレストランを立ち上げた時は、冬にお客様が来ないという事は想定外でした。だからと言って店を閉める訳にはいきません。そして、もう一つの大きな問題がありました。長野県の大自然の中、冬でも何か食材があるのだろうと思っていましたが、蓼科では、冬期は食材の収穫が全く出来なくなってしまうのです。

天然キノコが10月下旬で終わります。キノコが終わった後、冬の食材は何もなくなってしまうと地元の方と雑談していたら、「うちのじーちゃん鉄砲で鹿を獲ってくるんだけど、あれは美味しくなくてね。去年の鹿がまだ冷凍庫にある。シェフいる?」とその肉をいただいたのです。

近所の猟師さんからいただいたお肉はいかがでした?

今まで修行で使っていたフランス産やニュージーランド産のジビエと肉質が変らず、とても美味しかったです。そしてふと思いました。「なぜ猟師の家では不味いと言うのだろう」と、もしかしたら調理に問題があるかもしれない。私の技術で料理したら、冬期でもジビエ料理として出せるかもしれない。これが私と「ジビエ」の出会いでした。

早速、レストランのHPから「信州ジビエあります」と発信したところ、1年目から、わざわざ東京から来て最寄り駅からタクシーで片道6000円かけて来てくださるお客さんも増えてきたのです。もしかしたら、食材不足で冬場に店を閉めるというサイクルを変えられるかもしれないと思い、冬はジビエに力を入れていこうと思いました。

大変な事はありましたか?

鉄砲業界の事は全く知りませんでした。猟師の世界では鹿とイノシシを撃つ猟師と、鳥を撃つ猟師に分かれていて、それぞれ獲っているのです。だから猟師さんの紹介でそれぞれの獣を獲る猟師さんを紹介していただきました。

猟師さんと仲良くなるうちに、今度は農家さんとも話をする機会が増えてきました。そうすると、農家さんは「最近、鹿が増えてね。収穫の前日に全部やられた。悔しい。なんとかならないかな?」と話していたのです。

長野県の鳥獣被害は2000年くらいから増え始めました。店が出来た当初、1998年頃は鹿が一頭10万円でしたが、今は1万円もしないです。何が言いたいかというと、当時、鹿はそれだけ貴重だったという事です。

つまり、98年頃はいなかったんです。そこから20年が経ち、鹿は爆発的に増えてしまった。今の猟師さんは美味しそうじゃないのが目の前を通っても撃ちませんよ。オスや老鹿は撃たないんです。

鹿が増えてしまった?

鳥獣被害を農家さんから「憎き獣をどうにかしてくれ」と聞いていましたが、「憎き獣ではなく、美味しく調理すれば美味しい肉」という事を発信していこうというのがジビエ協会の始まりです。ジビエ協会発足が5年前で、任意団体から全国組織を立ち上げ、その後NPOになり、一般社団法人になりました。

ジビエの広がりについて

長野県には県庁からの出先機関が10カ所あります。諏訪地方事務所の観光課から、諏訪6町村の料理人に勉強会を開いて欲しいと依頼を受けました。「食材が少ない蓼科の冬にどうして集客出来るのか?」というテーマです。2004年11月に定員60名で予定し、冬場、食材が少ない時期のフルコース料理のメニューに、地元で獲れた山鳩と鹿肉を組みこんで新聞に告知したところ、保健所から「待った」がかかりました。

当時、ジビエは山肉と表現していました。保健所は「山肉を提供する事はいけません。メニューの山鳩と鹿肉は外しなさい」と。私たちが「県が公に山肉を出しては駄目だと前例を作ってしまうと、せっかくの機会が駄目になってしまうので困ります。」と伝えても、保健所は駄目なものは駄目の一点張り。

そこで、当時長野県知事だった田中康夫さんに直接連絡をしました。論点は、ヨーロッパからは毛付きの鴨、鳩の内蔵が入ったまま食材が輸入されてくるのに、地元で獲れるものがなぜ駄目なのか。しかも、鹿やイノシシの肉は旅館などでも料理として提供しているではないか、という事です。「輸入食材が大丈夫で、県の産物が駄目な事に納得がいかない」と伝えました。そうしたら、しばらくしてから県、保健所での調整によってOKが出ました。

実は出していけない理由はなかったのです。流通させるルールがなかっただけ。昔から、猟師が獲って旅館で提供するのはグレーな事として容認してきた歴史がありました。しかし「公に」するのはグレーゾーンで判断が付かなかったため、保健所としては駄目。という事だったようです。

イベントの成功を期に、「信州ジビエとして広めるため、特産のワインと一緒に長野県の新たなブランドとしてアピールしませんか?」と、役所の方に提案をし、ジビエのガイドライン作りに取り掛かったのが、この活動の始まりですね。

他の県はどうですか?

平成19年に長野県のガイドラインが出来ました。他県は捕獲して肉にするまでのガイドラインですが、長野は美味しく食べるための調理の仕方までのガイドラインを作っています。この試みは長野だけです。

このガイドラインを見た滋賀県関係者から「滋賀も鳥獣被害に困っています。駆除で終わらすか利活用するのか、どちらを選択するかの岐路に立っているので、勉強会をしてほしい。」という連絡がきました。滋賀県庁に行き、捕獲従事者、料理人すべての方を呼んで、私が料理を提供しました。そして、今まで長野県で起きた事やジビエを肉にする事によって命を無駄にしないという事を話しました。滋賀県から始まり、現在は色々な県のジビエ関係の立ち上げに関わっています。

日本ジビエ振興協会の会員数は?

2017年11月現在で、法人会員35社、特別協賛会員1社、協賛会員2社、自治体会員が40となっています。

今まで国や県はどうしていたんですか?

国からは捕獲報奨金が出ています。一頭8000円。それは増えすぎた動物を駆除するための保証金なので、役所としても駆除していただけるとOKでしたが、平成28年12月に法律改正があり「有害鳥獣捕獲は、捕獲したものは食品として利活用しなさい」と明記されました。それにより、役所としては「有害鳥獣捕獲で殺して駆除するだけはなく利活用しなさい」という事なりました。

この法律を実際に動かしたのは、自民党の石破茂元地方創生担当大臣です。元大臣がジビエ議連という議員連名を立ち上げて、2014年に初めてお会いしました。仕事がなくて地方を去っていく方が多い中で、ジビエが新たな雇用の創出になると考えてくれました。

実際に被害は減っている?

被害は減ってきています。目に見えるものとして「被害額」が減ってきています。つまり、頭数が減ったと言うことです。詳しい頭数に関してはわからないのですが。

ジビエ料理は他の調理と違いますか?

大きく違います。家畜のオスはいません。去勢された個体とメス。家畜は人間が食べやすく、脂がちゃんとのって硬くない肉が大前提ですよね。あと経済的に都合よく育てられる事も大切。その正反対が野性の肉です。勿論オスもいるし筋肉質で余計な脂がついていません。だからすごいヘルシーで、赤身の味わいが魅力的です。

しかし調理は難しく、よく焼き肉で例えるのですが、サシの入っている肉は子供でも美味しく焼けますが、ジビエに関してそれは絶対にタブーです。美味しい部位がピンポイントに狭いです。その範囲で調理を仕上げないと硬くなります。硬くなると臭みが出ます。鹿刺し、カルパッチョなど生で提供して、E型肝炎で死亡例が出てしまいました。

どうすればいいのでしょうか?

調理講習が大切です。例えばフランス料理のシェフでも、野性の鹿を扱った事がない方もいます。だから料理法や調味料の使い方を伝えていかないと、法律で衛生的に処理されたよいジビエが入っても、料理人が下手な料理を作ってしまうと、結局普及にはならないので講習が必要なのです。

ノウハウを惜しみなく出してしまう事への料理人としての葛藤は?

たしかに料理人としては自分の技術を隠したい事もあります。しかし、それをしていると広がらないので積極的に伝えていくし、レシピも出します。普及するためにはそんな事を言っていられません。

現在、ジビエの種類は?

国が認めている厚生労働省のガイドラインの獣種は鹿とイノシシの2種類だけです。他の獣、例えば鴨、穴熊、ツキノワグマはガイドライン外です。

と言うことは、料理しては駄目?

野鳥に関しては問題ないです。ツキノワグマも大丈夫だと言われていますが、国としてやってもらいたいのは鹿とイノシシだけ。それはなぜかというと、農作物の被害を受けるからです。だから我々も鴨や鳩の講習はしません。猿も被害を出していますが、「猿は食べない」と言う事です。

我々がジビエを食べる時の注意点などありますか?

店の仕入れ先がはっきりしている事が基本です。今は闇肉も多いんです。ジビエは野性獣処理施設から仕入れなければいけないと決まっています。しかし、インターネットで「ジビエ 通販」などで調べてみると「山で獲れました。直送します。」とありますが、これは違法行為です。畑から朝取れの野菜や魚と同様に、新鮮な感覚でジビエのサイトから買う消費者の方が多いのですが、違法行為なので今はやっては駄目です。

消費者も提供されるまま食べてしまうと、昔あったユッケ事件のように、悲劇が起きてしまいます。マスコミの方々にお願いしているのは、消費者もルールを勉強してもらいたい。ジビエは危険を伴うのだと。だから知識があればジビエを扱うレストランに行っても、猟師からの直送を掲げていたら、その料理は避けることができます。

これから次々に規制を作って行く

全国に処理施設が約500カ所あります。家畜は屠畜所に持って行って解体しますが、家畜をさばく場所で鹿、イノシシの野性獣は通常、解体しません。昔は山で獲れた獣を、ナイフで内蔵を出して皮を剥ぎ、沢水に付けて冷やすだとか、屋外ですべて作業していました。まだ生暖かい肉をビニールの袋に入れて、血がしたたる肉を持って里に下りてきて旅館などに売る。今までのやり方では1本のナイフで解体するため、大腸菌や雑菌が肉に付くのです。菌数を計ると測定不能なるくらいすごい数です。

今の正規のやり方は例えば、箱穴という罠で生きたまま捕獲した獣を「止めさし」といいますが、電気ショックなどで失神させて、頸動脈にナイフを入れて血を抜き、その場ですぐに凍結をさせます。内蔵が入ったまま、速やかに野生獣専門の処理施設に持っていかなければならないというルールです。

だから野生獣専門の施設で処理された肉を飲食店、一般消費者が買うと安全なのに、インターネット販売では、そんなルールを無視して激安を唄っていますよね。そのような危険な行為が一般の消費者には知られていないので、そこを是非伝えていただきたいです。

マーク等の表示はありますか?

実は今、制作中です。昨年度から農林水産省の補助事業を受け、国産のジビエの中でも厚生労働省のガイドラインを遵守し適正に解体処理している施設を、客観的にチェックして認証する制度を検討しています。加工業者や消費者に安心・安全なジビエがどれなのかが分かる仕組みと、ロースやモモなどの部位の規格を定め、全国の処理施設から安全なジビエが安定的に供給されるようになることを目指しています。

今年は全国7箇所の処理施設が認証制度の試験運用に参加しています。認証された施設から出荷された肉にはマークをつけて販売することも検討されています。

ジビエ処理をする車が出来たと聞きました

解体処理が出来る車です。捕獲現場から処理施設まで距離があります。今の狩猟は野菜が荒らされる暑い時期に行われる事が多いのです。

炎天下の中、高齢のハンターが内蔵が入ったままの70〜80キロもある鹿やイノシシを担いで、軽トラックに乗せて処理施設まで運ぶ作業は大変だし、夏場は30分を過ぎると内蔵が腐敗してガスでパンパンに膨らんできます。1時間以上経つと臭くなってしまって、とても食べられない。でもガイドライン上は1時間以上たった肉でも捌いてよい事になっています。だから極端に言えば、臭い肉が流通している事になってしまいます。

しかし現場で迅速に処理を始めれば、新鮮で安全に処理ができる。その事からジビエの利活用率を上げていこうという取り組みです。現在日本全国で捕獲数は鹿、イノシシ合わせて110万頭と言われています。その中で食肉としての利活用率は10%です。90%は肉にならずに捨てている。国は利活用率を20、30%に上げる事を目標としています。それには獲った方がなるべく手間なくすぐ捌けるような事が大切です。

車は何台ありますか?

現在は、長野トヨタ自動車株式会社様と日本ジビエ振興協会が共同で2台保有しているのと、高知県梼原(ゆすはら)町が1台保有しています。神奈川県は予算を立てて導入検討しています。この車を導入するにあたり、その地域で誰が仕事としてやってくれるのか、どのような捕獲体制で現場を回るのか計画ができたら、購入しようと準備している県があります。

東京にジビエが美味しいお店があるのですか?

美味しいお店はあるのですが、「美味しい = 適正な肉を仕入れている」のかは、我々もまだそこまでのリサーチが出来ていません。

協会が、間違いない正しいルートで仕入れているお店を紹介できない?

今年度の農水省の事業で行っています。正規ルートで仕入れるジビエのお店を、日本ジビエ振興協会のホームページで紹介しています。今後順次増やしていく予定です。
http://www.gibier.or.jp/shop-map/

そうなると嫌がるお店もでてきますね

厚労省や農水省も、認証を取ったところに関しては国としてアピールします。しかし、「それ以外は駄目」とは言わないと思います。一線引くという事が流通の規格の主旨になります。

先程お伝えした、流通の規格は全国500以上ある処理施設が適正に捌いているとか、基本的にはガイドラインを守っているというのが大前提ですが、ガイドラインは自己申告制なので縛りがないため、いつ食品事故が起きてもおかしくない肉が流通しているのが現状です。

夢はありますか?

ジビエが一般の家庭にもしっかり食材として、日本の食文化の中に根付く事が夢です。学校給食でも使う、スーパーでも手軽に買える、普通の食卓に今日は鹿肉が並ぶ。そのように文化になっていかないとジビエは広がっていかないと思います。

パテ アンクルート

シカパイ包み

ジビエフルコース

野ウサギと仔イノシシ

ジビエ食材(冬)

マルカッサン(仔イノシシ)骨付きロースのロティ パースニップを包み込んだパイアッソン添え

蝦夷雷鳥半身のポワレ
赤ワインとジュニパーベリー香るソース

空気銃で仕留めた青首鴨のポワレ 血のソース

山鳩のサラダ

山鳩パイ包み焼き

山鳩ロティ

仔イノシシ

仔イノシシ生ハム

自家製信州産仔イノシシの骨付き生ハム

鹿肉のテリーヌ・メリメロサラダ添え

鹿肉料理食卓

プロ向けジビエ講習会

関係者向けジビエ講習会

ジビエサミット和歌山

あずみ猪そば

ジビエバーガー

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

ジビエ肉は日本人には馴染みのない食材ですよね。だから積極的に食べてみようという方はまだまだ少ないのが現状です。ジビエは硬くて臭いではなく、天然物として食べていただきたいです。

日本人は魚に関しては天然にこだわりますが、野生動物にも家畜にはない天然の美味しさがある事を知っていただきたいです。

藤木さんの想い

ジビエは食材として美味しいです。そして日本の農家さんが鳥獣被害で大変困っています。「ジビエが広がる事 = 日本の農業を助ける事」になり、日本の農業を再生させていきたいです。

▽一般社団法人日本ジビエ振興協会 [BLUE SHIP団体ページ]
https://blueshipjapan.com/crew/japangibier

▽オーベルジュ・エスポワール [BLUE SHIP団体ページ]
https://blueshipjapan.com/crew/auberge-espoir

取材・写真:上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)http://jojucamera.com